市原出身の怪談師が地元・千葉県の恐怖譚を徹底取材!『千葉怪談』(牛抱せん夏)著者コメント+試し読み1話
徹底取材!
千葉県各地の恐怖体験談を市原出身の女優怪談師が綴る
あらすじ・内容
総武線の終電は幽霊だらけ!?
住めば危険な土地がちはら台に…
死の淵に誘われる最恐スポット金山ダム
無数の亡霊が渦巻く赤山地下壕
日本兵の霊が蠢く大房岬
恐ろしい伝承を残すおせんころがし
YouTubeや舞台などでも活躍中、市原出身の女優怪談師・牛抱せん夏が徹底取材した地元・千葉県の実話怪談本!
松戸市に現存する恐怖のマンション「物件探し」
蘇我にある怪奇現象が多発する魔の三角地帯「ミステリーゾーン」
海水浴客を死に誘う怪異が巣食う観光地「九十九里のビーチ」
県内最恐の心霊スポットで著者自身を襲った衝撃の実体験「金山ダムでの撮影で…」
祭囃子がこだまする異空間に迷い込む戦慄の異界体験談「館山市Fホテルのそばで」ほか収録!
有史以来、数々の遺跡・伝説が残る房総半島には今でも怨念が渦巻いている…
著者コメント
試し読み1話
「親子連れ」
残念ながら今年(二〇二一年)はコロナの影響で中止になってしまったが、鴨川市小湊では毎年「連夜の花火大会」が行われている。
会場は小湊漁港で、八月一日から二十日あたりまで(その年による)、一日百発の花火が夏の空と漁港を彩る。この時期になると、地元住民のほかにも観光で訪れる家族連れなども多く、ホテルの予約も取りづらくなる。
また、花火大会の期間中に、この町にある誕生寺の灯籠流しも同時に行われる。
夜空にあがる花火。内浦湾に映し出される逆さ花火と浮かぶ灯籠は幻想的でまるで夢を見ているような錯覚に陥るほどだ。
数年前、男性ふたりがこの花火大会に出かけた。小さな港町なので、会場付近には、大型の駐車場はない。
花火の見えるスポットから徒歩十分ほどの山道にちょうど車を停められそうな場所があったので、そこに停めて港の方まで下りて行くことにした。
花火は連続で約十五分間、打ち上げられる。東京からわざわざ見にきた甲斐があった。
「楽しかったな」
「これで彼女がいたら最高なのにな。野郎ふたりで花火って」
「でもきれいだったよな」
ふたりは満足気に会話をしながら車を停めてある坂道を上って行く。
その途中、左手に誕生寺があり、塀が見えてきた。上り坂なので、息を切らしながら歩いていると、寺の山門とは反対側の草藪の中から、親子と思しきふたりがひょっこりと出てきた。
父親らしい男性は五十がらみで、こどもの方はまだ小学生だろうか。父親が手を引いて、車道を横切っていく。微笑ましい親子の姿に思わずふたりの顔がほころぶ。
親子は、車道を横切ると、誕生寺の参拝者出入口のところへ入って――行かなかった。
そこで姿が消えた。
それを見ていたふたりは目をこすって、すぐに親子が消えた出入り口まで走って行った。
ところがそこにはただ長い通路があるだけで誰の姿もなかった。
「なあ、今の親子の顔、覚えてる?」
「いや、全然覚えてない」
「じゃあ、なんで親子ってわかったんだっけ?」
「しかもさ、ふたりとも頭からつま先まで……」
「真っ白な全身タイツみたいなの、穿いてたな」
口を開くまでその親子の奇妙さに気づいていなかった。
そしてなぜか、親子が通った場所は、女性ものの強い香水の香りだけが残っていたそうだ。
ー了ー
🎬人気怪談師が収録話を朗読!
12/25 18時公開予定
著者紹介
牛抱せん夏 (うしだき・せんか)
千葉県市原市出身。
女優業と並行して怪談師として活動。主催で怪談イベントを開催するほかYouTubeでの怪談配信、こども向けのおはなし会なども行っている。著書に『実話怪談 呪紋』『実話怪談 幽廓』『呪女怪談』『呪女怪談 滅魂』、共著に「現代怪談 地獄めぐり」シリーズなど。