小説投稿サイト〈エブリスタ〉×竹書房が選ぶ〈最恐小説コミック原作大賞〉受賞作!推理デスゲーム『屍喰鬼《グール》ゲーム』あらすじ紹介&冒頭を公開!
デスゲーム×孤島の密室ミステリー
あらすじ紹介
目が覚めるとそこは孤島の廃病院だった。
いまだ朦朧とする意識の中、集められた男女に次々と打たれていく注射。
その中の1本に、生きている人間を、人肉を食べないと死ぬ化け物=屍喰鬼に変えてしまうウィルスが!
運営の目的すら分からぬまま地獄のゲームに放り込まれる参加者たち。
ゲームの期間は7日間。
1日1回、裁判が開かれ、グールだと思うものを多数決で決めて処刑する。
予想が当たれば参加者の勝ち。
だが、外れれば罪なき者が処刑され、その夜は誰かがグールの餌食となる。
1人、また1人と消えていく参加者たち……。
果たして、グールは誰なのか?
クセモノ揃いの31人。
出口なき廃墟の中で始まる殺戮と推理のデスマッチ!
***
「誰が怪しいと思いますか?」
これは正義の裁判ではない。
生存率をあげる唯一つのチャンスなのだ。
その人が「本当にグールかどうか」は関係ない。
自分以外の誰かから排除していく消去法だ。
信じる信じないよりもむしろ――
誰なら犠牲にしても構わないのか?
「さあ、生贄の順番を決めよう」
著者コメント
本文冒頭(第1章抜粋)公開
第一章 ゲーム開始
いきなり始まったソレ
遠くから白い光が迫る。
ふわふわと空を飛んでいるような。
おーい、おーい、おーい。
わたしは鳥になったんだろうか?
*
目がさめると、そこにいた。
どこかの建物のなか。それも、かなり大きな建物のようだ。広いエントランスホール。人工の照明が明々とあたりを照らしている。
わたしの目の前に白い服を着た人が立っていた。顔はマスクやゴーグルで隠され、手にも青いビニールの手袋をつけ、よくテレビなどで見る感染病棟の医療従事者みたい。 意識がもうろうとしてる。なんとなく体がだるく、自分の状況を把握できない。
よく見れば、わたし以外にも、まわりにたくさんの人がいる。
それを見て、初めてギョッとした。みんな両手足を結束バンドで縛られてる。その上で椅子に固定されていた。
もしかしてと思ったら、やっぱりそうだ。わたしもそうされてる。自分の体を見おろすと、胸に名札がついていた。角度が悪くて文字が読めない。
名前……名前……わたしの名前……。
不思議と思いだせない。
自分がどこの誰で、今ここで意識が戻る前、何をしていたのか。
こういう状態を記憶喪失というんじゃないかってことは知っていた。つまり、記憶全部が消えてるわけじゃない。何かのショックで一時的に混乱してるのかもしれない。
そんなことをぼんやり考える。
目の前の白衣を着た人物が、注射器を手にしていた。もともとアンプルは入ってたみたいで、わたしの服の袖をまくって針を刺してきた。かすかな痛み。よくわからない奇妙なピンク色の液体が、わたしの体のなかに入ってくる。
白衣の人はほかにも数人いた。手ぎわよく次々と拘束された人たちに、同じピンクの薬剤を注射していく。
そのせいか、またもや意識が混迷してきた。眠ってしまったんだと思う。
どれくらい時間がたったんだろうか。
わたしはまた目をさました。
さっきとほとんど状況は変わってない。でも、白衣の人たちはいなくなってた。それに、手足の拘束もとけてる。
エントランスホールには全部で三十人ていどの人がいた。ぐるっと円を描いてならべられた椅子にすわらされてる。男もいれば女も。年齢は十代後半から四十代までだ。
わたしは気になってた名札を持ちあげて、そこに記された自分の名前を見た。
〈結城詩織〉
それがわたしの名前らしい。
ほかの人たちも目をさましつつあった。
いったい、これはどういうこと?
なんで自分はこの人たちと、知らない場所にいるの?
戸惑ってると、とうとつに天井から声が降ってきた。マイクを通した音だ。この建物のなかには館内放送をする場所がある。
「あなたがたは被験者です。さきほど、全員に注射を打ちました。その多くはただのビタミン剤です。ただし、被験者のなかで一人だけ、我々の開発した試験薬を注入しました」
試験薬の被験者。
新薬の治験のアルバイトの話は聞いたことがある。だけど、わたしはそんなものに申しこんだ記憶がない。そもそも、ほかの記憶もないけれど……。
もしかして、わたし、何かの治験に申しこんだのかな? それで記憶がなくなるようなそんな薬を使われたの?
そう考えれば、あるていど納得はいく。
アナウンスはさらに続いた。
「試験薬の効果をこれから説明します。きわめて重要な事項なので、みなさん、よく聞いておいてください。その薬品の正式名称はまだ内密にさせてもらいます。かりに、グールウィルスとしましょう」
グールウィルス……何かのウィルス?
でも、ふつう治験では薬の効果を試すものだ。ウィルスを注入するなんて、ありえない。
「ウィルスと言っていますが、ウィルスではありません。この被験者と接触しても、第三者には感染しません。みなさんにわかりやすい便宜上の呼称にすぎないのです。この薬品は人間をじょじょにむしばみ、一週間以内に特効薬を打たなければ死にいたります。体内のタンパク質が過剰に分解され、神経系等に異常を起こしたり、症状が進めば身体の一部がくずれおちます。端的に言えば、細胞が壊死します」
とつぜんおかしなことを告げられ、周囲がざわめく。
「壊死? 何言ってるんだ?」
「体がくずれるって……」
「やだ。そんなの……」
泣きだす女の子もいる。
わたしだって身ぶるいがした。もしも自分がその一人だったらどうしよう。そんなの絶対にイヤだ。
「ただし、進行を食いとめる方法が一つだけあります。グールウィルスのおもな症状はタンパク質の分解です。人体のタンパク質の喪失は人体からのタンパク質で補えます。つまり、一日一回、人肉を食べてください。量は成人の片腕半分でけっこうです。そのようにすれば、壊死をふせぎ、進行を遅らせられます」
悲鳴があがる。
なんてこと。
人肉を食べる? 嘘でしょ?
そんな恐ろしい行為をしなきゃ生きられないなんて、いくらなんでも治験の域を超えてる。倫理的にゆるされないんじゃないの?
アナウンスは続いた。
「さて、グールウィルスが投与されたのは、みなさんのうちの一人だけです。ほとんどの人には何も起こりません。しかし、放置しておけば、みなさんはグールに食べられてしまいます。そこで救済措置として、一日に一度、夕食のあとに裁判をひらきます。みなさんは相談の上、グールだと思う人を決めてください。我々がその人を拘束し、処分します。処分が成功すれば、翌朝の犠牲者はありませんから、グールは始末されたことになります。その時点でみなさんはここから解放されます」
「処分? それって、処刑、するのか?」と言ったのは、背の高い青年。二十代なかばで、わりとイケメン。学生時代には運動部のキャプテンをしてましたって感じ。沢井、という名字が名札に記されていた。
「さようです。我々もすでにどのアンプルにグールウィルスが入っていたのかわかりません。ランダムに投与しましたので。処分しなければ、屍食は止まりません」
わたしはふるえが止まらなくなった。
そうだ。さっきは自分がグールになってたらとしか考えなかったけど、確率から言えば、そうじゃない場合のほうが高い。誰かわからないグールに殺されて、食べられてしまうかもしれない。
「で、でも……」と、今度、口をひらいたのはメガネをかけた細身の青年だ。これも二十代。席が遠いので、名札は見えない。
「でも、グールになった人が必ず人を殺して食べるとはかぎらない。だって、自分がそうだとわからないかもしれない」
なるほど。そのとおりかも。それに自分がそうだとわかっても、人を殺したり、食べることにためらいをおぼえない人なんていないはず。迷ってるうちに病気が進行してしまう。
わたしはそう思ったんだけど、その考えはあっけなく否定された。
「グール化の兆候は数時間で現れます。当事者はただちにわかります。また、兆候が現れたのち数時間のうちには、タンパク質を補充しようという本能が強烈な飢餓感となって本人を襲います。飢餓状態のときには理性がいっさいききませんので、確実に一日ぶんのタンパク質を摂取するまで本人の意思はなくなります」
つまり、グール側はその他の人たちのために、何一つ手心をくわえてくれない。羊の群れのなかにライオンが一頭まじってるのといっしょだ。しかも、そのライオンはふだん羊の皮をかぶってる。
自分以外の人に対する不信感が、いっきにひろがってくのが目に見えてわかった。誰もが恐怖に満ちた目で周囲の人々を見ている。
たぶん、たっぷり十分は、無言のまま近くの人の顔を、それぞれ、うかがった。
ふいに泣き笑いみたいな声で、女が笑いだす。三十代くらい。どこかやつれて見える女だ。河合、と名札には書かれてる。
「わかった。これ、ドッキリでしょ? なんかのテレビ番組が素人をだまして、おもしろがってるんでしょ? こんなバカバカしいこと、起こるわけないもんね。日本は法権国家なんだから」
そうであってほしいと願うような笑い声が、しばらく響く。
アナウンスは冷たく言い放った。
「でしたら、今夜の裁判をさっそく初めましょう。処刑の場面を見れば、みなさん信じてくださるでしょうから。今から十分間、みなさんに猶予をあたえます。誰がグールなのか、熟慮してください。十分後に多数決で処分する人を決定します」
プツンとアナウンスの切れる音がした。
被験者と言われた人たちは、それでもまだ沈黙でたがいの顔を見あってる。
「これじゃダメだ」
言いだしたのは、さっきの沢井って人だ。
「十分しか時間がない。どうするんだ? みんな。結論を出さないと」
四十代の男の人がうなずく。会社の役員っぽい。高そうなスーツを着てる。名前は木村。
「兆候があるって言ってたろ? みんなで調べあったらどうだろう?」
「でも、どこにどんな形で出るんですか?」
「さあ、わからんが何もしないよりはいい」
「そうですね」
沢井と木村が二人で話すのを、ほかの人たちは見てるだけだ。
さっきの河合という女はまだ笑ってる。
「やっぱりドッキリなんでしょ? 白々しい芝居、いいかげんやめてよ」
なんて、つぶやく声が聞こえた。
「あの、とりあえず、注射跡を調べてみたらどうでしょう? たぶん、壊死が進むとしたら、その部分からだと思うんですよね」
高校の制服を着た女の子がそう言いだしたのでおどろいた。まだ十六、七だろうに、ずいぶん冷静な子だ。そんな考え、わたしには思いつかなかった。
またうなずいて、木村が言う。
「たしかにそのとおりだ。みんな、腕を出してくれ」
何人かは素直に服をめくった。わたしもたしかめてみた。けど、なんの変化もない。たしかに針を刺したあとが、ぽっちりと赤くなってる。それだけだ。
すると、今度はアラサーの派手な顔立ちの女が言う。かなり美人だけど、性格はキツそう。
「兆候が出るのは数時間後って言ってなかった? たぶん、わたしたちが気絶してたのは一時間かそこら。まだ兆候は出てないんだと思うな」
うーん、と木村や沢井がうなる。この状況で誰か一人を処刑するなんてできない。
だけど、十分なんて、あっというまだ。
ふたたび、アナウンスが告げた。
「決まりましたか? 今夜は誰を処分しますか?」
~つづく~
著者紹介
涼森巳王(すずもり・みお)
2014年9月30日より小説投稿サイトエブリスタにて、東堂薫名義で活動。
ミステリーを中心にSF、ファンタジー、ホラーなどを執筆。
主な共著参加作品に『厭結び』『千人怪談』『街角怪談 噂箱』(竹書房)など。
現在は涼森巳王に改名。本作『屍喰鬼ゲーム』にて最恐小説コミック原作大賞を受賞(受賞時タイトル「屍食鬼ゲーム」)。