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五代目怪談最恐位・伊山亮吉ほか、ベスト4の書き下ろしたっぷり53ページ掲載!『怪談最恐戦2022』文庫版!冒頭試し読み1話+まえがき
怪談レボリューション!
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あらすじ・内容
五代目怪談最恐位・伊山亮吉ほか、ベスト4の書き下ろしたっぷり53ページ掲載!
「日本で一番恐い怪談を語るのは誰だ!」をテーマに賞金百万円と「五代目怪談最恐位」の称号をかけた日本一の怪談コンテスト〈怪談最恐戦2022〉が開催された。
見事優勝した、伊山亮吉を始め、ベスト4に勝ち上がった怪談巧者の書き下ろしをたっぷり53P掲載。
また今大会は怪談師はもとより、アイドル、俳優、声優、落語家、芸人、YouTuber、Vtuber、漫画家、放送作家、ミュージシャン、ラッパー、医師など多彩な業界から精鋭が参加。熱戦を繰り広げ、Twitterのトレンドにもなったファイナル大会の怪談も収録。
併せて怪談最恐戦投稿部門〈怪談マンスリーコンテスト〉からも優秀な作品を掲載。
Z世代も巻き込み、新しいフェーズに突入した怪談を目撃せよ!
まえがき
「日本で一番恐い怪談を語るのは誰だ!」をテーマに賞金百万円と「怪談最恐位」の称号をかけて、五回目となる怪談最恐戦2022の火ぶたが昨年、切って落とされた。
また怪読戦(朗読部門)も前回に続き併せて開催。応募者数、大会のチケットの売り上げ枚数、ネットでの視聴者数など回を重ねるにつれ今回も記録を更新、文字通り史上最大の規模となった。
第五代最恐位、最恐戦の頂点に立ったのは、過去4大会すべてに参戦した伊山亮吉。
これは奇しくも昨年の覇者、田中俊行と同じ全大会参加という長い道のりであった。
惜しくも準優勝は福岡県から参加した毛利嵩志で、ベスト4に勝ち上がった宮代あきら、いわおカイキスキーとともに、フレッシュな顔ぶれが名乗りを上げた。本書にはこの4人の新作書き下ろしを収録している。怪談最恐戦の一部はYouTube「竹書房ホラーちゃんねる」で公開している。
また怪読戦(朗読部門)は予選通過者11人により「竹書房怪談文庫/まつり」と称して初めて観客の前で決勝戦を開催。見事、御前田次郎が栄冠を勝ち取った。怪読戦のすべての応募作品や決勝戦の模様は同じく「竹書房ホラーちゃんねる」で視聴できる。なお、怪談最恐戦や怪読戦の詳しい結果などは「怪談最恐戦HP」に掲載。
大会の応募者、会場の観客、ネットでの視聴者など年々、増えていることは冒頭でも触れた。怪談師はもとより、アイドル、俳優、声優、落語家、お笑い芸人、YouTuber、Vtuber、漫画家、放送作家、ミュージシャン、ラッパー、医師など多彩な業界から参加が目立つ。また、会場では男女とも20代、30代のいわばZ世代の観客が増えている。怪談も新たなフェーズに突入しているのだ。そんな中で生まれた最新・最恐の怪談をこの文庫で体験、目撃頂ければ幸いである。
試し読み1話
赤い子ども 伊山亮吉
僕は常日頃から人に会うとつい「怖い体験ありませんか?」と聞いたり、求められてもいないのにノンストップで怪談を喋り続けてしまうことがある。いわば怪談がコミュニケーションツールなのですが、これは数年前にそんな僕がとある劇場の喫煙所で聞いた話だ。
ある夏の日の事。
自分の出番が終わり、劇場の喫煙所でタバコを吸っていると若い舞台監督の関根さんという方が話しかけてきた。
「伊山さん、いつも怪談を喋ったり集めたりしてますよね。僕の話も聞いてくれませんか」と言うので「どうしたんですか?」と聞くと「この前、怖い夢を見たんです」
と言った。
それを聞いて困った。
たとえどんなにそれが怖くても夢は夢。霊体験というわけではないと思ったので、
それを正直に関根さんに伝えると、
「まあ最後まで聞いてください」と話し始めた。
ある夏の夜、劇場の仕事が長引いてしまって、終電に間に合わなかった。
ネットカフェに泊まるかタクシーで帰るか迷ったが、疲れていて汗もかいている。
翌日も仕事だしシャワーを浴びて休みたかったので奮発してタクシーに乗って家に帰った。二十三区内だが家賃が安い古いアパートで独り暮らしをしていた。
ガチャってドアを開けると、真夏だったのでモアアっと熱気が籠っている。
涼しくしようとクーラーをつけ、そのままソファに座り込むと立ち上がる気力が無くなってしまった。
クーラーで部屋がどんどん涼しくなっていくにつれて、眠くもなってくる。
ああ、どうしよう、歯も磨きたいしシャワーも浴びたいのに眠い。立てない。どうしよう、どうしよう、そう考えてるうちに「もういいや、このまま寝ちゃおう」とそのままソファに座ったまま寝てしまった。
すると変な夢を見た。
自分が赤い色のガラスを通して見ているような真っ赤な世界の住宅地にいる。
それ以外は現実の世界と変わらない。いろんな人が自分の周囲を行き交っているのだけど、誰もその真っ赤な世界について疑問に思っていない。
なんだこれ? と思いながら歩いていると、公園があった。
見ると、子供がたくさん遊んでいる。
やっぱりこの子供達も真っ赤な世界について何も疑問を持ってないようだ。
すると一人の子供が突然こちらをパッと見て、
「あそぼ! あそぼ! あそぼ!」
と言いながら近寄ってきた。
ギョッとした。
だってその子、真っ赤な世界でもはっきりわかるぐらい血だらけだ。
「あそぼ! あそぼ! あそぼ!」
その子供が自分に向かってどんどん駆け寄ってくる。
怖くて動けなくなった。
「あそぼ! あそぼ! あそぼ!」
近づいてきた子供は、自分のことをギューと抱きしめた。
その瞬間、パチっと目が覚めた。
ただとても不思議な感覚だったという。
夢から覚めたって感じではない。意識が途切れてない。さっきまで真っ赤な世界にいて、急に部屋に戻った感じだった。
なんだったんだあれ?
そう思っていると、途端に体がグッと動かなくなった。
ソファに座った状態で金縛りに遭った。
動けない……すると玄関の鍵を閉めたはずなのに、ドアがガチャッと開く音がする。
えっ? と音の方向を見ようとしても、金縛りだから首もうごかせない。
そうしているうちに、小さな足音がトットットットッとやってくる音が聞こえる。
あっ!
直感でわかった。
あの夢の子供だ!
必死に心の中で、
(ごめん! 遊べない! 遊べない、遊べないから)
強く何度もそう念じていると、足音はゆっくりとドアのほうに戻っていき、ガチャンとドアが閉まった。
その瞬間、体の金縛りが解けた。
「こんな夢を見たんです」
関根さんの話を聞いて、僕はびっくりした。
なぜならば、三日前に、ある怪談ライブに来ていた女性のお客様から「伊山さん、聞いてください」と話しかけられたが――。
「私この前、変な夢見たんです」
その女性は実家暮らしだが、ある夜、自分の部屋でベッドで寝ていたら――
「妙な夢を見たんですよ。自分が、真っ赤な世界の病院にいる」
なんだこれ? と思って見回すけれど、病院にはたくさんの人がいるのに誰も真っ赤に染まっている世界について疑問に思っていない。
ええ? と思っていると突然、廊下の奥から血だらけの子供が出てきて、こっちに向かって「あそぼ! あそぼ! あそぼ!」と言いながら走ってくる。
怖くて動けずにいると、どんどん近寄ってくる。
「あそぼ! あそぼ! あそぼ!」
そしてその子供に、ギュッと手を握られた。
「その瞬間、目が覚めたんです。ただ、目が覚めたらおかしな事に気付いて……」
そう、自分はいつも仰向けで寝ているのに目が覚めるとうつ伏せになっていて、
さっきまで誰かと手を繋いでいた。そんな体勢で目を覚ました事に気付いた。
何これ、と思った時には体が動かなくなっていて金縛りに遭っている。
動けない…!そう思っていると、自分の部屋のドアがガチャと開く音がする。
そして、トットットッと足音がする。
あぁ、さっきの子供だ……と思って、
(ごめん、遊べない、遊べない、遊べない、遊べないんだ!)
何度も必死に念じていると、そのままゆっくりと踵を返して戻っていった。
「こんな夢見たんです」
という話を、三日前に 聞いたばかりだった。
もちろんこの二人は、まったく縁もゆかりもない。だから、どういう状況や条件が
あれば、こんな夢を見ることになるのかわからない。
でも、もしかしたら――。
わからないからこそ、その夢、今夜にでも自分が見るかもしれない……。
さらに驚くことに、この話を僕から聞いて「自分も似たような体験をした事がある」
と言った人に二〇二二年に出会った。
鈴木さんという埼玉県出身の若い男性で、小学六年生の頃は木造アパートの二階の部屋に住んでいた。
ある日 、学校を終えて帰宅すると家に誰もいなかったと。
そのまま家で昼寝をすると妙な夢を見た。
他の二人と同じように自分が真っ赤な世界の住宅地にいる。ただそこは、見覚えが
ある近所だった。
「帰らないと……」そう直感的に思って家に向かうと住宅街の道の先にトイレの花子さんのようなおかっぱ頭の女の子が立っていた。ただ何故か顔は闇のようにまっ暗で見えない。
そんな女の子が「あそぼ! あそぼ! あそぼ!」と向かってきた。
ギョッとして走って逃げようとすると夢の中のせいなのか上手く走れない。
それでも走り続けるとそのまま足がもつれて転んでしまった。
なんとか必死に四つん這いで逃げようとしたが、ついに追いつかれ「捕まえた!」と抱きしめられ、その瞬間に目が覚めた。
それを聞いた僕はすぐに、「その後、その夢の女の子は現実の家に来ましたか?」
と聞いたが、彼いわく「夢から覚めて起きた直後の記憶がない」と言う。
それともう一つ、「この夢を十代の終わり頃まで年に二、三回見てた。いつも起きた直後の記憶がない」と。
僕はそれを聞いてひょっとしてこの鈴木さん、起きた直後に現実にやってきたその女の子と遊んでたんじゃないかな、と思った。
遊んでくれるから、十代の終わりごろまで年に二、三回もその女の子が夢に現れたのではないかと。
ただその記憶が一切ないってことは、脳が覚えていたくないくらい怖い体験という可能性もあるのではないか。耐えられないような体験をした場合、脳は記憶を消すことがあるという。
一体女の子とどういう遊びをしていたのか。
そして「真っ赤な住宅地だけど近所だった」というのを聞いて、理由はわからないがひょっとしてこの夢を見る人は真っ赤な世界で鈴木さんの近所、埼玉の同じ街の中を彷徨っているんではないだろうか。そう思った。
―了―
収録・出演者一覧
宮代あきら(みやしろ・あきら)
怪談最恐戦2020の参加を機に活動を開始。日常に潜む怪異を好み蒐集、怪談ライブを不定期に開催している。
いわおカイキスキー(いわお・かいきすきー)
怪談ユニット「怪談恐不知(おそれしらず)」の一人。幼少期から怪談に触れ、ネット配信黎明期には既に怪談配信を行っていた。得意としている叙情的な語り口で、最恐位を狙った。
十二月田護朗(ごろー 改名)(しわすだ・ごろう)
怪談ユニット「怨路地(うらろじ)」。公認不動産コンサルティングマスター。二〇二一年三月から本格的に怪談活動開始、二十三年以上の不動産業界歴で体験や蒐集した不動産怪談を得意とする。
三平×2(みひら・さんぺい)
芸人。二十一年十一月「島田秀平のお怪談巡り」でほぼ初となる怪談を披露。思いがけず好評を得たことで本格的に怪談に取り組み始める。二次元妻帯者の夜・西口プロレスでも活動。 Twitter/sanpeimihira
伊山亮吉(いやま・りょうきち)
足の骨折で入院した際には病院で嬉々と怪談取材を始める程の怪談オタク。また、大の稲荷神社好きとして暇がある時は各地の稲荷神社を回っている。吉本興業所属。
酒番(さかばん)
旭堂南湖講談教室にて古典講談、怪談を学び、宇津呂鹿太郎先生の怪談売買所や大阪の魔窟オカルト怪談BARで育つ。二年前の怪談最恐戦動画選考最低視聴回数を記録から、挑戦し続けての今回ファイナル初出場。ただ語るのみ。
毛利嵩志(もうり・たかし)
福岡在住。幼少時『恐怖新聞』にハマりオカルトの道へ。ニコニコ生放送上で怪談を披露し続け、現在は怪談ユニット「怪談恐不知」の一員として活動中。昨年は最恐戦東京予選に出場した。
Dr.マキダシ(どくたー・まきだし)
青森県出身。現役精神科医でありプロのラッパーとしても活動する。鍛え抜かれたステージングの技術と精神科医としての視点を盛り込んだ語りは聴き手の心を強く揺さぶる。
ハニートラップ梅木(はにーとらっぷ・うめき)
デイトレードをしながら日本全国を回って怪談を集めてます。YouTube「ハニトラ梅木の水曜日の怪談」で心霊スポットや事故物件に赴いたり怪談を話したりも。
山本洋介(やまもと・ようすけ)
怪談ユニット「怪談恐不知」の一人。最恐戦2020で敗れたガンジー横須賀にリベンジを果たし、人怖X怪談のジャンルを得意とする内容を武器に最恐位を狙った。
吉田猛々(よしだ・もうもう)
お笑いコンビ、ナナフシギの猫好きな方。心霊体験ゼロながら怪談読書歴は四十年、「体験がないからこそ預かった話を忠実に再現する」がモットー。
うえまつそう(うえまつそう)
東京都新島出身。現役の高校の体育の先生。ベーシストであり、デザイナーであり、渋谷モヤイ像の持ち主でもある肩書きオバケが多ジャンルの怪談を放ちます。
怪談マンスリーコンテスト
執筆者
影絵草子(かげえぞうし)
茨城県在住、十代から実話怪談を蒐集し千以上保有。人間の内面に潜む悪意や情念をはらんだ怪談を好む。活動は今年で七年目。参加共著に『実話怪談 牛首村』ほか。
饂飩(うどん)
都内在住。妻と長男(5歳)、次男(3歳)の4人家族で平和に暮らしている。怪談とは無縁。執筆活動も他に特にしたことはない。
soo(すう)
茨城生まれ、茨城在住。身近な人の体験談や郷里と自分の家系にまつわる怪談奇談を蒐集中。ほっこりしんみりするような、少し優しい怪談が好きです。
鳥谷綾斗(とや・あやと)
大阪在住。元気なホラー好き。実話怪談を扱うと首が痛くなるのが悩み。ホラー映画への愛を叫ぶ感想ブログ『人生はB級ホラーだ。』をほぼ毎週月曜日に更新中。
都平 陽(とひら・よう)
信濃出身、福岡拠点のライター。大学時代民俗学を専攻、今は尿酸値高めの中年。身近な怪談を時々蒐集。執筆業の父と映画狂の母がした恋について書く方が好き。
高倉 樹(たかくら・いつき)
執筆業・書籍デザイン・古書など、本にまつわるよろず承ります。大阪にて河童捜索活動に従事、5年目に突入するも未だ見つからず。好物はもさもさした食べ物。
おがぴー(おがぴー)
千葉県在住。怪談が大好きな薬剤師。怪談最恐戦で怪談語りを始め、マンスリーコンテストにも投稿するようになる。もう一つの受賞作は共著『恐怖箱 霊山』に収録。
墓場少年(はかばしょうねん)
愛媛県に住んでいるので、私の書く怪談は基本的に四国で起こった実話怪談です。四国の夜は都会よりも長く、闇が濃いように感じます。怪談収集には事欠きません。
宿屋ヒルベルト(やどや・ひるべると)
北海道出身、埼玉県在住。幼い頃はアンビリバボーとUSO!?ジャパンに震え上がった平成一桁生まれ。本業は編集者。参加共著に『恐怖箱 呪霊不動産』。
ふうらい牡丹(ふうらい・ぼたん)
大阪在住。本業は落語家です。趣味で短歌を詠んでおります。共著に『怪談四十九夜 荼毘』『村怪談 現代実話異録』等。
シリーズ好評既刊
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