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恐怖の切れ味、劇薬級!『暗獄怪談 或る男の死』(鷲羽大介/著)著者コメント&収録話「小鳥にひかれて」全文掲載
恐怖の切れ味、劇薬級!
体験者の奇憶を生々しく掘り起こす怪想録
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内容・あらすじ
取材する怪談作家の身に降りかかるのは、奇妙な出来事ばかり。
巻き込まれているのか? 巻き込まれにいっているのか?
黒木あるじ大推薦の気鋭の書き手が書き綴る怪異の数々。
・プールの監視員の仕事の先輩が急に辞めてしまった、水が怖いという彼女に起きた悲劇「浅瀬」
・母親が亡くなった時に引き継いだ不思議な能力「母の教え」
・学生時代の友人は祖母の遺品の中にあった封印された箱を見つけた──それを開封するときに立ち会うことになったのだが…。驚愕の顛末を描く「或る男の死」
など驚異の117話一挙収録!
著者コメント
一年ぶりの単著となります。前作をお読みの方はお久しぶりです。お前なんか知らねえという方ははじめまして、鷲羽大介と申します。
不思議な話、奇妙な話に目がない私ですが、そう広言しているせいか、集まってくる話も自ずとそういう色彩を帯びることになり、前作をお読みになった方の中には、困惑した方も少なくなかったと聞きます。
人が怪異に触れると、否定する人、逃げ出す人、受け入れてしまう人など、それぞれの反応があることでしょう。私はどうやら、受け入れてしまうタイプの人々に縁があると見え、結果としてこのような本ができてしまうわけです。本作も、そういう人たちの姿をなるべく伝えることができるように書いたつもりです。
また本作では、私自身の周りで起こった出来事も収録されています。前作『暗獄怪談 憑かれた話』に収録したエピソードの後日談といいますか、完結篇のような話になりました。表題作「或る男の死」は、本作のラストに収録されています。これから寒くなる時期ですが、みなさまくれぐれもお身体には気をつけて、ご自愛くださいますよう。
1話試し読み
小鳥にひかれて
克彦さんは、仕事の用事で実家の近くへ来たので、祖父母の墓参りをしに行った。
子供の頃から何度も来ている、馴染み深い墓地へ足を踏み入れると、白っぽい小鳥が飛んできて目の前の地面に降りた。
近寄っても飛び去らず、こちらを先導するかのようにちょこちょこと跳びはねている。
なんとなく、ついていってみようという気になった。
自分の家の墓を通り過ぎ、墓地の奥のほうまで連れていかれる。
ある墓の前で小鳥は立ち止まり、墓石の上に跳び乗ると、一声鳴いてどこかへ飛び去っていった。墓石に刻まれた名字を見ると、なんとなく覚えのあるような気がする。
小学校に入る前に仲良くしていた、幼なじみの家だということに気づくのに、三十秒ほどかかった。
墓の側面を見ると、幼なじみ本人とその両親の名が彫られている。
命日は三人とも同じ、二年前の今日だった。
ちょうど三回忌のはずだというのに、墓は荒れていて、誰も参る者がないようだ。
克彦さんは、五歳ぐらいの頃しか知らないが彼のことが可哀想だと思い、祖父母に供えるはずだった花と線香を、ここに供えてあげようと思った。
墓の前にしゃがみ、線香に火をつけ、手を合わせる。
立ち上がってふと自分の家の墓を見ると、墓石の上に、さっきの小鳥を鋭い嘴にくわえた鷹がとまっていた。
―了―
★著者紹介
鷲羽大介 (わしゅう・だいすけ)
174センチ89キロ。右投げ右打ち。「せんだい文学塾」代表。
著書に『暗獄怪談 憑かれた話』、共著に「江戸怪談を読む」シリーズ『猫の怪』『皿屋敷 幽霊お菊と皿と井戸』のほか、「奥羽怪談」「怪談四十九夜」「瞬殺怪談」各シリーズなど。
シリーズ好評既刊
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