【連載短編小説】第11話―壊れかけ【白木原怜次の3分ショートホラー】
気鋭シナリオライターの白木原怜次が綴る短編小説連載!
サイコミステリー・ホラーなどいろんな要素が詰まった、人間の怖い話…
はっとさせられるような意外な結末が待っています。
なるべく毎週末(土日のどっちか)配信予定(たぶん)!
第11話 壊れかけ
朝焼けが街を照らし始めた頃、静かなクラシックが流れるファミレスで、四人の男たちが議論を交わしていた。彼らを包む空気は重たく、しかし、結論が出るまでは帰らないという共通意識がそこにはあった。
「とにかく、俺たちは音楽の神様に愛されなかった。これが現実だと思うぜ」
リードギター担当の森脇はそう呟いて大きく息を吐く。
彼らは高校時代に組んだバンドのメンバーだった。十五年、一心不乱に活動を続けてきたが、彼らの目指すメジャーデビューは叶うどころか、年齢を重ねるに連れて遠ざかっていた。
「だからといって解散は――そうだ、趣味で続けながら――」
「それはあり得ない」
ベース担当の笠井の言葉を遮って、ボーカル兼リーダーの井上が身を乗りだす。
「俺たちは並々ならぬ愛情をバンドに注いできたんだ。だからこそ、小さい箱なら満員にできるくらいファンもついてくれたんだと思ってる。中途半端にやるのはファンに申し訳ないと思わないのか?」
「それは……」
「それに、この際言っておくけどさ、バンドの足を引っ張ってきたのはお前だぜ笠井」
井上の核心を突く発言に、一同は黙りこくってしまう。
沈黙を破ったのは、ドラム担当の岸田だった。
「責任を一人に押し付けるのは間違ってる」
「だな。さっきも言ったけど、俺たちがいくらバンドを愛してたとしても、結局音楽の神様には愛されなかったんだよ。全員がな」
「――分かった。解散しよう」
井上の提案に逆らう者はいなかった。その後は解散ライブについて淡々と無機質な話し合いが行われ、日差しが強くなってきた頃には皆それぞれの帰路についていた。
そして解散ライブ当日、小さなライブハウスには四人の最後を見届けようと多くの観客が集まった。
軽快なギターリフでスタートしたライブはいつも以上の盛り上がりを見せる。ラストライブならではの緊張感もあってか、四人の息はぴったりだった。
しかし、バンドの代表曲が始まり、盛り上がりが最高潮に達したところで事件は起きた。森脇のパフォーマンスが悲劇の引き金を引いたのである。
ギターを地面に叩きつけた森脇は、ロックバンドの最後にふさわしい派手な演出をする、ただそれだけを目的としていた。ところが、叩きつけられたギターのネックが折れてしまい、ギター本体が客の後頭部に直撃してしまったのだ。
脳震盪を起こした若い女性ファンは駆けつけたスタッフに運ばれていく。
それでも彼らは演奏を止めなかった。最高潮の盛り上がりの中、森脇は敢えて客に怪我を負わせたのだとバンドメンバーは判断したのである。
彼らにとってバンドは人生そのものだった。解散が決まった瞬間から人生を失ったも同然だった。そんな負の共通点が、壊れ始めたものをさらに粉々にしていく。
笠井はライブ前から自暴自棄になっており、森脇の行動が着火剤となって、舌を噛みちぎり自殺を図った。それよりも強烈なインパクトを残そうと、井上はマイクスタンドで森脇の顔面を殴打する。
ステージ上はまさに地獄絵図だった。
それでも、ドラムの音だけは淡々とリズムを刻み続けていた。
解散ライブで起きた悲劇はメディアに大きく取り上げられ、全国的なニュースになった。唯一、被害者にも加害者にもならなかったドラム担当の岸田は、悲劇に最も近い関係者としてワイドショーや報道番組に多数出演した。彼を主軸に置いてバンドの軌跡を紐解く特番までもが放送され、岸田は一躍時の人となった。
それから数ヶ月後。岸田は知名度を上手く活用し、スタジオミュージシャンとして活躍するようになる。
岸田の計画は見事に成功を収めた。
森脇のギターのネックに、折れやすいよう切れ込みを入れていたのだった。その時使用したカッターナイフを川に投げ捨て、岸田はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
―了―
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著者紹介
白木原怜次 (しらきはら・りょうじ)
広島県三原市出身。14歳の頃から趣味で小説を書き始め、法政大学在学中にシナリオライターとしてデビュー。ゲームシナリオでは『食戟のソーマ 友情と絆の一皿』『Re:ゼロから始める異世界生活-DEATH OR KISS-』『天華百剣−斬−』『メモリーズオフ -Innocent Fille-』など受賞作・ビッグタイトルに参加し、現在は企画原案やディレクションも担当。ミステリー作品の執筆を得意としており、ホラーはもちろん、様々なジャンルをミステリーと融合させるスタイルを確立しつつある。
Twitterアカウント→ @w_t_field