2022年2月19日
【今日は何の日?】2月19日:万国郵便連合加盟記念日
1877(明治10)年2月19日、日本が郵便の国際機関=万国郵便連合UPUに加盟したことにちなんで制定された記念日です。
さて、本日の怪談は――
「パニオン」
飲んだくれは誰でも自分の巣を持っている。
行きつけの店、自分が常連として扱われる店、という意味だ。
そういう店で飲むのは安心できる。しかし、それがマンネリに感じられることもある。
「新しい出会い、新しい店、当たりかハズレかわからないワクワクするあの緊張感。漫然と飲むだけじゃなく、そういうエキサイティングな気持ちが欲しくなるんだよ」
江頭課長はそう力説する。
要するに、新しい店に行けば新しい女の子がいる、ということだ。
ふらりと入った店になかなか可愛い娘がいた。
「いらっしゃいませぇ♪」
指名されてボックスシートに座った女の子はずいぶん若く見えた。
昼間は看護学校に通い、夜はこのバイトをしているのだという。
なかなか人懐こく、話もうまい。
「苦学生やってるより、この仕事のほうが適性あるんじゃないの」
などと酔いに任せて冗談を飛ばしていると、水割りを作る手が不意に止まった。
女の子は、じっと江頭課長の顔を見ている。
〈ちょっと調子に乗りすぎたかな〉
一瞬後悔したが、途切れた会話の後、彼女はまったく違う話題を振ってきた。
「ねえ、おじさん。最近、ついてないでしょう?」
「んなこたぁねえよ」
女の子は首を捻った。
「そう? おかしいなあ。絶対何かあると思ったんだけど……」
「なんだい、占いかい?」
「ううん。あのさ、おじさんびっくりしないで聞いてくれる?」
「なんだ?」
女の子は江頭課長の顔……いや、髪をジッと見つめた。
「あのさ、おじさんの髪の毛の中に指と目が見えるんだけど、最近何かしなかった?」
江頭課長はギョッとした。
慌てて自分の髪の中に指を突っ込んだ。
自分の頭の上で、自分の頭の皮ではない何かに触れた気がした。
髪の根元に手を入れた瞬間、ぞわりと背筋が震えた。
「最近、最近……そういや、先週別の店に飲みに行った帰りに立ちションした」
そうだ。
タバコと缶ジュースと花束が置いてあった。
「……おじさん、たぶんそれだよ」
◆
「パニオン」加藤一『禍禍―プチ怪談の詰め合わせ』