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【創作絵本】 火の国の王子さまと氷の国のお姫さま 【ショートストーリー】

 昔々も大昔、これは人々がまだこの地球に存在していなかった頃のおはなしです。

 その頃、世界は今よりもずっと混沌としていて、神様は毎日毎日、頭を悩ませながらもこの世界にいくつかの国を作りました。
 その中のひとつに、一年中が火に包まれた「火の国」という国がありました。

 火の国の者達はみんな野蛮で、争いをとても好んでいたので他の国の者達からは火だけに、煙たがられていたのでした。
 神様はそんな火の国とはまるで反対の、一年中が氷に包まれた「氷の国」を作りました。
 氷の国の者達は皆大人しく、周りの国との争いを嫌ってとてもとても静かに暮らしていました。

 ある日、世界中の国の偉い者達が集まるパーティーが催されました。
 遥か東にある太陽が美しく昇る「太陽の国」でそのパーティーが行われたのです。
 世界中の美味しい料理や酒、歌や音楽を皆が持ち寄って楽しみました。

 火の国の王子さまは宴が真っ盛りなのにも関わらず、静かに椅子に座るある国のお姫さまに目を奪われました。

「なんて美しいんだ」

 火の国の王子さまは見た事もないくらいに美しいお姫さまの姿にすっかり心を奪われ、赤い顔をさらに赤らめてお姫さまに近づいてみました。

「お姫さま、私は火の国の王子と申します。お願いがあります。どうか、あなたとお話しをさせていただきませんか?」

 そう言われ、氷の国のお姫さまはびっくりしました。けれど、火の国の王子さまの燃えあがる瞳に興味を持ちました。

「あなたは、なぜそんなに強い目をしていらっしゃるの?」
「私の国はいつも燃えているからです。あなたへの愛も今、燃えているのですよ」
「あら」

 氷の国のお姫さまはあまりにも真っ直ぐな火の国の王子さまの言葉に恥かしくなってしまいました。氷の国の者達に、これだけ「愛」をはっきりと語る者などいなかったのです。

 おかしなことに、お姫さまは恥ずかしいと思ったものの、けっして嫌ではなかったのでした。

 王子さまと仲良くなりたい。自然とそう思いながら、しばらくの間二人は楽しくおしゃべりをしていました。しかし、そんな二人の姿を見た氷の国の王様はプンプンに怒ってしまいました。

「コイツはいかん。おまえは水の国の王子と結婚すると決まっているのだ。火の国の王子は油の国のお姫さまと結婚すると昔から決まっている。だいたい、こんな野蛮な国の者が氷の国の者と話しが合うわけがない」
「王様、それでも私は今までのしきたりを変えてみせたいのです。それほどに、私はお姫さまを愛してしまいました」
「ふざけるな! 出て行け!」

 楽しかった宴はあっという間にどんちゃん騒ぎへ変わってしまいました。
 争いが大好きな火の国の者達が「待ってました」と言わんばかりに暴れまわったのです。水の国の者達が相手になると、ついに収集がつかなくなりました。
 ケンカしたまま、宴は終わりました。

 それでも火の国の王子さまは氷の国のお姫さまのことを、氷の国のお姫さまは火の国の王子さまのことを、忘れられなくなってしまいました。
 神様はその頃、くしゃみが止まらずにヘクション! と、大きなくしゃみをした時に間違えて二人にとっておきの愛を与えてしまったのです。それは「最後に使おう」と大切に取っておいた、特別な愛だったのです。

 そうとは知らない二人はお互い、どうにか会えないものかと心を悩ませました。
 下手に会いに行こうとすれば国民を巻き込んで大戦争になるのは間違いなさそうだったのです。

 すると、「地の国」の王子が

「僕の国は誰に対しても平等だから、僕の国で会えばいい」

 と提案しました。
 二人はそれぞれの王様の目を盗んで、たびたび地の国で会うようになりました。
 会いに行く時は今まで味わったことのない喜びを感じ、離れる時は今まで味わったことのない悲しみを感じました。

 ある日、氷の国の女王さまがお姫さまが出かける支度をしているのを見て声をかけました。

「あなたに大切な人ができたようね」

 お姫さまは思わずあわててしまいました。

「お母さま、違うのですわよ? 私は、地の国の景色を見て、それで、えっと、色々勉強をしている最中ですのよ」
「あら、私は行き先なんか聞いてないわよ。そうね、これをあなたに授けるわ」

 女王さまは国の宝物であるティアラをお姫さまに与えました。
 それを受け取ったお姫様は少し、困ってしまいました。

「お母様。本当のことを言えば、私はこのティアラを受け取る資格なんかないのです。だって、私は水の国の王子さまではなく……」

 勇気を振り絞ってそこまで言うと、女王さまは少し笑ってこう言いました。

「いいのよ。神様が与えてくださった愛ですもの。私たちが言葉や心でいくら反対をしてみても、神様にはかなわないのですから」

 その言葉にお姫さまは自信を持って大きくうなずいて、ティアラを頭に飾って地の国へ出かけました。

 地の国は荒涼とした風景が広がっています。その広い広い大地にぽつんと大きな岩がありました。
 その岩の陰で「まだかまだか」、と火の国の王子さまが気を揉んでいると、やって来たお姫さまの姿を見て突然、王子さまは顔を真っ赤っ赤にさせました。

「今日の君はなんて綺麗なんだ。目も合わせられないや。神様がとても大事に君を作ってくれたに違いない。そんな君に出会えた僕は幸せものだ」
「今日の私はそんなに綺麗なのですか? とても嬉しいわ」

 氷の鏡を作って嬉しそうに自分を眺めるお姫さまを見ていると、王子さまはお姫さまを抱きしめたくなり、ぎゅっと力をこめて抱きしめました。
 氷の国のお姫さまは、抱きしめられると嬉しくなり、とても安心しました。
 そうして二人は、離れたくなくなってしまいました。

 何日もそうやって地の国で抱きしめ合っていた二人を心配して、それぞれの国の者達が二人を探しに地の国へやって来ました。
 広い広い、何もない荒れた土地の隅っこで、二人は抱きしめ合っていました。
 それを見た氷の国の者達は悲鳴を上げました。

「お姫さま!」

 なんと、お姫さまは溶けて小さくなり始めていたのです。
 それでも、お姫さまは王子さまから離れたくなかったのです。
 どんどん小さくなって行くお姫さまは、何度も何度も王子さまにお願いをしました。

「絶対に離さないでください。どうせいつか溶けて消えてしまうなら、あなたの腕の中が一番良いのです」

 王子さまはどんどん溶けて小さくなって行くお姫さまの言う通りにしました。
 周りの者達がいくら引き離そうとしても、二人は離れませんでした。
 そして、お姫さまはやがてその姿をなくし始め、ティアラが輝きながら地面に落ちました。
 火の国の王子さまはおいおいと泣きながら、手の中に残ったお姫さまに頬を擦り寄せました。

「ありがとう。王子さま、私は消えてしまっても、あなたをずっと愛しております」

 そう言ってとうとう、お姫さまは消えてしまいました。
 そして、溶けて消えたお姫さまは地面に染み込んで行きました。 

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 悲しみに打ちのめされ、涙を流す王子さま。


 その涙は自身の熱で次々に蒸発して、それはやがて大きな雲になりました。

 大きな雲となった王子さまの涙が地の国に雨を降らせました。
 雨が降る中、お姫さまの居た場所から離れなかった王子さまはどんどん冷たくなって行き、とうとう王子さまの身体は雲になって消えてしまいました。

 雨があがり、地の国に晴れの日がやって来ました。
 すると、二人の居た場所に今まで誰も見たこともないほど綺麗なものが姿を現しました。

 あまりに綺麗なその姿を一目見ようと、大勢の国の者達が見物に訪れました。
 それを見た者はみんな、息を呑んでため息をつきました。

 地の国に現れたため息が出るほどに美しいものに、神様はたくさんたくさん悩んだ末に「花」と名付けました。

 地の国に現れた花はやがてあちこちに咲き誇り、地の国はやがて「花の国」となりました。
 そうして花がたくさん咲くと、今度は虫や動物が花の国から生まれました。
 地球はとてもにぎやかになって、それから長い長い平和な時間が訪れました。

 ようやく椅子に腰を下ろした神様は、青く綺麗に輝くその星を「楽園」と名付けました。

 おしまい。



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お読み頂きありがとうごさいました。
こちらの記事は画家の清世さんの企画から絵を描いて頂き、絵を使用、記事を再編集したものです。
素敵な絵のおかげで作品の幅が広がり、大人に読んで欲しい絵本として復活させることができたかな、と思っております。 

清世さんを知ったのはいつだったか、もう半年くらい前だった気がします。
その頃は全く接点がなかったので「凄い絵を描く人がいるな」という恐れ多い気持ちでだいぶ遠巻きに眺めているだけでした。

そんな中、ビクビクしつつ接点を持ったのが「記事から絵」という企画で、そこで今回のおはなしを素晴らしい一枚の絵に表現して頂いたのがきっかけで接点を持つように。
その後も「路上100」、「絵から小説」など、暇がない勢いで企画を実現させていく姿は初めて絵を見た時と同様、驚嘆を隠せずにはいられませんでした。
「見た!」「参加した!」という方もかなりいらっしゃると思います。

そしてまた、清世さんは新たなる挑戦を始めようとしています。

僕は普段noterの方と交流を持つ機会はあまりなかったのですが、たびたび交流をさせて頂いているうちに「この方の感性は自分と通ずるものがあるなぁと」強く感じるようになりました。

光を書くのに闇が必要なように、闇を書くのにも光は必要です。

表現を行う上で、目に見える部分だけを書く(描く)のはドキュメンタリーになってしまいます。それはそれでとても凄いことだと思うんですが、きっと表現したいのはそういう事ではないんだろうと思うし、僕自身もそうです。目には見えなかった部分、陰になりがちだった部分、そういった物を重ね含め、人や風景が生まれるのではないのかなぁと思ってます。

僕と清世さんは表現方法も手段も全く異なる作品を創り続けているのですが、表現の根幹にあるもの、目に見えている先の景色が近いのかな、とも感じています。

だからこそ、これから先の活躍を見続けて行きたいと思ってかなり前のめりに(時にストーカーのように)宣伝させて頂く機会がある訳です。
この人は一体何処まで進んで行くのだろうか、その人を見ながらも自分は一体何処まで行けるのだろうか、そんな風に思える心から尊敬するクリエイターさんの一人です。

何かを作り続けている限り、ずっとわくわくしていたい。
そんな単純で楽しい想いも、創作の醍醐味のひとつだと感じています。

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