見出し画像

一種で恐怖が訪れる人気シリーズ!応募作から厳選した『投稿 瞬殺怪談 怨速』冒頭3話「ソロキャンプ」「異常の産物」「影」試し読み

切れ味抜群! 1~2ページ怪談


あらすじ・内容

切れ味抜群! 怪談作家5名と応募作から厳選した鋭利すぎる1~2ページの超ショート怪談145篇!

瞬きする間に読んでぞっとする! 超短怪談のニューフェイズ・シリーズ。
公募により厳選された36名75作品と、怪談作家たちの書き下ろしを加えた145話を収録する。
・仕事場で仲良くなった人の家で飲むことになったのだが…「ヒロさんの話」(黒木あるじ)
・運転中、誰もいない車内なのに不意に伸びてきた手「違った」(牛抱せん夏)
・通勤に通る峠道で起こる奇妙な目撃譚「ヘアピンカーブ」(丸山政也)
・海岸沿いの踏切で雨の中たたずむ女は…「踏切の女」(Coco)
・大好きだった祖父の葬式の夜の出来事「末期の水」(鷲羽大介)など。
次世代の書き手による新たな怪談の読み味を堪能あれ!

★募集作品の最恐賞はコチラ↓


冒頭3話試し読み

ソロキャンプ  丸山政也

 Fさんはソロキャンプが趣味だという。
 三年前の夏、Fさんは郊外にあるオートキャンプ場を訪れ、慣れた手順でテントを設営した。火を起こして簡単な調理をし、食事を済ませた。すでに陽は落ちて、すっかり暗くなっている。周囲を見渡すと、まったくひとの気配がない。自分の場所以外にテントが張られていないので、まるで貸切だな、とひとりごちた。
 どれくらい経った頃か、読書をしていたら頭痛と悪寒がしてきたので、寝袋を取り出して横になった。少しうつらうつらとしたとき、外から、すみません、と女性の声がした。
 ふらつく頭を押さえながら立ち上がり、テントを開けるとひとりの若い女性が立っている。
「けがをしてしまって。ばんそうこう、もっていませんか」
 女性は手から激しい出血をしていて、絆創膏で事足りるような怪我ではなさそうだった。
「大丈夫ですか? 病院に行ったほうがいいですよ。この時間でも夜間救急なら――」
 そう答えていると、
「ばんそうこう、もっていませんか」
 と、ただそれだけを繰り返す。仕方なくポーチを取り出し、未開封の絆創膏を箱ごと手渡した。女性は礼もいわず去っていったが、どうにも腑に落ちなかった。女性はとてもキャンプをする格好ではなく、よそ行きのような薄着の衣服を身に着けていたからである。
 自分が知らないだけで、どこか他にいい設営場所があるのかもしれない。ひとがいないので俺に頼るほかなかったのだろう││と考えた。そうする間にも頭痛と悪寒が激しくなってきたので、薬を飲んで再び横になった。
 翌朝。風邪のような症状は治まっている。テントの外に出た瞬間、あっ、と声を漏らしていた。昨晩女性に手渡したはずの絆創膏の箱が地面のうえに落ちていた。拾い上げると、未開封のままで使った形跡がない。怪我の処置には無理だと察して返してきたのかもしれない。それにしたってこんな返し方は非常識じゃないかとFさんは憤った。
 ところが――。
 帰り支度をしているとき、工具で指先を切ってしまった。出血はたいしたことはなかったが、念のために水で傷口を洗い流し、絆創膏の箱を開けた。と、その刹那、声をあげながら箱を放り投げていた。なかの絆創膏は個装の袋がすべて破られ、フィルムも剥がされている。
 そのパッド部分が一枚残らず、赤黒い血で汚れていたからだった。


異常の産物  黒木あるじ

 年が明けてまもなく、某集落在住の知人より連絡があった。
「数年前にお伝えした、女幽霊の件なんですけど……」
 彼の暮らす集落では、たびたび〈冬道を横断する見知らぬ女〉が目撃されている。
 女があらわれるのは、きまって吹雪の夜。視界の悪さに難渋しつつ車を走らせていると、いきなり長髪を振りみだした人影がヘッドライトに浮かびあがるのだという。
 もちろん運転手はブレーキを踏むのだが、雪道であるから平素のようには止まれない。
「駄目だっ、ぶつかる」と覚悟した次の瞬間、女は風に飛ぶビニール袋そっくりな動きで、ひゅわ、と飛び消えてしまう。
 複数の住人が経験しているため、いつしか集落では「あの女は幽霊に違いない」「過去、吹雪に見舞われ遭難死した女性なのだろう」という結論に至っていたらしい。
 もっとも、この話を教えてくれた知人は未だ〈その女〉に遭遇していない。「僕が遭った際はすぐに知らせます」と言っていたので、いよいよ見たのかと思ったのだが――。
「違うんですよ」
 今冬は、誰ひとり〈あの女〉を目にしていないのだという。
「いつもであれば二、三人は目撃する頃合いですから、みな首を傾げていたんですがね。地区会長が寄り合いの席で〝俺たちは誤解してたんでねえか〞と言いだしまして」
 幽霊ではないのかもしれない││と言うのである。
「ほれ、いつも真っ白な山が今年は裸のまま、集落のスキー場がオープンを諦めるほどの暖冬だべ。そんな年にかぎって姿をあらわさねえってこたァ、あれは」
 雪女なんでねえか。
「会長の主張、どう思いますか」
 そう問う彼に、私は「来年にならないと結果はわからないね。次の冬が豪雪であることを祈るばかりだ」と答えて電話を終えた。
 過去に例がないほど少雪である二〇二四年はじめの記録として、綴った次第である。


影  Coco

 高田さんが幼少のころ、祖父母宅へ帰省したときに体験した話。
 夕焼けに照らされた田舎道を祖父と散歩していた。皺だらけの手をギュッと握りしめると、優しく握り返してくれる、そんな温かい祖父が大好きだった。
 教えてもらったカラスの童謡を二人で口ずさみながら歩いた。
 やがて、家の前を流れる川沿いの道に着いた。水は夕日でキラキラと照らされ、高田さんは目を奪われた。
 ふと気づいたことがあった。
 地面には長く伸びる自分の影がある。そして、その横にあるはずの祖父の影、それがどこにもなかったのだ。
 幼かった高田さんは、そういう現象もあるんだろう、その程度に思っていた。
 祖父に聞いてみると、さっきまでの笑顔がスッと消えた。
「走れ、今すぐ走れ、じゃないと死ぬぞ」
 祖父は高田さんの手を強く引っ張り、家の方へ走った。
 優しい祖父の突然の怒声、そして鬼の様な形相に、驚いた高田さんは意味も分からず泣きながら走った。
 家に着くと祖父が抱きしめてくれた。祖父の身体はひんやりと冷たく、小さく震えていたのが印象に残っているという。
 なぜ祖父の影がなかったのか、なぜ走って逃げたのか。
 理由を聞きたかったが、また祖父が豹変するのが怖くて聞けなかった。
 祖父が不慮の事故で亡くなったのは、この出来事があった翌日のことだったという。

―了―

著者紹介

黒木あるじ (くろき・あるじ)

『怪談実話 震』で単著デビュー。「黒木魔奇録」「無惨百物語」「怪談売買録」「怪談実話傑作選」各シリーズ、『山形怪談』『怪談怖気帳 屍人坂』など。共著には「FKB饗宴」「怪談五色」「ふたり怪談」「怪談四十九夜」「瞬殺怪談」「奥羽怪談」「怪談百番」など各シリーズ、『未成仏百物語』『実録怪談 最恐事故物件』『黄泉つなぎ百物語』など。
小田イ輔や鷲羽大介など新たな書き手の発掘にも精力的。他に小説『掃除屋 プロレス始末伝』『破壊屋 プロレス仕舞伝』など。

丸山政也 (まるやま・まさや)

2011年「もうひとりのダイアナ」で第三回『幽』怪談実話コンテスト大賞受賞。単著に「信州怪談」「奇譚百物語」各シリーズなど。共著に『エモ怖』、「怪談四十九夜」シリーズなど。

牛抱せん夏 (うしだき・せんか)

怪談師。現代怪談、古典怪談、子ども向けのお話し会まで幅広い演目を披露する。著書に『実話怪談 呪紋』『実話怪談 幽廓』『呪女怪談 滅魂』『百怪語り 蛇神村の聲』など。

鷲羽大介 (わしゅう・だいすけ)

174センチ89キロ。右投げ右打ち。「せんだい文学塾」代表。
単著に「暗獄怪談」シリーズ、共著に「江戸怪談を読む」「奥羽怪談」「怪談四十九夜」各シリーズなど。

Coco (ここ)

怪談師兼ホラープランナー。「京都怨霊館」「大阪都市伝説 赤い女」などお化け屋敷をプロデュース。SNSの総フォロワーは40万人を超える。
著書に『怪談怨霊館』など。

天堂朱雀 (てんどう・すざく)

今の癒やしは柴犬とカワウソの徳島県生まれ。共著に『呪術怪談』『実録怪談 最恐事故物件』など。

ムーンハイツ (むーんはいつ)

島根県出身。境港妖怪検定中級。インドネシア語検定C級。共著に『呪術怪談』『実話怪談 犬鳴村』など。

緒方さそり (おがた・さそり)

群馬県在住。O型、蠍座。趣味、読書と深夜ラジオ。小中高時代、林間学校や修学旅行に怪談本を持って行き、他の生徒達に引かれていた、陰気キャぼっち系怪談ジャンキーです。

宿屋ヒルベルト (やどや・ひるべると)

北海道出身、埼玉県在住。幼い頃はアンビリバボーとUSO!?ジャパンに震え上がった平成一桁生まれ。本業は編集者。共著に『恐怖箱 呪霊不動産』など。

墓場少年 (はかばしょうねん)

愛媛県松山市在住。書店員やアパレルブランド店長を経て現在は温泉旅館勤務。安全地帯での怪談収集を信条としているが、地域密着型の怪異が多い為、たまに呪われる。

豫座州長 (よざ・くになが)

愛媛県産品。これまでは読む、訊く、観る専門だったが、怪談仲間の薦めもあって書く方へのチャレンジも開始したオールド怪談ジャンキー。

雪鳴月彦 (せつなり・つきひこ)

福島県在住WEB作家。家族全員が過去に不可思議な経験をしているおかしな家で育つ。共著に『街角怪談』『百物語 サカサノロイ』『実録怪談 最恐事故物件』など。

雨森れに (あまもり・れに)

長野県、奇祭の残る土地出身。幼少期に曾祖父の骨董屋で暮らしていたことがある。怪談と戯れる傍らで歌詞提供、短編小説を執筆。怖がりの気ままな飲兵衛やってます。共著に『お道具怪談』『聞コエル怪談』など。

鍋島子豚 (なべしま・こぶた)

東北の港町出身。酒の席での怪異収集が生き甲斐の永年中間管理職。愛猫ハイムラとセンセイに囲まれ、雪国生活を謳歌している。

アスカ (あすか)

趣味の散策、写真、庭いじりに励んでおります。

高崎十八番 (たかさき・おはこ)

徳島県在住。平成七年生まれ。金魚愛好家。四国と淡路島を中心に、実話怪談を蒐集、加えて執筆活動も行っている。

のっぺらぼう (のっぺらぼう)

東京都八王子市出身。母や祖母の不思議な思い出話が忘れられず怪談に手を染める。これまで体験談を語ってくれた方々、ありがとうございます。

天神山 (てんじんやま)

奈良県出身。ペンネームは落語の演目から。田辺青蛙先生のガチ推し勢。読むと胸がキュッと苦しくなる、唯一無二の世界観が大好きです。実家にバケモンがいます。

猫科狸 (ねこかたぬき)

沖縄県出身。趣味はプロレス鑑賞、お絵描き。幼少期、父親から怪談噺、ホラー映画を見せられた事でその魅力に惹きこまれ、現在も恐怖体験、怪奇現象を探し求めている。

夕暮怪雨 (ゆうぐれ・かいう)

サウナと猫を愛す、怪談作家。怪談師のおてもと真悟と怪談ユニット・テラーサマナーズ結成。主にトークイベントやYouTubeチャンネル、ポッドキャストで活動中。共著に『恐怖箱 呪霊不動産』『実話怪談 怪奇島』など。

沫 (まつ)

ディレクター業及び映像作家。芸能方面にて経営から企画、プロデュース、バンドのマネジメントのほか、自らがミュージシャンとして活躍する。一方、ウェブ作家として活動する父・筆者と共に怪談ジャンルに挑戦。一日一話、千話終了のショート怪談をXアカウント〈みっどないとだでぃ〉にて連載中。

筆者 (ふでもの)

ウェブ作家として幅広いジャンルにて執筆し、かつ小説講座や投稿サイトなども運営していた父・筆者。一日一話。千話終了のショート怪談を、Xアカウント〈みっどないとだでぃ〉にて連載中。共著に『実話怪談 怪奇島』など。

おがぴー (おがぴー)

千葉県在住。怪談好きの薬剤師。怪談マンスリーコンテストで怪談執筆を始める。『投稿 瞬殺怪談』では投稿が全滅したが、捲土重来を期した今作では四作が優秀作に入選した。

月の砂漠 (つきのさばく)

血圧高めで恐妻家の放送作家。大学で佐々木喜善や柳田國男の民俗学に触れて以来、東北を中心に日本各地の怪奇伝承を蒐集、個人的に研究し続けている。第四回「上方落語台本大賞」で大賞受賞。共著に『奥羽怪談 鬼多國ノ怪』『実話怪談 怪奇島』など。

安達ヶ原 凌 (あだちがはら・りょう)

香川県在住。実話に限らず怪談、ホラー、ミステリーが大好き。実話怪談、体験談募集中。

佐々木ざぼ (ささき・ざぼ)

秋田県出身。せわしない日々に追われる宮仕え。怪談朗読を聞くのが大好きで、鳥やウサギに齧られたりしている。

春日線香 (かすが・せんこう)

大分県出身。2000年より詩作を開始する。著書に『詩集 十夜録』(私家版)。料理と読書、怪談をこよなく愛する。この世のほかならどこへでも。

高倉 樹 (たかくら・いつき)

執筆・装丁デザインなど、本にまつわる諸々を承りながら、大阪にて河童捜索活動に従事。古墳で目撃される河童はなぜピンク色なのかの謎を追う。好物はもさもさする食べ物。

佐藤 健 (さとう・けん)

福岡県出身。幼いころから霊能者に憧れるが資質がなく断念。見る人から伝える人への転身を図り、日々怪談収集、執筆に励む。同姓同名の二枚目俳優とは別人である。

碧絃 (あおい)

2023年より小説サイトに投稿を開始。怖い話や心霊スポット巡りが好きな知人が多いので、蒐集していないのに怖い話が集まってきています。

大坂秋知 (だいさか・あきとも)

愛知県出身。趣味が高じて怪談収集を始める。

藤野夏楓 (ふじの・かふう)

神奈川県出身。YouTubeにて『ねこぽて』名義で怪談朗読動画を配信。心霊特番のナレーション、短編ホラードラマの制作協力、ネット声優など多方面で活躍中。

乙日 (おつび)

獅子座流星群が次々に流れてくるのをかつて板橋の夜空で見上げていたら「プヒュー!」という大きな落下音が響いた。「なんだったんだ?」という体験が大好きな屁理屈屋です。

中村 朔 (なかむら・さく)

鎌倉在住。二匹の猫に飼われるシナリオライター。人生と怪異が交錯する話を好んで蒐集。蒐集した話はまず猫に読み聞かせ、尻尾が爆発するとその話はお蔵入りになる。

鬼志 仁 (きし・ひとし)

犬鳴トンネルがある福岡出身のシナリオライター。これまでに怖い話系の漫画原作の他、ゴルゴ13や名探偵コナン(アニメ)のシナリオを執筆。自称、ホラー映画研究家。共著に『呪術怪談』『お道具怪談』など。

井上回転 (いのうえ・かいてん)

山口県出身の平成二桁生まれ。名前をたくさん持っている。駅前でぐるぐると回転している人を見かけたら、ぜひとも声をかけてください。それはおそらく人ではないので。

キアヌ・リョージ (きあぬ・りょーじ)

オカルト好きな祖母の影響により幼い頃から不思議に興味を持つ。現在、幽霊の出る工場に勤めており、日夜その存在に怯えながらも執筆活動に励んでいる。

ふうらい牡丹 (ふうらい・ぼたん)

大阪在住。本業は落語家です。短歌を詠むのが好きです。共著に『怪談四十九夜 荼毘』『妖怪談 現代実話異録』など。

緒音 百 (おおと・もも)

佐賀県出身。大学時代に民俗学を専攻し、語り継ぐことの楽しさに目覚めて以来身近な怪談・奇談を蒐集している。共著に『鬼怪談 現代実話異録』『呪術怪談』など。

雨水秀水 (うすい・しゅうすい)

平成生まれ。東北出身。共著に『実録怪談 最恐事故物件』『呪術怪談』など。

あんのくるみ (あんのくるみ)

絵本から怪談まで作品は幅広い。2020年刊行の絵本『つまさきもじもじ』は韓国でも翻訳出版されている。2023年随筆春秋賞にて佐藤愛子奨励賞を受賞。無類の猫好き。『実録怪談 最恐事故物件』『呪術怪談』など。

〈瞬殺怪談〉シリーズ好評既刊