怪談連載【怪談ジャンキー!煙鳥怪奇録】第2回「……ぽーん 」煙鳥×高田公太
実話怪談界で長年、表舞台に立つことなく暗躍し、「知る人ぞ知る」存在であった怪談蒐集家・煙鳥。彼が集めた数多の怪奇譚を、氏と関係の深い二人の綴り手〈吉田悠軌・高田公太〉が再取材・再構成の上、新たに書き下ろす(或いは、語り下ろす)! 連載第2回は、煙鳥×高田公太――
第2回 ……ぽーん
前田くんから聞いた話です。
前田くんの祖父は、既に亡くなっていました。
そういうわけで、その家には長い間、誰も住んでいませんでした。
法事やその家の近所でお祭りがあったときだけ、親族はその家に集まっていたそうです。土間の台所にすのこが敷かれている、とても古い家でした。
ある年の正月。前田くんら祖父の親戚一同が家に集まり、法事を執り行いました。
日中に法事を済ませ、夜は年初を祝う祭りに皆で行きました。
家に戻ったころにはすっかり夜も更け、寝支度も面倒になるほど疲れた一同は、畳の広間で雑魚寝をすることにしました。
前田くんは、炬燵に下半身を入れ、横になりました。
ぴん……ぽーん。
前田くんはインターホンの音で目覚めました。
時間は深夜二時過ぎ。
ぴん……ぽーん。
再び、インターホン。
こんな時間にインターホンボタンを押し、ゆっくりと指を離す何者かの姿を想像するのは、ぞっとしないことです。田舎の静寂に包まれた古民家を震わすように、チャイムの音が聞こえました。
玄関にほど近い炬燵を陣に入れていた前田くんは、少しだけ顔を上げて三和土の様子を窺うことにしました。
しかし、真っ暗です。
これほどまで暗いと三和土の様子も、玄関戸の様子も分かったものではない。しかし、あの闇の向こうに誰かがいることは間違いないのです。
「誰だろうね、こんな時間に……」叔母の小さな声が、他の者の寝息に混じって聞こえました。
見ると、ほど近い場所に上半身を起こした叔母の影がありました。
「何か事件でもあったのかな。それで警察が来たとか」
「いいや、それなら声を出すだろうに」
ぴん……ぽーん
「誰か盛り場まで出張っていった人が締め出されたかも。ほら、内藤のおじさん、戻ってたっけ?」
「アキラちゃんなら、そこで鼾をかいて寝てるよ。みんな一緒だったじゃないか」
ぴん……ぽーん。
ぴん。
ぽーん。
怪訝に思った二人は訪問の知らせに応じず、数回ほどでチャイムが鳴り止んだことを合図に、また眠りに就くことにしました。
翌朝、前田くんが玄関を検めてみたところ、そもそもこの家にはインターホンが設置されていませんでした。
現在、この家は売却されているそうです。
第2回「……ぽーん」文・高田公太
☜第1回「机と海」 ◆ 第3回「その街の話」☞
著者紹介
吉田悠軌 Yuki Yoshida
怪談サークルとうもろこしの会会長。怪談の収集・語りとオカルト全般を研究。著書に『オカルト探偵ヨシダの実話怪談』シリーズ(岩崎書店)『一生忘れない怖い話の語り方』(KADOKAWA)、「恐怖実話」シリーズ『 怪の残滓』『怪の残響』『 怪の残像』『怪の手形』『怪の足跡』(以上、竹書房)、「怖いうわさ ぼくらの都市伝説」シリーズ(教育画劇)、『うわさの怪談』(三笠書房)、『日めくり怪談』(集英社)、『禁足地巡礼』(扶桑社)、共著に『実話怪談 犬鳴村』『怪談四十九夜 鬼気』など。
月刊ムーで連載中。オカルトスポット探訪雑誌『怪処』発行。文筆業を中心にTV映画出演、イベント、ポッドキャストなどで活動。
高田公太 Kota Takada
青森県弘前市出身、在住。O型。実話怪談「恐怖箱」シリーズの執筆メンバーで、本業は新聞記者。
主な著作に『恐怖箱 青森乃怪』『恐怖箱 怪談恐山』、共著に『奥羽怪談』『青森怪談 弘前乃怪』『東北巡霊 怪の細道』、加藤一、神沼三平太、ねこや堂との共著で100話の怪を綴る「恐怖箱 百式」シリーズがある。
怪談提供・監修
煙鳥 Encho
怪談収集家、怪談作家、珍スポッター。「怪談と技術の融合」のストリームサークル「オカのじ」の代表取り締まられ役。広報とソーシャルダメージ引き受け(矢面)担当。収集した怪談を語る事を中心とした放送をニコ生、ツイキャス等にて配信中。 怪談収集、考察、珍スポットの探訪をしてます。VR技術を使った新しい怪談会も推進中。共著に『恐怖箱 心霊外科』『恐怖箱 怨霊不動産』。