『拝み屋備忘録 怪談火だるま乙女』郷内心瞳—大人気シリーズ第5弾!拝み屋・最大のピンチ⁉
拝み屋シリーズ最凶の悪霊!
「焼身自殺をした娘が悪霊になって…」
初めて世に公表される、封印されし禍話「火だるま乙女」収録!
内容・あらすじ
東北の拝み屋・郷内心瞳が綴る大人気シリーズ〈拝み屋備忘録〉第5弾!
・入院中の著者自身に起きた戦慄の恐怖の数々…「白ビル送り」「白き異界」ほか
・若き時分に見舞われた恐ろしくも手痛い怪事…「視えるを描く」
・〈全身火だるまとなった世にも恐ろしい姿で…〉地元の屋敷に纏わる嘘の恐怖譚をでっち上げた少年の周りで不可解で恐ろしい出来事が起き—事態の凄惨さから著者が長年封印していた最凶の禍話…「火だるま乙女」
——など、拝み屋稼業で見聞きした怪異譚や実体験談を多数収録!
おぞましい怪異は、誰の身にも等しく起こりうる…。
著者コメント
怪を語れば怪至る。平素は起こりそうでなかなか起こり得ない怪異という事象も、一定の条件さえ満たせば、時に容易く顕現される場合がある。
お盆の夕べ、身内同士で怪談話を語り合うさなか、その場に居合わせた全員の前で怪異が勃発してしまう「燃える話」も、おそらくはそうした「条件」を満たしたことで起こり得た凶事なのだと思う。彼女は一体、どんな話を語りだそうとしていたのだろう。
新刊『拝み屋備忘録 怪談火だるま乙女』は、表題作を基軸として、火にまつわる怪異を作中の要所に散りばめてみた。茹だるような真夏の盛りに火炎絡みの怪談など、いかにも暑苦しくてうんざりさせてしまいそうだが、蓋を開けばなかなかどうして。
怪異がもたらす妖しい炎は熱いどころか、心胆を寒からしめるほど冷酷にして陰惨である。あるいはなまじの幽霊譚などより、はるかにぞっと感じられるかもしれない。
殊に表題作の『火だるま乙女』は、長らく公にすることをためらい続けてきた、曰くつきの一遍ということもあり、掛け値なしに恐ろしい。興味を抱かれた方は、本書をぜひお手に取っていただき、この世ならざる怪奇の炎で、肌身を蝕む真夏の暑さを吹き飛ばしていただければ幸いである。
試し読み1話
「燃える話」
美容師の円さんが、未だに目に焼きついて忘れられないという話を聞かせてくれた。
今から十五年ほど前、彼女が高校三年生の時だという。
お盆の夕方、遠方に暮らす父方の叔父一家が円さんの家に泊まりに来た。
一家は叔父と叔母、それから中学一年生になる娘の三人。精霊棚を祀った奥座敷にて、円さんの家族と夕餉を共にしながら、先祖にまつわる思い出話に花を咲かせた。
そうした話をしているうちに戸外も次第に暗くなり、話の内容も先祖の思い出話から、いつしか怪談話へと切り替わっていく。
父と叔父が、小さい頃に見たという人魂のことを話したり、母が学生時代に体験した金縛りのことを話したり、内容自体は他愛もないものが大半だったが、その場に揃った大人たちの口から途切れることなく次々と怪しい話が飛びだした。
怪談話に場が盛りあがってしばらくすると、叔父の娘も「あたしにも話させて!」と名乗りをあげた。なんでも、とびきり怖い話があるのだという。
「そんなに怖いのなら、ぜひどうぞ」ということで、彼女が話すことになる。
「えーと、じゃあ、本当に心して聞いてください。この話はわたしの……」
満面に笑みを浮かべ、勿体ぶった口調で話し始めたとたん、ぼわりと大きな音がして彼女の頭が橙色の炎に包まれた。
たちまちみんなの口から悲鳴があがり、娘も巨大な火柱をあげる頭を振り乱しながら金切り声を張りあげる。
彼女の隣に座っていた叔父が、着ていたTシャツを脱いで燃え盛る頭の上に被せると、幸いにも火はすぐに消えたのだけれど、娘の髪の毛は根本辺りまでちりちりに焼け崩れ、ほとんど坊主のようになっていた。
「お前、何を話そうとしていたんだ?」と叔父が尋ねても、娘は泣きじゃくるばかりで、まともな答えは返ってこなかった。
結局、今でも彼女が何を話そうとしていたのかは分からないまま、円さんの脳裏には、突如として頭から火を噴いたその顔だけが、強烈な印象として残っているのだという。
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著者紹介
郷内心瞳 (ごうない・しんどう)
宮城県出身・在住。郷里の先達に師事し、2002年に拝み屋を開業。憑き物落としや魔祓いを主軸に、各種加持祈祷、悩み相談などを手掛けている。2014年『拝み屋郷内 怪談始末』で単著デビュー。「拝み屋備忘録」シリーズ『怪談双子宿』『怪談首なし御殿』『ゆきこの化け物』『怪談腹切り仏』(小社刊)のほか「拝み屋怪談」「拝み屋異聞」各シリーズなどを執筆。