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怪談マンスリーコンテスト12月結果発表!【お題:信仰に纏わる怖い話】
昨年最後のマンスリーコンテストのお題は「信仰に纏わる実話怪談」。たくさんのご応募をありがとうございました。
結果発表
☆最恐賞
「ミ様」 中村朔
☆佳作
「鎮守神様」月の砂漠
「拾ってはいけない」隠人籠屋
「廃屋の神様」墓場少年
最恐賞全文
「ミ様」 中村朔
Nさんの実家は、山岳信仰の残る山奥の集落にある。
集落には屋敷神を祀る家が多く、Nさんの家の裏庭にも「ミ様」と呼ばれる祠があった。「ミ」というのは頭文字らしく、正式な名前は知らない。祠の扉はいつも閉ざされていて、中を見たことはなかった。
Nさんには年の離れた二人の兄と二つ下の弟がいて、全員の名前に漢数字が入っていた。それ自体は珍しくないが、長男から一、二と順番ではなく、バラバラな数字が与えられているのが変だった。また、家では男にだけ手製のお守りが与えられ、家を含む山間部にいる間は外すのが禁じられていた。
Nさんは長女で、名前に漢数字はなくお守りも与えられなかった。弟はことあるごとに、「お守りももらえないくせに」と馬鹿にしてきた。
中学生の頃、弟と喧嘩したNさんは頭にきて、弟が昼寝している間にこっそりとお守りを開いた。中には和紙が入っていて漢数字がひとつ書かれていた。弟の名前にある数字とは別の数字だ。その紙を「バカ」と書いた紙に替えた。
笑いを堪えていると、弟が唸り始め、目を閉じたまま狂ったように叫びだした。祖父が血相を変えてやってきてお守りを開いた。そして中身がすり替わっていることに気づくと、Nさんを睨みつけた。慌てて元の紙を渡すと、祖父はそれを弟の口に押し込み、むりやり飲みこませた。弟は徐々に落ち着いて再び眠った。あとで聞くと、暗闇の中、何者かが「ごめんなさい」と謝りながら追いかけて来る夢を見たという。
散々怒られたあと、祖父にお守りの意味を教えられた。
中に書かれていたのは「誑(きょう)」という数字で、ミ様から弟の存在を隠すためのものらしい。男子の名前に漢数字があるのも、ミ様を避けるための呪であるそうだった。
「うちの家の男は、ミ様に見つかると山に連れて行かれる。ミ様は目が見えないから、お守りを身に着けていれば見つからない。それでも見つかったら、誑を飲む」
弟は一度見つかったので、お守りを持っていても見つかる可能性が高いという。祖父は弟のものとは別のお守りをNさんに渡して、
「弟の面倒はお前が見ろ。ミ様が来たら、中の誑を飲ませろ」
と言った。翌週、Nさんと弟は都市に住む親類に預けられた。
「弟は今も憎たらしいですよ。でも私のせいだから、ちゃんと見てやらなきゃって」
現在、Nさんは東京で、大学生になった弟と住んでいる。
お守りを首から下げて暮らすことにも、すっかり慣れたそうだ。
総評
12月のお題は「信仰に纏わる怪談」でした。信仰、狭義の意味では宗教的概念として神や教義を信じること、広くは宗教のみならず何かの対象を絶対的に信じる、信奉することにも使われるでしょうか。応募作の中にも、昨今流行りの「推し文化」を信仰と捉える作品もいくつか寄せられ、なるほどと思いました。
最恐賞は、山岳信仰の残る地域の屋敷神に纏わる怪談「ミ様」。土着の宗教、土俗的な神の話は怪談の中でも人気のジャンルです。それを包括する村怪談、田舎の怖い話なども同様で、そこには薄暗さだったり、忌まわしさだったり、隠されたものの匂いが色濃く漂っていて、それを覗き見たいという本能が我々にはあるのではないでしょうか。
地域や一族に限定された土俗的な信仰の怪談は今回数多く寄せられ、どれも面白く拝読しました。中でも「ミ様」は描写・設定が詳細でリアリティがあり、ともすれば「男系が呪われた一族」というおどろおどろしさだけで終わりかねない話ですが、家族の物語として味わい深い怪談に昇華されている点をとくに評価いたしました。
佳作1作目の「鎮守神様」月の砂漠は、実家の物置に祀られている父と瓜二つの顔をした人形の奇譚。こちらは真実に近づくことすらできぬまま話は閉じられますが、父親の複雑な感情が読み手に伝わってきて、やはり怪異とともに人間ドラマを垣間見ている心持ちになる点が魅力。
2作目「拾ってはいけない」隠人籠屋は、山や海のものは神のものであるから無暗に持ち帰ってはならないという教訓めいた怪談ですが、祖母の語りの中で淡々と語られることにより説教臭くならず、民話的な味わいを残せている点が良かったと思います。
3作目「廃屋の神様」墓場少年はテンポよく軽妙な怪談で、怖さだけではないある種のおかしみもあり、よく纏まっていたと思います。人間同様に神にも心があることに納得と共感を覚えました。
全体講評としましては、説明臭さであったり、思い込みや推測による断定だったりがやや目立つ印象をもちました。実はこういうことだったんですよというのを最後の最後に駆け足で詰め込んでいる作品が多かったように思います。神仏に対して明らかに不敬な行為や、禁忌に触れたと思しき不穏な描写があり、その後、誰かが死ぬ、不幸が起きるといった場合、「祟られて死んだ」「祟りが起きた」と書き手の視点で書いてしまうのは正しくないように思います。第三者、例えば周囲のものが祟りだと噂した、というのは別として、取材者(書き手)の視点としては、ただ「死んだ」「不幸が起きた」という事実だけをそっと置く(書く)ことのほうが、公平さと冷静さを保てており、読者に想像と判断の余地を残せているのではないでしょうか。禁忌と不幸の因果関係をあまりに自然に認めてしまうのは少々危険です。息を吸うが如く断定してしまっては、本来伝えたい怖さもどこか半減してしまいます。この世でもっとも怖いことは、「わからないこと」でありましょう。理由がわかれば対処の方法も見えてきますが、わからないことにはなす術もないからです。事実と事実を安易に結ばず、触れそうで触れない距離に置いておくことでそのあわいに恐怖は自然と満ちてくる、そのような書き方も一つの方法としてトライしていただけるとよいかと思います。
選考過程
一次選考通過
「北へ」 横田 隆
「地蔵」 柳下どじょう
「睦月の蝶」 横田 隆
「祠」 香久山 ゆみ
「具現化」 骸烏賊
「子授け祈願」 碧絃
「拾ってはいけない」 隠人籠屋
「地下室」 唎酒師のカズ
「小さな漁師町 碧絃
「チミ(爪)」 でんこうさん
「推し」 吉田六
「僧の群れ」 みなつき
「元旦の行事」 碧絃
「次男教」 黒野洋司
「もう一人」 瑞雲閣 華千代
「破戒」 花園メアリー
「信じるイボ」 あんのくるみ
「声を発してはいけない」 沫
「アブラムシ」 佐藤健
「改宗」 杜 志成
「教室の中の信仰の話」 犬飼亀戸
「ミ様」 中村朔
「家族壁」 骸烏賊
「木の神様」 犬飼亀戸
「鎮守神様」 月の砂漠
「塩むすび講」 月の砂漠
「ハンドメイド」 薊桜蓮
「真冬の葬列」筆者
「死霊に賄賂」 のっぺらぼう
「原因は不明なり」 薊桜蓮
「田の神」 横田 隆
「廃屋の神様」 墓場少年
「心変わりを待っている」 千稀
二次選考通過
「信じるイボ」 あんのくるみ
「声を発してはいけない」 沫
「アブラムシ」 佐藤健
「改宗」 杜 志成
「ミ様」 中村朔
「家族壁」 骸烏賊
「木の神様」 犬飼亀戸
「鎮守神様」 月の砂漠
「塩むすび講」 月の砂漠
「真冬の葬列」 筆者
「原因は不明なり」 薊桜蓮
「廃屋の神様」 墓場少年
「破戒 花園メアリー
「心変わりを待っている」 千稀
「もう一人」 瑞雲閣 華千代
「推し」 吉田六
「拾ってはいけない」 隠人籠屋
「小さな漁師町」 碧絃
最終選考
「信じるイボ」 あんのくるみ
「アブラムシ」 佐藤健
「ミ様」 中村朔
「鎮守神様」 月の砂漠
「真冬の葬列」 筆者
「原因は不明なり」 薊桜蓮
「廃屋の神様」 墓場少年
「拾ってはいけない」 隠人籠屋
1月の募集案内
現在怪談マンスリーコンテストでは1月のお題「蛇」を募集中です。
締切は今月31日まで。
皆さまのご応募お待ちしております。応募は一人3作まで。
●1000字以内の実話怪談(※1人3作まで応募可)
●締切:2025年1月31日
●発表:2025年2月17日
●最恐賞1名:Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス
●佳作3名:2月の新刊怪談文庫よりお好きな3冊をプレゼント
応募の受付は➡https://kyofu.takeshobo.co.jp/post/
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