史上初?!阪急電車沿線の地域限定怪談本『阪急沿線怪談』(宇津呂鹿太郎)著者コメント+収録話「公園の女(十三)」全文掲載
京都、大阪、神戸…関西三大都市に潜む怖い話!
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あらすじ・内容
京阪神を横断する阪急電車沿いに発展し、独自の文化圏を擁するこの沿線の街に潜む不思議や怪異が満載の関西ご当地怪談!
男の霊に出くわす大阪梅田近くのホテル
神戸三宮のパチンコ店にある異空間への扉
生者を橋から引きずりこむ西宮北口の悪霊集団
京都河原町にあった呪物的絵画
顔の溶けた女の霊が現れる十三の公園
彼の世へ通ず!?豊中の団地に現れる奇妙なエレベーターのボタン
落書きが動く!?高槻市の小学校にあるトイレ
訪れると正気を失う宝塚山中の廃ホテル
怪奇現象が多発する今津線沿いの最恐物件 …ほか
大阪梅田を起点に西は神戸三宮・新開地、東は京都河原町まで、京阪神間を横断する阪急電車。
その沿線に広がる街に埋もれた数多の怪異譚を怪談作家・宇津呂鹿太郎が綴るご当地怪談集。
・歩道橋に現れた人ならざる異形「鳥肌」(茨木市)
・事故物件か!とあるマンションで頻発する数多の怪奇現象「アウトな物件」(伊丹)
・夜中に通ると果てのない塀が続き抜けられない!不思議な異界譚「阪急西宮スタジアムの跡地にて」(西宮北口)
・ある女性にとり憑く恐ろしい女の霊。話すことすらタブーの危険な恐怖譚「瞼の裏の女」(烏丸)
――など収録。
著者コメント
試し読み1話
公園の女 (十三)
柿本さんがまだ二十代だった頃、事情があって、十三にある一軒家で一人暮らしをしている友達の家に厄介になっていた時期があった。これはちょうどその当時のことである。
柿本さんは真面目な方で、普段は仕事が終わるとまっすぐ友人宅に帰っていた。しかし、週末などはたまに十三の繁華街を飲み歩くことがあった。仕事は面白くないし、彼女もいない。気心の知れた友達とはいえ、他人の家に厄介になるというのは気を遣うし、そんな状態の自分が情けない。特にこれといった趣味もないので、他にストレス発散のやりようもなく、だから週末の仕事終わりには一人で納得するまで楽しく飲み歩きたくなることがあるのだ。
その日はそんな夜だった。季節は初冬。何軒かハシゴしてグデングデンに酔っ払い、時計を見るともう日付はとっくに変わっていた。でも大丈夫、今日はいつもよりちょっと遅くなってしまっただけだ。友達は彼が酔って帰るととても嫌な顔をするから、少し酔いを覚ましてから帰った方が無難である。
そんな考えから、柿本さんは繁華街と帰るべき友人宅の間にある、小さな公園に行った。
いつも酔い覚ましのために座るベンチを見る。するとそこには、若い女が一人で座っていた。こんな時間にもかかわらず。長い髪、すらっとした長い脚、そばに寄ってみると、これが結構な美人だ。
公園は狭く、ベンチはこれしかない。柿本さんはどうするか迷ったが、酔った勢いも手伝って、その女の横に座ることにした。
「ここ、いいですか? 座りますよ」
そう声をかけ、彼は女の横に、少し間隔を取って、どっかと腰を下ろした。
さりげなく様子を窺うが、女は嫌な顔一つせず、それどころか彼を見て少し微笑んだようにすら見えた。
調子に乗った柿本さんはさらに話しかけた。
「こんな遅い時間にどうしたんですか?」
女は、飲み過ぎてしまって、終電も逃してしまい、それでどうしようかと考えながら、酔いを覚ましていると答えた。
「そうなんですか。いや実は僕もなんですよ」
そこからも二人の会話は続いた。初対面の女性とこんなにも会話が弾んだことはないというくらいに盛り上がった。その流れで彼は言った。
「うちに来ますか? と言っても友達の家なんですが、空いてる部屋は他にもあるし、そこで休んだらどうです? 友達もいいって言ってくれますよ」
それならお願いしますと、女はその申し出に応じた。
二人連れ立って、夜の通りを歩く。商店街を抜けると、そこはどこにでもある住宅街だ。街灯もまばらで薄暗い。すぐ横を歩く女の顔もよく見えない。
十分ほど歩いて、友人宅に着いた。
鍵を開けて玄関に入り、「おーい、上田~」と友達を呼んだ。
「あ、お前また酔っ払って。うっとうしいなあ!」
嫌悪感も露わに、奥から友達が出てきた。
「すまんすまん、でもな、困ってる人がいるから、今夜だけこの人を泊めたってくれへんか?」
玄関まで出てきた友達がさらに嫌そうな顔で女の方を見る。
俯いていた女が、お願いしますと言いながらゆっくり顔を上げた。玄関の明かりの下で見るその女はやはり美しかった。
ところが、友人は「ひっ!」と息を飲み、続けて大声で叫んだかと思うと、慌てて奥へと逃げてしまった。
「おい、どうしてん! 上田!?」
奥に向かって話しかけるが、友人は顔も出さず「お前、何やねんそれ! どっか行け! 早くどっか連れて行け!」などと喚くように言うばかりである。
友達の許可がなければさすがに他人を上がらせるわけにはいかない。柿本さんは女に謝って、再び友人宅を出た。
結局二人はまた先ほどの公園に戻り、ベンチに座って世間話をしながら夜を明かすことにした。話は盛り上がって、とても楽しい夜になったという。
ところが、もうすぐ夜明けという頃、ふと気が付くと、女は消えていた。今の今までしゃべっていたのだ。居眠りをしたとか、そんなこともない。とにかくどうなったのかよく分からないのだが、二人でしゃべっていて、ふと見るともうどこにもいなくなっていたのである。
柿本さんは念のため、そこでそのまま女が戻ってくるのを待っていた。しかし、すっかり辺りが明るくなっても女は姿を現さない。それで仕方なしに友人宅へと帰った。
帰宅すると友人が物凄い剣幕で突っかかってきた。
「昨夜のあの女はなんや! めっちゃびっくりしたわ! 変なもん、連れて帰んな!」
何を言っているのか意味が解らないので、詳しく聞いてみると、友人はこう説明した。
柿本さんが泊めてやってほしいというので、女を見ると、上げた女のその顔が突然ドロドロと溶け始めたというのだ。あまりに驚いたので、見たのは一瞬だけだったが、溶けて露わになった眼窩の奥に眼球がズブリと消えていくのを明瞭に覚えているそうだ。
柿本さんは「こいつ何を言ってるんだ」と最初は思ったが、怯えながら語る友人の様子を見ていると、とても嘘を言っているようには思えなくなった。
改めてよくよく考えたら、あの女の顔が全く思い出せないことにも気が付いた。美人だったことは覚えているのだが、どんな顔だったかが浮かんでこないのだ。公園に戻って話している時も、顔は見えなかったように思える。最初に見た時と、玄関の明かりの下で見た時はすごい美人だなと思ったのだが、あれは一体どういうことだったのか。
今ではあの時に会った女は普通の人間ではなかったと、柿本さんは確信している。
―了―
著者紹介
宇津呂鹿太郎 (うつろ・しかたろう)
兵庫県尼崎市出身。怪談作家。NPO法人宇津呂怪談事務所所長。
幼少期より怪談の蒐集を始め、現在に至る。これまで集めた怪談は700話を超える。
怪談作家として自ら聞き集めた怪異体験談を書籍化する傍ら、各地で怪談ライブの主催、出演も行う。
著書に『怪談売買録 死季』(竹書房)、『兵庫の怖い話―ジェームス山に潜む老紳士―』(TOブックス)、『怪談売買所~あなたの怖い体験、百円で買い取ります~』(ライツ社)など。DVDに『怪奇蒐集者 宇津呂鹿太郎』(楽創舎)などがある。また「怪談のシーハナ聞かせてよ。」(エンタメ~テレ)や「怪談テラーズ」(MONDO TV)、「月曜から夜更かし」(日本テレビ)等、テレビ番組にも出演。ABCラジオ「にっぽん怪談紀行~柳田~」レギュラー出演中。
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