いわきFC:「決めきれない病」の克服には、何が必要か?
J2リーグ第30節、8月13日(日)、対ヴァンフォーレ甲府戦をいわきGFで観戦(ネット配信でもう一度見た)。結果は、1-1のドロー、勝ち点33、17位となっている。残り12試合、残留問題を語るにはやや早すぎるが、頭の体操をしてみる。昨年の降格チームは、FC琉球(勝ち点37)と岩手グルージャ盛岡(同34)、両チームの一つ上で残留した20位は、ザスパクサツ群馬(同42)であった。残り12試合で、3勝1分けで勝ち点10が積みあがり、43と、昨年の基準では、残留となる。今年は現時点で、14位から21位までが、勝ち点4差にひしめく大混戦、勝ち点1の重みが違う。そこで、田村采配だが、建前は「魂の息吹くフットボール、90分倒れない、走り切る」がベースにあり、それを選手諸君は、毎試合実行して、感動・勇気を与えてくれている。しかし、J3とJ2では、違いが大きすぎる(優勝賞金でも、J2:3500万円とJ3:750万円とJ3はJ2の5分の1弱)。従って、「負けない、点を取られない」ことを考えに入れることは、極めて合理的だ。3バック(守備の時は5バック)、アンカーを置いて相手のストロングを消す(長崎のファンマ、甲府のウタカ選手対策)は、理にかなった戦法であった。
そこで、最近は、毎回、どんな布陣で臨むのかを予想することが、試合前の楽しみである。だが今回は、先発メンバーを見て、驚いた。スタジアムでの発表形式も変更され、ポジションの紹介がなく、背番号と名前だけがコールされた。というのも谷村、永井選手は、サイドに配置されているが、バックとハーフの中間的ポジションだから、DFかMFかあいまいなのだ。一番の驚きは、3バックのメンバー。江川、黒宮、宮本の3選手。家泉、遠藤選手を休すませた(ベンチ外)だけでなく、黒宮選手をセンターに大抜擢(今季初先発、昨年も1試合のみの出場)ととても大胆な賭けにでた。黒宮選手(いわき出身)は奮闘し、ピーターウタカ選手をよく抑えた。ただ、過剰ストレスからか、ハーフタイムでダウン。急遽、石田選手が交代で入り、江川選手がウタカ担当となった。こちらも、下田選手との連携で、ウタカ選手を抑え切った。こうした緊急対応ができるのも、とても器用で気の利く宮本選手の存在があるからで、同選手の働きは、MVPものだった。
選手たちの頑張りに加え、ベンチワークも冴えているのだが、勝ち切れないのが残念。この試合も、いわきは何度も決定機を作った。最初は、開始3分。バックスタンドで見ていた筆者は、目の前に永井選手が敵味方から離れて、まさにぽつんとサイドライン際にいるのに気づいた。たぶんこれはデザインされた配置だったのだろう。いきなりチャンス到来。永井選手の前のスペースにボールが配給され、スピードアップした同選手は、転倒した相手GKを後目に、ゴールチャンスを得た。結果は、サイドネット。すぐ打たずに切り返したらどうだったろうか。後で確認すると、DFが2名来ていたので、シュート以外の選択肢はなかった。ならば、落ち着いて、、、、
試合経過は、前半15分、左サイド奥で得たFKを岩渕選手がシュート性のボールをゴール前に送ると、山口選手に当たってゴールイン。江川選手がオフサイドポジションにいたようだが、審判団の結論として、「プレーに関与せず」で、ゴールが認められた。だが、前半終了間際、甲府のベテラン佐藤選手にミドルシュートを決められ、前半は、1∸1で折り返すことになった。後半、いわきは、ホームでの勝利を目指して、攻勢を強め、5分にはコーナーキックを得ると、山下選手は、鋭いグラウンダーをペナルティボックス外で待つ岩渕選手へ送った。これを、岩渕選手がシュートすると、甲府の佐藤選手がハンドを犯し、PKを得た。キッカーは、岩渕選手。結果論だが、岩渕選手は、GKと駆け引きをせず、予め決めたコースへ強いシュートを打つべきだったか。後半の飲水タイム後にフレッシュな有田、吉澤、河村選手を投入、さらに攻勢を強め、勝ち越しを目指したが、やはり天皇杯チャンピオンチームの堅守を崩すことはできなかった。フリーで打ったシュートが、クロスバーをたたいたり(谷村選手)、左右のポストの外側を通過していったりと、決めきれなかった。反面、ディフェンスは頑張った。何度か決定機を作られたが、高木和選手の好セーブを含め、しのぎ切った。
結局、「決めきれない病」の原因は何か?ネット配信を見ていて、解説の森勇介氏(43歳)が、繰り返して指摘していた説が有力だ。いわきは、最後の質のところが足りていない。フィジカルの強さ、運動量やチャンスメイク技術などは、優れているが、フィニッシュの質に問題がある、と言う。その改善へのヒントが、後半21分の石田選手のプレーにあった。この時、同選手は自陣からドリブルを始め、前にスペースがあったため、ハーフウェイラインを超えてさらに加速、最前線へパスを送った。このパスは、ターゲットからわずかにそれて、チャンスには至らなかった。このプレーを見て、森氏は、「あれほど加速する必要はなかったのではないか。80%のスピードで行けば、最終的なパスの精度も上がったはずだ」と述べた。確かに相手は誰も寄せていなかったので、スローダウンできただろう。なんでも素早くやるのが習慣化しているのだが、落ち着いて精度を上げることも大切だ。このコメントが、Jリーグ最多出場停止記録(14度)を持つ超「短気」な森氏から出たのが、面白い。カッとなりやすい性格を克服した上でのコメントなので傾聴に値する。森氏の解説は、含蓄に富んでいたので「二度見」がとても有意義になった。いわきの選手たちが落ち着いたフィニッシュワークを見せるとき、J1への道が開くだろう。
次節は、8月19日(土)、ホームで現在4位の東京ヴェルディ戦(午後6時KO)。前回は、5月28日(日)第18節、アウエーで0-0のドロー。後半22分、嵯峨選手がペナルティエリア内で倒され、PKを獲得。有田選手が右上を狙ったが、相手GK(マテウス)に阻止され、先制点を奪えなかった。今回、田村監督は、どんな作戦を立てるのか。速いだけでなく、落ち着きのあるプレー・スタイルで相手を圧倒し勝利してもらいたい。甲府戦の入場者数が、4,386人、ヴェルディ戦となれば、それ以上の入場者数が予想される。本当に、ヴェルディの試合がいわきで見ることができるようになるとは、ちょっと前までは、考えられなかった。ありがたいことだ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?