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大森望『ベストSF2022』序

 日本の短編SFに新時代が到来している。本書の収録候補を選んでいるときはまったく意識していなかったのだが、ああでもないこうでもないと悩んだ挙げ句どうにかまとめあげた候補作リストを担当編集者の竹書房・水上志郎氏に送ったところ、「ずいぶん新人が多いですね」と言われ、あらためて見直してみるとたしかにそのとおり。まだ単独著書のない人が収録作家の半数を占めている。
 当然のことながら、本書の目次を見て、「なんだか知らない名前が多いなあ……」と思う読者も多いでしょうが、ご心配なく。意図的に新鋭の作品を選んだわけではなく、2021年(月号・奥付に準拠)に日本語で発表された新作の中から、「これがこの年のベストSFだ」と編者が勝手に考える短編十編を選んだところ、結果的に新人・新鋭が多くなったというだけのこと。日本SFはいま、デビュー間もない新世代が躍動する、活力に満ちた時代を迎えている。
 そのことは、発売たちまち重版した伴名練編の新鋭SF作家アンソロジー『新しい世界を生きるための14のSF』(ハヤカワ文庫JA)や、本書とほぼ同時に店頭に並ぶはずの井 上彼方編『SFアンソロジー 新月/朧木果樹園の軌跡』 (Kaguya Books)を読めば明らかだろう。本書もまた、そういう新時代を象徴する一冊なのである。
 ……というわけで、創元SF文庫《年刊日本SF傑作選》の後継となる新たな日本SF短編年間ベストアンソロジー《ベストSF》シリーズの第三弾、『ベストSF2022』をお届けする。
 トップを飾る酉島伝法「もふとん」は、もふもふしたふとんの話―ではなく、もふもふしたふとんのような生き物〝膚団(ふとん)〞の話。つづく吉羽善「或ルチュパカブラ」は山羊の血を吸うという未確認生物(UMA)チュパカブラの話ではなく―と思ったらやっぱりチュパカブラの話ですが、私たちが知るチュパカブラとはちょっと違うかも。豚が絶滅した未来の台湾を舞台にした溝渕久美子「神の豚」にはそこに存在するはずのない豚が出てきます。
〝へんないきもの〞シリーズはまだまだ続き、太平洋戦争末期の北ボルネオ戦線に従軍した人間(考えてみればこれがいちばん〝へんないきもの〞かも)を描く高木ケイ「進化し損ねた猿たち」にはボルネオ・オランウータンが登場。異国つながりの津原泰水「カタル、ハナル、キユ」はハナル国の伝統音楽イムを核にした異文化SFですが、こちらにも薰衣猴(ラヴェンダーモンキー)呼ばれる架空のサルが出てきて、重要な役割を果たす。感染症でつながる十三不塔「絶笑世界」では、意外な流行病の意外な特効薬(?)が発見される。円城塔「墓の書」は作中人物のお墓について論文スタイルで語り、〝異常論文〞の極北とも言うべき鈴木一平+山本浩貴(いぬのせなか座)「無断と土」では、架空のVRホラーゲームをめぐる怪奇論文というか論文怪談が展開される。第3回百合文芸小説コンテストSFマガジン賞受賞の坂崎かおる「電信柱より」は生物と無生物の境を超えた愛を描き、〈コミック百合姫〉の表紙に連載された伴名練「百年文通」は百年の時を超えた愛を描く。
 以上、二〇二一年の日本が誇る短編SFのベストテン。ごゆるりとお楽しみください。
                      大森 望