【第3話】人が焼けるとどんなにおい? 火葬場職員しか知り得ない強烈な嗅覚体験談!【下駄華緒の弔い人奇譚】
――第3話――
においというのは記憶にとても印象が残るようで、葬祭業から離れた今でも道端で寝ているホームレスの人を横切ったときに「あ、もう亡くなってるかも」と分かるようになりました。遺体のにおいを覚えているからです。
くさい、という言い方は不謹慎かもしれませんが揺るぎない事実ですのであえて申し上げますが、くさいのはなかなか辛いものがあります。
火葬場でよく遭遇するくさい場面は火葬中に起こります。デレキという細長い鉄の棒で火葬中の遺体の姿勢を整える際に、お腹周りを触った後はとてもくさいです。ここまでは想像に容易いかもしれませんが意外に一番強烈なのは、脳です。
実は、検死されたご遺体(事件や死因を調べるため)で、頭蓋骨をパックリと切り取られている場合があります。もちろん、検死の後に蓋をかぶせるように頭蓋骨を戻すのですが火葬中に結構カパっと外れる事があります。
そんなとき、触るつもりはなくてもちょっと脳にデレキが当たってしまうこともあります(2メートル近い鉄の棒ですからね)。そのちょっとだけでも、一旦デレキを外に出すととんでもないにおいが襲ってきます。
働くこちらとしては、それがわかっているので、もしデレキに脳が少しでもついてしまったら轟々と吹き出す炎の中にデレキの脳が当たった場所を突っ込み、鉄が真っ赤になるまで加熱してにおいを抑えようと試みます。
真っ赤になってもう大丈夫と思いデレキを取り出すと、努力の甲斐も虚しく、やはりとんでもないにおいが襲ってきます。某サスペンス映画で、かの有名な殺人鬼の博士が人間の脳味噌をフライパンで炒めて食べるというシーンがありましたが、とんでもない。というのが素直な感想です。
逆に良いにおいもあります。メロンや果物を棺に一緒に副葬品として納めた場合、火葬が終わって骨になってもほんのりフルーツの良い香りがします。
さらに、良いかどうかわかりませんが、先程お腹周りはくさいと申しましたがそれ以外の部分に関しては正直、鳥のささみを焼いたような……想像すると気持ち悪いのですが、ある意味、良いにおいがします。
良いと言っていいのかわかりませんが……。
著者紹介
下駄華緒 (げた・はなお)
2018年、バンド「ぼくたちのいるところ。」のベーシストとしてユニバーサルミュージックよりデビュー。前職の火葬場職員、葬儀屋の経験を生かし怪談師としても全国を駆け回る。怪談最恐戦2019怪談最恐位。