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【1月29日発売】市井の怪談を聞き集めて12年。「超」怖い話 干支シリーズ完結!『「超」怖い話 巳』(加藤一/編著、久田樹生、渡部正和、深澤夜&いななほ、小田付ハツゐ/共著)内容紹介&著者コメント&試し読み!【1/29発売】

「超」怖い話 干支シリーズ
2014・丑~2025・巳
終わりにして、始まる――新たな怪異蒐集の旅!

あらすじ・内容

「あのダム、疑似餌で人を釣るんだ」
釣り人が転落死するダムに浮かぶのはウキのような人魂で…
――「疑似餌」より

東に祟られた人がいれば駆けつけ、西に呪われた人がいれば行って話を聞き、南に取り憑かれた人がいれば心の丈を吐き出してもらい、北に力尽きた人の遺したものがあればそれをできるだけ具に拾い集めていく(巻頭言)
――本書はそうして世に生まれた聞き書き怪談録である。

ある人が臨死体験で見た世界…「問い」
古民家の庭に放置された空の檻から聞こえる唸り声…「売り物件」
母を襲う蛇を必死で殺す夢の意味…「蛇」
廃屋の撮影中に鳴る笛の音と押入れから出たリコーダー…「魔境の笛」
転居先で出会った少年に連れられて行った長屋で見た四人の不気味な母…「母ちゃん」
旅館に掛けられた動く少女絵…「日の丸構図」
入居すると双子を孕む部屋…「3LDK」
蛇が因縁と鍵となる凄絶な忌み家…「執着ーある約束」
他、生々しい恐怖が息づく46の怪!

午年から始まった「超」怖い話 干支シリーズが1周回り、巳年にて完結。
しかしウロボロスの蛇の如く、本書は終わりであり始まりである。
25歳以下の怪談作家を募集する大会「超-1/U-25」より見出された二人(いななほ、小田付ハツゐ)の若い血が本書にそそがれた。
ひとつの終焉とともに新時代の到来をここに宣言したい。

編著者コメント

2014年から始まった「超」怖い話 干支シリーズ、ナンバーズ通巻56巻目となる本作『「超」怖い話 巳』にて、ついに満願成就で完走しました!
次の節目は「60巻」ですが、もうこうなったら100巻を目指して金字塔ブッ立てたいと願っています。
そのためには次世代育成が!
ということで、昨年の『「超」怖い話 辰』で、新人獲得のための超-1/U-25開催を宣言した訳ですが、今回はその結果がどうなったのか? の答え合わせ回でもあります。
ちょっとだけネタバレすると、「あのピーキーな募集要項を満たした応募者が出た」ということです。
「超」怖い話にその身を捧げてくれる著者の参入をお楽しみに。

4代目編著者・加藤一

試し読み

「母ちゃん」より抜粋

 昭和後期の頃に、東北地方の某所にて池下さんが体験した話になる。

 朝から陽光の照りが激しい、夏の暑い盛りだった。
 父親の転勤で都内からこの地に引っ越してきて、小学校二年生のクラスに転入していた。
 ところが地元の子供達だけで構成されたクラスの輪になかなか入っていけず、独りで行動することが多かったのである。
 その日も折角の日曜日であったが、朝食を済ますと、自宅から歩いて十分程度のところにある小川の川縁で独り、遊んでいた。
 平らな石ころを見つけては川面に投げて水面を撥ねさせる、所謂水切りに熱中していると、いきなり背後から声を掛けられた。
「おめェ、東京モンが?」
 慌てて振り向くと、頭を五厘刈りにした青坊主の真っ黒に日焼けした子供が、険しい目つきをしながらいつの間にか背後に立っていた。
 着ている服は見窄らしく、所々黄ばんだ白いランニングシャツと薄汚れた半ズボン姿に、親指部分に穴が開いたズック靴を履いている。
 痩せぎすで背丈は池下さんよりもかなり低かったので、恐らく百センチ程度と思われる。
 自分と同じ年頃なのであろうが、青っ洟を何度も何度も啜りつつ、池下さんの姿を珍しそうに眺めている。
 余りにもじろじろと見られているので恥ずかしくなり、その問いに対して控えめにこくりと頷く。
「水道から出でくる水がドロドロしてるって、ホントなんが?」
 言っている意味が分からなかったが取りあえず頭を左右に振ると、目の前の険しい表情が一気に和らいだ。
「んだべな。んだと思っでだ!」
 にかっと笑ったその表情が妙に眩しくて、池下さんが思わず視線を逸らしたそのとき、予想もしていなかった言葉が投げ掛けられた。
「おめェ、俺んちで遊ぶべ? 俺、ヨシダっていうがらよ。いいべ? な? な?」

 引っ切りなしに喋り散らすヨシダの話を聞き流しながら、遊んでいた小川を上流に向かって歩き続け、おおよそ十分後。
 目の前には、細長い平屋の建物が三つほど並んでおり、その全てが揃いも揃って見事なまでに薄汚く煤けていた。
 初めて見る光景に目を奪われて、思わずあちらこちらに視線を動かす。
 ヨシダは、池下さんには目もくれずに、独り歩み続ける。
 すると、少年の足が、ふと止まった。
 川沿いに面した長屋物件の一番端っこが、彼の住んでいるところなのであろう。
 チラシが溢れ出た郵便受けを開けると、右手を突っ込んで鍵らしきものを取り出した。
「……こご」
 あんなに饒舌だったヨシダが、何の前触れもなくいきなり無口になっていることが気に
はなったが、とにかく池下さんが部屋に入ろうとしたとき。
 ヨシダに続いて、右足が玄関に入りかけたところ。妙な視線を感じて、足を止めた。
 辺りを確認するかのようにあちらこちらへと視線を遣る。
 左右には何もなかったので、背後を振り返った途端、はえー、といった間抜けな声が意図せず漏れ出てしまう。
 それもそのはず。いつの間にか、見知らぬ女の人が脚立の頂上に座って、じっとこちらを見つめていたのだ。
 勿論、先ほどまで誰もいなかったし、脚立なんて何処にもなかった。
 年齢は四十歳前後であろうか。薔薇の模様が入った白い薄手のワンピースを身に纏って、泥で汚れた裸足をぶらぶら動かしている。
 顔の化粧は所々剥げ落ちており、大分昔にセットしたらしき髪型は無残に乱れていた。
 紫がかった口紅は妙に鮮やかで、黒目がちな眼とあいまって、異様な雰囲気を醸し出している。
 まるで射貫かれてしまうほど鋭い視線を浴び続けて、池下さんはそのまま動けなくなってしまった。
 そのとき、ヨシダが大きい声でこう言った。
「やめでけろ、な。母ちゃん、やめでけろずっ」
 その声を聞いた瞬間、池下さんは我に返った。
 そして、急いでヨシダの住んでいる部屋へと入っていった。

※続きは書籍にて※

著者紹介

加藤一(かとう・はじめ)

1967年静岡県生まれ。老舗実話怪談シリーズ『「超」怖い話』四代目編著者。近著に『「弔」怖い話 黄泉の家』、主な既著に『「弩」怖い話ベストセレクション 薄葬』、「超」怖い話、「弔」怖い話、「忌」怖い話、「極」怖い話の各シリーズなど。

久田樹生(ひさだ・たつき)

1972年生まれ。九州南部を拠点に、実話怪談の執筆、実録怪異ルポ、ホラー映画のノベライズ等にて活動。代表作に『宮崎怪談』『熊本怪談』『忌怪島〈小説版〉』『犬鳴村〈小説版〉』ほか東映「村」シリーズなど。

渡部正和(わたなべ・まさかず)

山形県出身、O型。2010年より冬の「超」怖い話に参加。2013年、『「超」怖い話 鬼市』にて単著デビュー。主な著作に『鬼訊怪談』『「超」怖い話 鬼窟』『「超」怖い話 隠鬼』など。

深澤夜 (ふかさわ・よる)

1979年栃木県生まれ。2014年より冬の「超」怖い話に参加。2017年『「超」怖い話 丁』より夏も兼任。近著は『「超」怖い話×中山市朗』(中山市朗、深澤夜、松村進吉/共著)、編著に『栃木怪談』(松本エムザ、橘百花/共著)など。

超1/U-25大会#2024 通過者

いななほ

小田付ハツゐ

好評既刊

「超」怖い話 午
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