2022年2月3日
【今日は何の日?】2月3日:大豆の日
節分には豆まきをすることが一般的となっていることから、大豆関連製品などを取扱うニチモウバイオティックスが記念日に制定しております。
さて本日の怪談は……
「ええじゃないか」
関西での話である。
久世さんが横になっていると、何か囁くような声が聞こえてきた。
「……いか、……じゃないか……」
耳をそばだてる。ベッドの下からだ。上から覗き込むと、中年男の顔をした小人が行列を作って踊りながらベッドの下を横切っていく。その行列の先頭は壁にまで達しているが、一行はその壁がないかのように突き抜けていく。
それはその夜一度きりのことではなかった。
「えぇじゃないかえぇじゃないかヨイヨイヨイヨイ!」
一週間と経たず、男達のかけ声は連夜のこととなった。決まってベッドの下には大勢の中年小人達による踊りの行列である。繰り返されるかけ声が耳に残った。
それから数日のうちに、声が聞こえて来ないときも、頭の中を小人達のかけ声が巡るようになった。そんなある夜のことである。
「えぇじゃないかえぇじゃないかヨイヨイヨイヨイ!」
久世さんは立ちくらみのような眩暈を感じて、床に倒れ込んだ。えぇじゃないかのかけ声に、また小人が出たかと顔を上げようとしたが、眩暈が酷くて頭が上がらない。
しばらくすると少しましになったので周囲を見回したが、小人達はいなかった。しかし声だけは頭の中をぐるぐる回っている。
――あれ?
視界がおかしいと気付いたのはそのときだった。いつもよりも部屋が広い。周囲の家具が巨人の国のそれのように大きい。夢を見ているのかと思ったが、どうもそうではない。
「えぇじゃないかえぇじゃないかヨイヨイヨイヨイ!」
声はまだ頭の中を巡っている。いや違う。今度は本当に小人達の声だ。
だが、その行列は〈小人〉の行列ではなかった。等身大になった小人達が、めいめい思い思いに踊りながら、列を成して近付いてきた。
――みんなに付いていかなきゃ。
踊っている小人達の中に混じろうと足が動きだす。腕が動きだす。踊りを踊りだす。
小さくなったってえぇじゃないか。楽しく踊ればえぇじゃないか。えぇじゃないかえぇじゃないかヨイヨイヨイヨイ!
――いや、付いていっちゃ駄目だ。
ふとよぎったその考えに、先ほどまで軽快に踏んでいたステップが止まった。立ち止まって行列を見送ろうとしていると、行列の「えぇじゃないか」の声が止まった。小人達の動きも止まり、彼らは一斉に振り返った。
小人達は無言のまま、じっとこちらを見据えている。
その真ん中の一人が醒めたような口調で言った。
「あんたはここで抜けはるんか」
答えることもできずにいると、再び眩暈がした。
気付いたときには部屋は元に戻り、それ以来小人達は現れなくなったという。
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「ええじゃないか」神沼三平太『恐怖箱 百舌』