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人気怪談師・牛抱せん夏による百話怪奇譚『百怪語り 螺旋女の家』(ねじおんなのいえ)著者コメント+収録話「」全文掲載

人気怪談師が綴る怪奇譚全100話!!

女の執念が首を締めあげてくる!
不自然に割れる食器、纏わりつく視線、逃れられない怪異
――「螺旋女の家」より

様々な人の怖い体験談を取材してきた怪談師・牛抱せん夏が綴る、げに恐ろしき百の怪異譚――。
・祖父と一緒に見た黒い影、あの時から…「きっかけ」
・誰もいないのにドアノブを回される。一体何者が?「訪問者」
・あまり人が乗らない下りのバスに、着物姿の老女が乗ってきて…「下りバス」
・夏休みに親族が集まる祖母の村で、クワガタを探しに森に入り…「森の集落」
・旅行先の民宿にはエアコンがない。暑いのに締め切っていたその訳は「見てる」
・結婚して住みだした古い平屋の家だが、何者かの気配が…「螺旋女の家」
など8つのカテゴリーに分けた100話+語り8話を収録。

著者コメント

「百怪語り」も三作目となりました。
怪談の語り手として活動をはじめた頃は、身近にいる方から体験談を蒐集することがほとんどでしたが、現在は幅広く直接の対面、電話、チャット、さらには海外の方にもインタビューしています。
 今回も全国各地から不思議で怖い体験談が集まりました。
体験者様の生の声を聞き、読者の方にも共に現場で怪異体験をしているような気持ちになっていただけるように記しています。
 
本書では、百話の体験談を八つのカテゴリに分類分けしました。
夫婦、親子、兄弟等の血縁者または同様のつながりのある身内にまつわる話を「家族」
働くひと、職場にまつわる話を「職」
船にまつわる話を「船」
こどもにまつわる話を「子」
村や集落にまつわる話を「村」
家、住まいにまつわる話を「住」
海外にまつわる話を「海外」
その他の話を「世間」といたします。
また、扉裏には体験者様本人のリアルな言葉を八話収録しています。
百怪語り、どうぞお楽しみください。

牛抱せん夏より 本書「まえがき」を改変

試し読み 冒頭3話!

一 へそ

「なっちゃん、お土産買ってくるからね」

菜摘さんが八歳の頃、親戚の大学生のお姉さんが夏休みにハワイ旅行へ出かけていった。面倒見が良くて優しい彼女を、本当の姉のように慕っていた。

お姉さんがハワイへ行って数日が経ったある夜、菜摘さんは突然目が覚めた。

ベッド脇に、旅行中のはずのお姉さんが立っている。

「お姉ちゃん?」

ベッドから起き上がると、お姉さんの躰は宙に浮かんでいる。しかも、へそから長い白い紐のようなものが窓の外まで伸びている。菜摘さんは、ただ目をパチパチさせていた。お姉さんは、淋し気な表情でこちらをじっと見ている。

その時、どこからか誰かが呼ぶ声がした。とたんに眠くなってベッドに倒れ込んだ。

翌朝、一階のリビングへ下りると、なんだか家族が騒がしい。

どうしたのかと問うと、ハワイ旅行へ行っていたお姉さんが海で溺れて、一時心肺停止状態で病院へ搬送されたのだという。


後日、意識を取り戻し無事に帰宅したお姉さんから聞いた話では、溺れた際、日本へ帰らなければと強く念じたという。

すると躰が軽くなり、菜摘さんの部屋にいた。言葉を発することもできずただ見ていると、遠くで誰かが呼ぶ声が聞こえて、へそのあたりを勢いよく引っ張られた。

気づけば病院のベッドの上にいたという。

二 ある

義兄が亡くなった。

その地域では、葬式までの間、自宅で親族がご遺体を挟んで過ごす風習がある。妹とふたりで務めることにした。

深夜、話をしていると、ふいに妹が天井を見上げた。つられて見上げる。

古い日本家屋で、ずいぶん高い位置に梁はりが通っている。その梁に、バレーボールが挟まっている。なぜ落ちないのかと注視すると、バレーボールではない。

見間違いかと目をこすると、妹が言う。

「兄さん。あの梁にあるの、お義に兄いさんの生首よね」

義兄のご遺体は、目の前に横たわっている。


三 きつね

ずいぶん昔の話だ。

絹代さんは、長野県から佐渡ヶ島に嫁いだ。

若くして嫁いだので、実家の母親にはなかなか会うことができなかったという。

母親も歳をとって長旅も難しくなってきた。最後にもう一度会いたいから、今度佐渡まで会いに行くよと連絡があった。

ところが、約束の当日、船着き場まで迎えに出ると、次々に人が下船してくるのに、母親の姿が見えない。やっとそれらしき人を見つけたのだが、その顔がどうもおかしい。

目が吊り上がってまるで狐のようだ。

絹代さんは驚いて、

「お母さん、どうしたの、そんげな狐みてえな顔して。具合でも悪い?」

そう言うと、母は「狐さんが守ってくれたんだ」と笑った。

現在はカーフェリーがあるが、当時は佐渡へ行くには小さな船しかなく、波で揺れる。移動はかなり大変だった。

母親は家の近くの稲荷神社へ油揚げを持って供え、

「これから娘に会いに佐渡まで行くんだども、無事に着けるように」

そう言って手を合わせた。

その夜、狐に起こされた。

「ばあさん、私が守ってやるから安心していけ」

狐はそう言って消えたという。母親は安心して乗船した。

その日、海は穏やかで、母親は無事に佐渡まで着くことができたと喜んでいた。

―了―

著者紹介

牛抱せん夏 (うしだき・せんか)

怪談師。現代怪談、古典怪談、こども向けのお話会まで幅広い演目を披露
する。著書に『実話怪談 呪紋』『実話怪談 幽廓』『呪女怪談』『呪女怪談 滅魂』『千葉怪談』『百怪語り 冥途の花嫁』『百怪語り 蛇神村の聲』など。

シリーズ好評既刊