見出し画像

怪異を調査・分析・考察する…野暮でロマンな怪談本爆誕!『黄泉とき 怪談社禁忌録』著者コメント&丸ごと1話試し読み

「それ気のせいだと思います」

開かずの間の共通点。
遺体が動く意味。
存在が記憶から消える系。

怪異を分析・考察する「読み解き」の果てに絞り出される一滴の恐怖。
野暮でロマンな怪談本爆誕!


あらすじ・内容

説明のつかぬ怪異をあえて分析、調査し、考察する。
膨大な類例から傾向と真相を炙り出す手法から、
取材に取材を重ね、隠された事実を掘りおこす試みまで、
野暮を承知で怪の読み解きに挑んだのが本書=黄泉ときである。

・ひとりでに鳴るピアノの原因
「開かずの間」の意外な共通点
「黒いひと」が出る土地の因果
「墓をつくる」子どもの真意
・類話から考える「出逢い」の謎
・雑貨店に現れた老人が語る「動く遺体」の原理
・交換日記に書かれた「不気味なメッセージ」の犯人
・三人が同時に視た「笑うおんな」の真相とは――。

一見無粋な試みから浮かび上がるのは拭えぬ恐怖と心、魂の本質である。
野暮なロマン「それ気のせいです」の先をご覧あれ。

著者コメント

 皆さま、ご無沙汰しております。怪談社の書記、伊計翼です。お元気ですか。私は相変わらず地下牢のような書記室に閉じこめられていますが元気です。この前、糸柳さんとどこかの寺の住職のようなひとが私の部屋のドア(防弾ガラス壁)の前を通りましたが、こっちをみてもくれなかったので寂しかったです。最近、部屋の土壁を少しずつ掘って穴をあけて脱出を企んでいます。大丈夫ですよ、女優の大きなポスターを貼って穴を隠していますから。はやく皆さんにお逢いしたいなあああ。
 それはそうと、このたび『黄泉とき 怪談社禁忌録』というどちらがサブタイトルなのかわからない新刊が発売されます。怪異を別の怪異の例で考察するという驚天動地未曾有の怪談本となっております。編集のかたが「面白かったですよ」と仰ってくれたので、何冊くらい刷るのか尋ねたところ一切の返事なく出版に至るわけですが、不屈の精神でがんばっております。今年の夏は大変に暑いと聞いておりますので、是非『黄泉とき』で涼しくなってくださいませ。         平成三十五年 夏  伊計翼

試し読み

「橋の上にて」

 私が幼稚園に通っていたころの話です。といっても私自身はまったくそのときのことを覚えていないので、のちに母から聞いた話ですが。それでもよろしいですか。
 幼稚園には母が自転車で連れていってくれていました。自転車のうしろのシートに私を、前の補助席には幼い妹を座らせていました。毎朝、大変だったと思います。
 幼稚園までの道中、妹のようすが変だったって母がいうんです。
 ばたばた両手を動かして、やたら暴れる。
 危ないからじっとして。母がそういっても、いうことをきかない。しばらくすれば治まるのですが、毎日それを繰りかえすので、そのうち母も気づいたんです。
 妹が暴れるのはいつも決まって同じ場所、橋の上を通過しているときだって。
 さらに暴れるとき妹は、いや、あっちいってッ、となにもない方向にむかって手をバタバタ動かす。妹にはなにか視えているかもしれない。そう母は思ったそうです。
 でも、それもしばらくしたら、なくなってしまった。
 思いだすと、あの時期はなんだったんだろうといまでも不思議になるそうです。
 その橋、地元のひとはよく知っているんですが――戦時中、空襲で被害がでたとき、
 酷いことになったので有名なんです。浮いた死体で川の水面が埋めつくされたって。
 やっぱり妹には、戦時中に亡くなったひとたちが視えていたんですかね。

 想像力が豊かな子どもが、夢想して遊んでいただけという可能性も否めない。
 しかし、子どもの奇妙な行動でこんな例があるのも事実だ。
 ある保育園で勤めだした保育士が、子どもたちの妙な行動に気づいた。
 園内のお庭(グランド)で遊んでいるとき、数人の園児が紙コップに水を汲んで木陰に持っていく。花に水をあげているのかと思った保育士がようすをみにいくと、ただ木の根元に紙コップを並べているだけだ。なぜこんなことをしているのか訊いてみると、
独特の口調で「あちゅくて寝ている子、かわいそうだから」と答えた。
 意味がわからなかったが、あとで他の保育士に尋ねると「最近はないけど、むかしはよく熱中症になった子をあそこで休ませていたのよ。誰か死んだわけでもないのに。あの子たちには、なにが視えているんだろ?」と首をひねっていた。
 一年に数度、季節を問わず同じような行動をとる園児が現れるらしい。
 過去にあったことを的中させているようで興味深い話である。
  
 問題の橋――東京にある吾妻橋という名称だが、確かに戦時中その付近一帯の被害は酷いことになったという記録が残っている。実際に現場周辺で取材をすると、死体で水面が埋まったのを目撃したというご老人たちから話を聞くこともできた。

 ただ体験者の妹が本当に視えていたとしても、それが空襲で亡くなったひとだと断定するのは早計である。なぜなら近辺に住む高齢の男性はこのようにいっていた。
「この橋は戦前よりもずっと前、江戸時代から身投げで有名な場所だったと聞いています。戦争で大勢が亡くなる前から、この橋には死が染みついているんですよ」
 

ー了ー

◎著者紹介

伊計翼 Tasuku Ikei

怪談蒐集団体、怪談社の記録書記。2010年デビュー。単著に「怪談社十干」シリーズ、「怪談社THE BEST」天邪鬼シリーズ、『怪談社書記録 赤ちゃんはどこからくるの』『魔刻百物語』『あやかし百物語』『恐国百物語』『怪談師の証 呪印』『怪談社書記録 蛇の目の女』など。

好評既刊