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いつもの通勤・通学ルートで何かが起きている…地下鉄沿線ミステリー!『メトロ怪談』(田辺青蛙・中山市朗・正木信太郎/著)内容紹介+収録話「幻の駅」(正木信太郎)全文公開

日本の地下を徹底取材!
地下鉄とその沿線の怪奇ミステリー!

あらすじ・内容

日本の都市部地下に張り巡らされた路線網。
そこで起きた怪現象、不思議な事件、さらには沿線最寄りの怪スポットを徹底取材した地下鉄怪談の決定版。
お盆に列車で靖国神社へ向かう兵士たち。隊列を追うと…「再会」(九段下)
鵺塚のある近辺で実際に鵺に遭遇した人。鵺は人語を語り恐ろしい予言を…「鵺のいる場所」(大阪・都島)
時空が歪みループする終電(名古屋)
沿線の曰くつきドヤの怪(神戸)
大阪空襲の夜に人々を救った幻の幽霊電車をめぐるミステリー…「空襲時に現れた幽霊地下鉄」(心斎橋)他、怪奇とロマンの全41話収録!

【札幌】
地下構内に出るコロポックル(札幌市中央区)
【埼玉】
存在しない駅で降りた男(浦和美園)
【千葉】
ICカードに記載された亡き祖母の名前(妙典)
【東京】
元運転手が目撃した偽汽車(北綾瀬)
お盆に列車で靖国神社へ向かう英霊たち(九段下)
駅の階段で肩を叩くモノ(渋谷)
【関東】
トイレに並ぶ不気味な列
録音不可の発車メロディー
回送列車に乗る謎の老婆と犬
人から人へ憑いて移る青い男
黄色いヘルメットの霊
【名古屋】
時空が歪む終電(平安通)
人に化けた妖に遭遇する(東山公園)
【大阪】
河童の出る橋(淀屋橋)
幸運を呼ぶ福助の幻(天王寺)
化け狸の棲む古墳(中百舌鳥)
不吉な人語を話す鵺(都島)
UFOが出る古墳(喜連瓜破)
訳アリホテルの奇妙なルール(四ツ橋)
楠の最強癒しパワー(深江橋)
蒲生墓地に出る女の霊 (京橋)
化け狐の托鉢僧(鶴橋)
夜の警備員が恐れる地下街(梅田)
大阪空襲から人々を救った幽霊電車(心斎橋)
【兵庫】
沿線の曰くつきのドヤ(湊川公園)
【広島】
ホームで拾った未来を告げる写真(広島広域公園)
【福岡】
過去と繋がる幻の屋台(中洲川端)

試し読み1話

「幻の駅」正木信太郎・著

 埼玉高速鉄道は、赤羽岩淵駅から浦和美園駅を結ぶ都市高速鉄道である。
 二〇〇六年開業を予定していたが、二〇〇二年の日韓共催W杯で開催会場のひとつに挙げられた埼玉スタジアムが浦和美園駅近くに建設されていたため、W杯に間に合わせる形での開業となった。
 当時は、最寄りといっても、浦和美園駅から埼玉スタジアムまで一キロ以上も離れていたため、スタジアムの近くまで延伸が予定されていた。しかし、予算と時間の都合上、それは叶わずに終わった。
 二〇〇二年のW杯開催時、埼玉スタジアムで大会準備の仕事に従事していた坂又さんは、当時二十代後半の働き盛りで、職場でも中心的な存在だった。
 大会が近づくにつれ、業務は多忙を極め、スタジアム内に泊まり込むことも少なくなかったそうだ。
 開幕が目前に迫る中、トラブルが頻発し、問題が続々と表面化してくる。
 職場の雰囲気も険悪になり、坂又さんは日々苦難の連続を強いられていた。
 そのような状況下で、他の会場のチームから応援に来てくれるという連絡が入った。
 W杯は日本各地で開催されることになっており、横浜、鹿島、小笠山などでも試合が行われる予定だった。
 経験豊富な仲間が静岡から駆けつけてくれることを知り、坂又さんは心から喜んだ。
 ただし、彼らがやってくるのは週末の夜になるだろう。本来の業務を終えてからになるはずだ。
 日が沈み、夜九時を過ぎたころ、坂又さんが詰めている居室に元気な声が響いた。
「お疲れ様です!」
 仕事に集中していた坂又さんが振り返った。そこには、にこやかな笑顔の男性が立っていた。静岡から応援に来た人物で、以前、横浜で開かれた全体ミーティングで一度だけ顔を合わせたことがある男性だった。
「あぁ! ありがとうございます! わざわざ遠いところを」
 坂又さんも笑顔を返しながら応えた。
「いえいえ、スタジアムの目の前に駅があって助かりましたよ」
「でも、ゲートまで二十分はかかったでしょう? そこからさらにこの部屋まで十分」
 坂又さんが尋ねると、男性は首を横に振った。
「え? おかしいな。ゲートのすぐそばに地下鉄の出入口があって、そこから上がってきたんですよ」
「………………なんて駅で降りました?」
 坂又さんの表情が徐々に曇っていく。
「そりゃ埼玉スタジアム前とかなんとかっていう駅で……」
 男性は坂又さんの困惑した様子を気にも留めず、当然のように答えた。
 そこから先は、議論が延々と平行線を辿るばかりだった。
 実際に駅で降りたと言うが、そんな駅はあるはずがない。
 ならば、証拠を見れば一目瞭然だろう。
 坂又さんは、その場にいた数名を同行させ、男性と共にスタジアムの出入口であるゲートへと向かった。
 道すがら、言い争うような口論が続いたが、ゲートが視界に入り、徐々に近づくにつれ、応援に来た男性の顔色は青ざめていった。
「いや、絶対にここにあった! ここから出てきたはずだ!」
 男性は地面を指差しながら、興奮した口調で訴えた。しかし、スタジアムで働く坂又さんをはじめとする面々は、揃って首を横に振るだけだった。
「僕らは、いつも浦和美園駅で降りて、毎日ここまで徒歩で通勤してるんですよ。全員が、もう一駅あったら良いのにって望んではいますが……」
「だって、私の記憶では……あ!」
 取り乱した男性は反論しようとしたが、突然、何かに気づいたような表情を見せる。
「どうかしましたか?」
「それが……あのとき、スタジアム前で降りたとき、誰も降りなかったんですよ」
 男性は、まるで電車の車内を思い描くかのように、視線を彷徨わせながら語り始めた。
「読書してる人や携帯電話に夢中になっている人なんかが居て……」
 そして、自分の周囲を見回すような身振りを見せた。
「……眠ってる人も居たんですが、その姿が妙に不自然で。他の乗客も皆、ずっとうつむいたままで動かなくて。なんだか人形みたいで、ゾッとしたんです」
 男性は一瞬言葉を切り、深呼吸をしてから、坂又さんの目をしっかりと見つめた。
「信じてください。あの駅は確かに存在したんです。でも、今思えば、あれは普通の駅じゃなかった気がします。何か……異常なものだったんです」
「そんな変なことが一回だけありましてね」
 坂又さんは当惑した表情を浮かべながら語り始めたが、すぐに真顔に戻り、続けた。
「その電車、ドアが閉まると、さらに先へ進んでいった、とも彼は話していました。そのまま乗っていたら、一体どこに連れていかれたんでしょうかね」
 坂又さんは少し考え込むように言った。
「もうプロジェクトは解散してスタジアムに行くような事はありません。でも、あの時、毎日浦和美園駅からスタジアムまで歩くのが本当に大変で……もう一駅あればどんなに楽だったかと。今でもときどき、あと一駅だけでも延びていたらなぁって……」
 彼はそこで言葉を切り、少し疲れたような表情を見せた。

―了―

Osaka Metroとコラボ企画を開催!

「メトロ怪談」発売を記念してOsaka Metro様とコラボイベントを開催!
①デジタル怪談ラリー(8/23~)
 Osaka Metroの5つの駅(東梅田、天王寺、京橋、松屋町、なんば)に
掲示のポスターにあるQRコードから田辺青蛙先生の書き下ろし怪談が読めます。5つコンプリートすると、達成賞として特製リーフレットも貰えますよ。
②メトロ怪談in鶴見検車場2024が9月22日に開催!
普段は入れない検車場で、リアル怪談イベントを実施!
大阪在住の著者、中山市朗先生と田辺青蛙先生が地下鉄に纏わる怖い話不思議な話をたっぷりお聞かせいたします。
【詳しくはこちらをご覧ください】
↓ ↓ ↓
https://www.takeshobo.co.jp/news/n105607.html

著者紹介

田辺青蛙(たなべ・せいあ)
『生き屏風』で日本ホラー小説大賞短編賞を受賞。著書に「大阪怪談」シリーズ、『関西怪談』『紀州怪談』『北海道怪談』などご入念な取材に基づくご当地怪談のほか、『致死量の友だち』『魂追い』『皐月鬼』など小説作品、共著に『全国小学生おばけ手帖 とぼけた幽霊編』『北の怪談』『予言怪談』「京都怪談」シリーズなど多数。

中山市朗(なかやま・いちろう)
作家、怪異蒐集家、オカルト研究家。兵庫県出身、大阪府在住。主な著書に『怪談狩り』シリーズ(最新作「まだらの坂」)、『なまなりさん』『聖徳太子 四天王寺の暗号―痕跡・伝承・地名・由緒が語る歴史の真実』『聖徳太子の「未来記」とイルミナティ』、木原浩勝氏との共著に『現代百物語 新耳袋』(全十夜)、松村進吉、深澤夜との共著に『「超」怖い話×中山市朗』など。現在、配信、ライブなどで積極的に怪談語りを披露中。

正木信太郎(まさき・しんたろう)
怪談師、怪談作家。全国を渡り歩き、不気味で不思議な奇談を蒐集している。主な著書に『川の怪談』『神職怪談』『隠れ祓い師 有馬一の怪奇譚』、共著に『異職怪談』『趣魅怪談~特殊趣味人が遭遇した21の怪異』など。東京都内で怪談イベント『寄り道怪談』を主催。

沿線怪談シリーズ