【第17話】人が焼けると、どんな煙が出る? あわや大騒ぎな火葬場ケムリ始末【下駄華緒の弔い人奇譚】
―第17話―
火葬場で気をつけないといけない事の一つに「煙を出さない」というのがあります。
何故かというと、みなさんも想像してみてください。もし火葬場から真っ黒な黒煙がモクモク出たとして、あなたはその近くのマンションに住んでいてもしベランダで洗濯物を干していたら……。
当然、火葬場に苦情の電話が来る事は容易に想像出来ると思います。また、そこまでではなくてもやはり煙が出ているだけで見た目と申しますか……あまり印象が良くないという事で「煙」には細心の注意を払って業務を行なっていました。
その中で、故人様というのは当然様々な個性があります。人は個性を持って生まれてきますが、死んでいてもそうです。
なので、同じように火葬をしても人それぞれ個性があるので常に同じ振る舞いをするわけではありません。煙の出やすい、出にくい人というのは確実に存在します。
黒煙が出る、という事は燃焼の3要素から考えて「燃焼し過ぎて酸素が足りない」状態であると考えられます。全てではないですが、経験上、体の脂肪が多い人ほど煙が出やすい印象です。脂肪が多いと遺体自身が物凄い勢いで燃えるので、そこにさらに火を当てると燃えすぎて炉内の酸素が足りなくなる…という理屈です。
ぼくの働いている火葬場では煙の出やすいご遺体を敬意を込めて「煙仏さん」(けむりぼとけさん)と呼んでいました。そのなかで、ある日こんな事がありました。
「ちょっときてくれ!」
と火葬場職員歴15年のベテラン技師が職員4名(僕も含めて)がいる休憩室に慌ててやって来ました。
職員全員で炉裏(実際に火葬を行う場所)に行くと「物凄い勢いで燃え続ける煙仏さんでどうしようも無い!」と言うんです。
実際に小窓を開けて覗いてみると、確かにご遺体自身が物凄い勢いで燃えていて外に出て煙突を見ると、見たことがないくらいモクモクと黒煙が出ていました。「これはマズイ!」という事で、火を止めたり空気をさらに送り込んだり色々試行錯誤をしたのですがどうやってもおさまらず、ついに火葬場に苦情の電話が来てしまいました。
その対応は一人に任せて残りの全職員でなんとか必死に対応していると、次は「ウ〜! ウ〜!」とけたたましいサイレン音が火葬場に響き渡りました。
なんと消防車でした…。
後々分かったことですが、苦情の電話をかけてきた方が呼んだみたいなんですが…。
なので、そこからさらに一人を火葬場にいらっしゃる他の遺族さん達に「大丈夫です!ご心配おかけしております!」という説明と挨拶回りに行ってもらい、残りの職員でまた煙仏さんになんとかおさまってもらおうと必死になる、というなんともドタバタした経験があります。
でも、なんとなくなんですがぼくは煙が好きです。モクモクと出る黒煙は流石にちょっとダメですが、なんとなく故人さんがふわふわと気持ちよく天国に行ってるようで……
いってらっしゃい、って心の中で小さく呟いていました。
著者紹介
下駄華緒 (げた・はなお)
2018年、バンド「ぼくたちのいるところ。」のベーシストとしてユニバーサルミュージックよりデビュー。前職の火葬場職員、葬儀屋の経験を生かし怪談師としても全国を駆け回る。怪談最恐戦2019怪談最恐位。