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新シリーズ爆誕!戦慄を紡ぐ七人競作集『怪談七変幻』収録話「ハトのことなら大丈夫」(黒史郎)全文公開

戦慄を紡ぐ七人競作集

内容・あらすじ

「あの子たち、どんな死に方をしたんでしょう」
学校に現れる異形の怪異たち

七人の怪談巧者たちが魅せる七色の恐怖!

ベテランから新進気鋭までクセありな七名が集結、その奇妙奇天烈な味わいを堪能する新たなシリーズが登場。
・解体作業の現場で出てきた物は…「仏に非ず」(クダマツヒロシ)
・中年男にいつも妙なことを言われ…「ハトのことなら大丈夫」(黒史郎)
・無人販売所に並べられていたものを見て驚愕「生首とパイナップル」(蛙坂須美)
・夜中に起きた幼い息子の異変「三月二十日」(丸山政也)
・歴史資料館で石器を見てから感じる何者かの気配「共に闇を駆ける」(雨宮淳司)
・初めて入った店なのになぜ…「常連」(鷲羽大介)
・葬儀から始まった一連の怪異「祖母の振袖」(神沼三平太)など全44話収録。

試し読み1話

ハトのことなら大丈夫

黒史郎

 萌香さんは月に何度か、都内にある整体に通っている。
 施術のレベルが高くて口コミでも高評価だが、場所がよくない。治安がレッドゾーンな地域の路地裏にある雑居ビルの中。いつも最終受付ギリギリの時間に飛び込むので、行きも帰りも薄暗く人通りのない道を歩くのは毎度のこととはいえ、とても緊張するという。
「わたしって謎の引きがあって、よく酔っ払いやヤカラ系に絡まれるんです。だから、防犯スプレーはマストアイテム。必ずバッグに入れてます」
 その日、施術が終わってビルを出ると、突然「あのね」と声をかけられた。
 ダブルのスーツを着た中年男性である。
 無視して行こうとすると、「まって、まって」と追いかけてきて、前に回りこんで道を塞いでくる。
 萌香さんはバッグの中でスプレーを掴みながら、「なんですか」と訊いた。
「よくここでハトがたくさん死んでいると思うんだけど」
 そういって男性は整体院の入っているビルの入り口を指す。 
「でも、大丈夫だから。大丈夫だからね」
 それだけ言うと男性は道を譲るように横に退いた。
 萌香さんは「はあ、どうも」と小さく会釈し、その横を通って足早に立ち去った。
 翌月、このことを整体の先生に話したら苦笑いされた。
「また変な人に絡まれましたね。もう二十年くらいここでやってますけど、ハトが死んでるところなんて一度も見たことないですよ」
 町中でハトがたくさん死んでいたら、今なら鳥インフルエンザだと大騒ぎになっているはずだという。
「じゃあ、なんなんですかね、あのハトおじさん」
「そりゃ酔っ払いでしょう」
 そんな会話をしながら施術を受け、終わってビルを出ると「あのね」と声をかけられる。
 ダブルのスーツを着た中年男性。
 顔までは覚えていなかったが、間違いなくハトおじさんだった。
「大丈夫だから。いつもハトがたくさん死んでいると思うけど、大丈夫」
 きっとこの人にだけ、たくさんのハトの死骸がえているのだろう。
 それから萌香さんは、その整体院へ行くたびハトおじさんに声をかけられた。
 来た時はいないのだが、施術を終えた二十三時頃にビルを出ると必ずいる。毎日、同じ時間にいて、ビルから出てくる人みんなに声をかけているのかと思ったが、整体院の人たちは一度も見たことがないというから気味が悪い。萌香さんの話を聞いてスタッフがわざわざ外へ見に行ったりもしたが、誰一人会えた人はいなかった。
「まあ、声をかけてくる以外の害はないし、別にいいかと思っていたんですが」
 先週、施術を終えてビルを出ると、いつものようにハトおじさんが待っていた。
 スススッと寄ってきて、
「もう警察に通報したから」
「は?」
「いつもここでハトがたくさん死んでるでしょ。でも通報したから。もうハトのことは大丈夫だから」
 真顔で話すハトおじさんの足もとを見て、萌香さんは凍りついた。
 ズボンの裾が黒く濡れていて、そこにびっしり鳥の羽がついている。
 ベロクロスニーカーのマジックテープが両足ともめくれていて、そこにもたくさんの羽が固まって絡まっていた。

―了―

著者紹介

黒 史郎 (くろ・しろう)

小説家として活動する傍ら、実話怪談も多く手掛ける。「実話蒐録集」「異界怪談」各シリーズ、『横浜怪談』『川崎怪談』『実話怪談 黒異譚』『黒怪談傑作選 闇の舌』『ボギー 怪異考察士の憶測』など。

蛙坂須美 (あさか・すみ)

Webを中心に実話怪談を発表し続け、共著作『瞬殺怪談 鬼幽』でデビュー。国内外の文学に精通し、文芸誌への寄稿など枠にとらわれない活動を展開している。著書に『怪談六道 ねむり地獄』など。

雨宮淳司 (あめみや・じゅんじ)

1960年北九州生まれ。医療に従事する傍ら、趣味で実話怪談を蒐集する。実話怪談コンテスト「超‐1」をきっかけに、2008年『恐怖箱 怪医』で単著デビュー、続く『恐怖箱 怪癒』『恐怖箱 怪痾』で病院怪談三部作を完結させた。その他主な著作に『怪談群書 墜落人形』など。

神沼三平太 (かみぬま・さんぺいた)

神奈川県茅ヶ崎市出身。大学や専門学校で非常勤講師として教鞭を取る一方で、全国津々浦々での怪異体験を幅広く蒐集する。主な著書に『怪奇異聞帖 地獄ねぐら』『実話怪談 揺籃蒐』『実話怪談 凄惨蒐』『甲州怪談』『湘南怪談』、三行怪談千話を収録した『千粒怪談 雑穢』など。

クダマツヒロシ (くだまつ・ひろし)

兵庫県神戸市出身。2021年から怪談を語る活動を開始。兄の影響でオカルトや怪談に興味を持ち、幼少期から現在に至るまで怪談蒐集をライフワークとしている。2023年、怪談マンスリーコンテスト「瞬殺怪談」企画にて、超短編部門で平山賞・黒木賞をダブル受賞。著書に『令和怪談集 恐の胎動』など。

丸山政也 (まるやま・まさや)

2011年「もうひとりのダイアナ」で第3回『幽』怪談実話コンテスト大賞受賞。「奇譚百物語」「信州怪談」各シリーズ、『怪談心中』『怪談実話 死神は招くよ』『恐怖実話 奇想怪談』など。

鷲羽大介 (わしゅう・だいすけ)

174センチ89キロ。右投げ右打ち。「せんだい文学塾」代表。著書に『暗獄怪談 憑かれた話』『暗獄怪談 或る男の死』『暗獄怪談 我が名は死神』など。

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