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【解説編】成長実感がなくなったから転職したいって考えるのはダメですか?~何がしたいのかわからないから次の職場を決められない25歳(アユミ)の悩み②~

こんにちは。株式会社シンシア・ハートで代表取締役をしている堀内猛志(takenoko1220)です。

前回は『成長実感がなくなったから転職したいって考えるのはダメですか?~何がしたいのかわからないから次の職場を決められない25歳(アユミ)の悩み』について書きました。

今回は前回のnoteの解説編です。


「成長」と「成長実感」の違い

「成長」とは何か

なんか哲学的な話からスタートしますが定義を決めることは大事ですね。辞書で引くと成長とは『育って成熟すること』ですが、今回のテーマからすると若者にとっては何を持って成長とするかということを定義する必要があります。

「成長」のイメージについてパーソル綜合研究所は以下の8つの要素を抽出しいています。

・視野の拡大
・効率性の向上
・専門性の向上
・コミュニケーション力の向上
・報酬の向上
・より高い成績、評価を得ること
・ワークライフバランスの充実
・キャリアの明確化

1万人から聞いた成長の定義

ちょっと「?」を感じる項目ですね。前半の4つは能力やスキルが向上しているので成長と捉えてもよさそうですが、後半4つは評価、環境の変化、視野の変化に見えるので。これが成長なのか?という疑問がわきます。

しかしです。

成長イメージの割合(出典:「働く1万人成長実態調査2017」パーソル総合研究所)

多くの人がぶっちぎりで「報酬の向上」を成長においているのです。

勉強やスポーツと同じく、仕事も「何かができるようになった」と感じるのは一人では難しいものです。勉強やスポーツなら、テストや試合を通して他人と比較することによって自分の成長を実感することができますが、仕事にはそれがありません。よって、フィードバック、報酬というわかりやすい他者評価によって成長を推し量るしかないというわけでしょう。

報酬の向上=成長とするのは短絡的で危険ですが、きちんとした目標設定と評価のうえで報酬の向上があれば、それを成長と置き換えても良いと言えます。

適切な目標設定&実践による能力向上&適切な評価☛報酬の向上 ≒ 成長

「成長実感」とは何か

成長実感とは成長を「わかりやすく実感すること」だと考えます。ポイントは「わかりやすく」です。前述したようにビジネスの場面ではなかなか成長を実感する機会がないので、報酬の向上を持って多くの人は成長を感じています。

しかし、昇給するタイミングは通常の企業では1年に一度か半年に一度です。タイパを気にする若者には、この周期では遅すぎて実感がないわけです。それを見越して3か月に一度の評価を実践している企業も少なからずあります。人事の立場からすると評価期間のピッチが短いのは辛いのですが、メンバーの成長実感のためには大事だと考えます。

ただ、報酬は無限に上げ続けることができないため、報酬回数をさらに3ヶ月に1度以上に増やすことは現実的ではないでしょう。また、本来能力はそんなに早く身に着くモノでもないので、少しの能力向上で報酬向上に紐づけるのは難しいです。

そこで重要になるのが上司によるフィードバックです。ロミンガーの法則では「薫陶」にあたる部分ですね。

ロミンガーの法則 ※アルーより引用

70(業務経験)……実際の業務を経験する過程で得られる学びや教訓
20(薫陶)……上司や先輩からの直接指導
10(研修)……研修や読書、eラーニングなど

業務経験が成長に一番寄与するのは誰もが認めることだと思いますが、僕は薫陶の役割は20どころでは済まないと思っています。なぜなら、新人が1人だけで業務を行い、それによって得られる学びや成長を100とすると、上司の薫陶(問いの設定)とセットになることでそれが200にも1000にもなるからです。これは上司の薫陶によって、本人の視座、視野、視点を変えることができるということです。

業務経験 × 上司からの薫陶(問いの設定) = 様々な観点での成長

例えば、新人の営業がお客様に対して1日100件のコールをしなければいけないとしましょう。正直、電話営業は辛いです。ガチャ切りされて心が折れそうになった経験は僕にもあります。しかし、このコールの目的はなんでしょうか?コールの先にどんな世界が待っているのでしょうか?このように行動の目的や意義を考えると、1件のただのコールが意味のあるものに感じられるはずです。このように自身のやっている行動の抽象度を上げ下げして、目標を理解したり、行動を具体化したり、魅力的に意味づけすることをラダー効果と言います。

ラダー効果 ※モチベーションクラウドより引用

このラダー効果を新人が1人で実践するのは難しいということです。目の前のことでいっぱいいっぱいの新人は足元しか見えていません。「虫の目だけではなく鳥の目も持て!」と言っても新人には何のこっちゃわかりません。わからないけど上司に言われているので「はい!」と言うでしょう。無意味なやり取りです。新人の視点を上げ、視野を広げ、視座を高く引き上げるために、適切な上司の薫陶(問いの設定)が必要なのです。

さらに、上司はどのように薫陶を行えばいいのか?という疑問が残ります。ここで、個人が成長を実感しやすい心理メカニズムを理解する必要があります。

成長サイクルの心理メカニズム ※リクルートマネジメントソリューションズより引用

上図は成長サイクルの心理メカニズムです。これを見ると、確かにこのようなサイクルを行えば成長を実感することができそうです。しかし、具体的にどうすればいいのかと行動を考えると難しいことがわかります。

▼新人の悩み
期待に応えられたのか?
学びは得られたのか?
得たものが何か?次に生きるのか?生きたのか?
自分らしさとは何か?本当に発揮できたのか?

新人が1人で業務を行っていると上記のような疑問を感じるはずです。つまり、1人では成長を実感することが難しいのです。そこで上司からの薫陶(問いの設定)が必要になります。

▼上司からの問いの設定
期待に応えられたと思いますか?
どんな学びは得られましたか?
得たものは何ですか?どうやって次に生かしますか?
自分らしさとは何でしょうか?それは発揮できたと思いますか?

問いかけられると考えてしまうのが脳です。上記のような問いによって新人は考えます。そして自分の考えをアウトプットし、その内容に対して上司はさらに問いかけたり、フィードバックすることで本人だけではわからなかった気づきを与えるのです。そこでようやく本人は成長を実感することができます。

このサイクルを互いに回すことがとても大事です。そしてお分かりの通り、上司には適切な問いの設定力が求められます。問いの設定力については以下のnoteをご確認ください。

若者には「成長」よりも「成長実感」が必要

昭和生まれの上司は「石の上にも三年」「苦労は買ってでもする」「泥水をすすって這い上がる」というような経験をしている人が多いので、若者がすぐに成長をしたがること、その実感を欲しがることを良しとしない人が多いです。

しかし、以下のようなデータがあります。

成長実感と成長志向の影響度 ※パーソル総合研究所より引用

緑のグラフは成長志向つまり成長意欲です。そしてオレンジのグラフは成長実感です。この図から明らかにわかるように、単に成長意欲を持っている人よりも、成長を実感した人の方が様々な場面でポジティブに動き、成長実感を感じない人が転職したい気持ちを高めていることがわかります。

つまり、若者に成長実感をきちんと感じてもらうように業務をデザインし、マネジメントの薫陶力(問いの設定力)を鍛えることが、現在の組織では非常に重要だということです。

前のnoteに書いたアユミは、成長実感を得られないために転職に踏み切りました。もちろん本人の努力不足の部分もあります。しかし、成長を1人で感じるのは難しいこと、そして、成長実感がもたらす影響度を考えると、それを怠った上司、組織に問題があったと言わざるを得ません。

成長の目的と方向性

とは言え、アユミは転職すれば現職よりも成長できるのか、成長を実感できるのか、という問いを立てると、絶対にイエスとは言い難い状態なのはお分かりいただけると思います。

アユミは、前述したような成長実感のメカニズムをわかっていません。ゆえに、自分のモヤモヤの原因が不明のため、この状態で会社や上司を変えても、同じことが起きるのは明白です。

たまたま次の職場で自分の上司になった人がきちんと薫陶できる人ならいいですが、そうじゃない人であれば、前職のモヤモヤがどこかで押し寄せてきて、同じような悩みと同じような転職を繰り返すことになるだけでしょう。そんなことに対して自身の大事な生命時間、特に20代というかけがえのない時間を使うにはもったいないですよね。

仮に、たまたま次の職場の上司の薫陶力が高かったとしても、アユミ自身がどうありたいのか、という成長の目的や方向性を自分自身で立てられていないと、上司からの薫陶もあまり効果を発揮しません。環境のせいにするだけではなく、アユミ自身も自分に向き合わないといけないのです。

自分のキャリアを考えるうえで使えるのが「キャリアアンカー」という考え方です。

▼キャリア・アンカー
「アンカー(錨)」の名の通り、仕事において個人が絶対に譲れない軸にしているものを指します。具体的には、個人が仕事を進める上でどうしても犠牲にしたくない価値観や欲求を明らかにし、個人のキャリアタイプを大きく以下の8つに分類したものです。

キャリアアンカー ※ダイアモンドオンラインより引用

最終的にどうなりたいか?という問いに答えるのが難しくても、おおよそこちらの方向があっているかも?ということがわかればすっきりするものです。道に迷ったときにゴールが見えなくても、何となくゴールに近い方向に進んでいる感覚があれば前向きになるのと同じです。キャリアアンカーは自分にとって進みやすい道を示してくれるのです。

そして、キャリアアンカーは時期によって変化するものです。もともと専門性を高めたいというアンカーを持っていた人が、時を経て起業家のアンカーに変わったり、家族を持ってからは生活様式のアンカーになったりします。定期的に診断し直して自分の現在のアンカーを見つけると良いでしょう。これで一旦の成長の目的(マイルストン)が決まります。

さらに、アンカーがわかったうえで、自分はどのように成長したらいいかという成長の方向性を決める必要があります。

成長の方向性は3つあります。

拡げる:
 ①ビジネスのバリューチーンを押さえる
 ②MBA的にビジネス全体を網羅する
高める:
 ①レベルの高いアウトプットを出し続ける 
 ②今の自分よりも高い視座視野で仕事をする
深める:
 ①業務のさらなる改善ではなくインプットのレベルを上げる
 ②体験過程で内省し自分の仕事の意味を再定義していく

こちらの詳細は以下のnoteで解説していますので割愛します。

アユミの現状であれば「高める」が良いでしょう。
現時点ではアユミの視野は狭く視座が低い状態であり、その状態を変えるためにも「高める」アプローチが有効です。そして、アユミの上司は本人に気づかせる「問いかけ」を行うのが良いでしょう。

盲目的成長でキャリアに悩んだ人材のメタ認知方法

キャリアにおける心理的袋小路

アユミの視野は狭く視座が低いと前述しましたが、例えるならアユミはキャリアの袋小路にいる状態です。

袋小路のイメージ

横も前もふさがっていて、どこに進めばいいのかわからない状態です。キャリアである以上、後ろに後退するのは心理的に嫌なので、転職することでひょいっと壁を飛び越えたくなるなるのです。誰もが壁を越えたら違う世界が広がっていると夢見ていますからね。

でも、ほとんどの人は今自分がこのような袋小路の状態にいることすらわかっていません。なんかモヤモヤするけど、この不安の正体は何だろう。。みたいな感覚を持ったまま時間だけが過ぎていきます。結果として一度後退して違う道を選んだ方が早いのに、前に進めると信じて袋小路でオロオロしながら時間を浪費するのです。

アユミ含めZ世代が賢明なのは、このような状態で我慢をしないことです。タイパを気にするために嫌なモノはすぐに諦めて次に行こうとします。一方で、Y世代以前、いや、世代というよりも30歳という年齢を超えると人はなぜかキャリアを我慢大会のように考えがちになります。

おそらくは、現状維持バイアス、心理的安全性の高いコンフォートゾーン、ここまで時間と労力を費やしたというサンクコスト、家族を持った責任、など、様々な要因があるのでしょうが、思考停止して袋小路で止まったまま時間を浪費するのが一番ダメです。だったら短絡的でも転職というアクションを起こす方が賢明です。動きさえすれば見える世界が変わりますからね。

自身のメタ認知力を高める

前述の袋小路はあくまでも心理的な袋小路で業務的な袋小路ではありません。つまり、袋小路を作っているのは外的要因ではなく、自分の心理という内的要因なのです。ゆえに、アユミ自身が自分で自分の袋小路を認識し、自分自身を理解する必要があるのです。そのために必要なのが「メタ認知」です。

メタ認知
客観的に自らの認知を自覚すること。つまり、自分が物事について理解しているということを客観的に把握することを意味する。

メタ認知的知識とは、自身について知っている知識です。例えば、以下のような要素は全てメタ認知知識に該当します。

  • 自分は何が得意で何が不得意なのか

  • 自分はどのような状況であればリラックスできるのか

  • 自分はパフォーマンスを発揮するには何が必要なのか

これが答えられる人はメタ認知ができていると言えるレベルです。
答えられる人と、そうではない人のキャリアやパフォーマンスの差が激しくなるのは想像にたやすいと思います。

メタ認知のイメージ ※ココロコミュより引用

メタ認知的知識は3つに分解できます。

①「人」に関わる知識
1つ目は、人の認知特性についての知識です。たとえばアユミの場合だと、「体育会系のチームの雰囲気だと自分は燃える」「マルチタスクが苦手だ」「行動するのは得意だが、座学で学ぶのは苦手だ」など、自分の長所・短所についての知識がこれに当たります。

②「課題」に関わる知識
2つ目が、課題そのものについての知識です。たとえばアユミの場合だと、「将来どうなりたいかというキャリア議論は、次にどんな仕事をしたいかという具体的な議論に比べて結論を出すのが難しい」などのこれまでの経験から得た知識や、これから取り組む課題で何が求められているかについての知識などがこれに当たります。

③「方略」に関わる知識
最後3つ目が、課題を解決するための手法に関する知識です。たとえばアユミの場合だと、「短期間のうちに何度も繰り返したほうが効果的に記憶できる」「実践でやってみることで理解が深まる」など、課題にどう取り組めばよいかに関わる知識がこれに当たります。

いかがでしょう?アユミが仮に上記のようにできたとしたらだいぶ次のアクションは違ってきそうですよね。

まとめるとメタ認知力が高い人と低い人では以下のような差が生まれます。

▼メタ認知力が高い人
冷静な判断と行動ができる
・自分の強み・弱みを生かして判断できる
・周囲の人と適切な人間関係を構築できる

ミスからも素早く成長できる

▼メタ認知力が低い人
場当たり的で感情に左右されやすい
・相手のことを考えずに一方的な言動をとってしまう
・自己肯定感や成長力が低い

激しく違うのがわかると思います。

アユミが自己肯定感が低いまま不安になり、場当たり的に転職活動を行い、また、周囲からのアドバイスも聞いているようで聞いていない状態で一方的な言動をとっている理由が説明できますね。

では、具体的にメタ認知力はどのように高めたらいいのでしょうか?方法はかなりあるのですが、ここでは3つを紹介します。

①セルフモニタリングを行う
セルフモニタリングとは、自分自身を観察するという意味であり、自分が意識せずに行っている思考や行動に対する気付きを自身で得るトレーニング方法です。具体的には、「今の状況」「思考」「気分」「行動」「体の反応」の5観点を紙に書き起こすことで、自身を客観的に捉えることができます。

②ジャーナリングを行う
自身の抱えている悩みや不安と言ったネガティブな思考や感情を紙に書き出すことで可視化し、客観的に捉えられるようにするトレーニング方法です。やり方は非常に簡単で、自分が今抱えている感情や思考について、10~20分の間紙に書き続けるだけです。なるべく手を止めず、頭に浮かんだことはすべて書き出すことがポイントです。ジャーナリングは、書く瞑想とも言われ、客観的に自身を見つけることに役立つだけでなく、精神の安定化にも大きな効果があると言われています。

③コーチングを受ける
コーチングの最大の特徴は、第三者から自分の持つ思考のバイアスやパラダイムに気付くきっかけをもらえる点です。自分の思考の癖や習慣は、自分ではなかなか気づかないものです。第三者に観察してもらい、気付くきっかけをもらうことで自身を見つめる機会を作ることができます。ただ、コーチングは専門の知識とスキルを必要とするため、セッションをしてもらう場合にはプロの方に付き合ってもらうことをおすすめします。

筆者もコーチングを行っていますので興味のある方はご連絡ください。

まとめ

2回にわたってアユミというモデルの現状や心象風景と、その悩みの原因及び解決方法について解説してきました。おそらく読者の方にも当てはまることが多々あったのではないかと思います。

多かれ少なかれ、おそらく誰もが通る道でありぶち当たる壁だと思います。ここをクリアするためにメタ認知力について伝えましたが、1人で実践するのは非常に難しいものです。自分のことは自分が一番わからないものですからね。

それは優秀なビジネスパーソンでも同じことです。だからこそ経営者も自分自身にコーチをつけている人が多いのです。メタ認知力向上の方法としてセルフモニタリングやジャーナリングについても解説しましたが、やはり第三者によって解決できることの方が多いです。

特に自己開示の「深度」と内的同期付けには強い相関関係があることがわかっています。つまり、深くまで自分のことを理解し、人に対して開示できる人は、自分のことがよくわかっているので、自分自身でセルフモチベートできる力を持ち合わせているということです。

この「自己開示」も曲者だと思うので、第三者であるプロのコーチを頼っていただければと思います。人材紹介のキャリアカウンセリングは決してコーチングではなありません。ここを間違えてエージェントに無理やり変な転職をさせられないように気をつけましょうね。

それでは今回はこの辺で!


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