2022年1月30日
【今日は何の日?】1月30日:3分間電話の日
携帯電話の普及により最近めっきり使用することがなくなった公衆電話ですが、昔は外から連絡をとる手段と言えば公衆電話でした。1970(昭和45)年1月30日、公衆電話から市内通話の料金が3分 / 10円に設定されたことにちなんで制定された記念日。
さて本日の怪談は……
「ワイパー」
雨が降り出した。フロントグラスに雨粒が衝突する。
二本のブレードが、激しく降る雨を弾きながら右に振り切られて一瞬静止する。
ブレードは眼前に直立する平行線を描くが、その隙間に男の顔が張り付いていた。
透明の水滴でできた顔だ。
浮き出た苦悶の表情は、弧を描きながら戻っていくブレードにこそげ落とされて消える。
ワイパーが一番右に戻ると、ブレードとブレードの間に男の顔が浮かぶ。
最初は油膜か何かの悪戯だろうと思った。
だが、暫く経つ内に、我慢できなくなった。
顔がこちらを見ているように思えてきたからだ。
ワイパーの速度を変える。しかし、速ければ速いなりに、遅ければ遅いなりに顔が浮き出ては次の瞬間拭き取られる。
コンビニの駐車場に入り、フロントグラスを念入りに拭いた。
これでいいだろう。
再び雨の中を走り始めた。
暫くの間、顔は出なかった。
走っている間に再び顔が浮き出てきた。
今度はワイパーで拭き取れない。
指先を伸ばしてみると、フロントグラスの内側に水滴で顔が描かれていた。
◆
「ワイパー」神沼三平太『恐怖箱 百聞』