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琉球妖怪 キジムナーとは何か?
以下の文章は、琉球新報の副読誌「かふう」に2018年から連載された「沖縄ミステリーツアー 隣のマジムン」からキジムナーについてまとめたものです。結構詳しく書きました。8600文字あります。暇つぶしにどうぞ。
マジムンとはなにか?
みなさんはマジムンという言葉をご存知だろうか。テレビの琉神マブヤーの悪役の名前で一躍有名になったマジムンという言葉だが、そこで使われる以前から、もっというならそれこそ琉球王朝の時代からマジムンという言葉は庶民の間に存在していた。
マジムンという言葉はいわゆる「妖怪」を指すもの、として理解されているが、沖縄での妖怪と言う概念は本土のそれよりもかなり深くてたくさんの意味合いを持っている。なぜなら琉球弧においては、マジムンとは恐れるものや恐怖の事象などに対してもそう呼ぶし、幽霊全般にもそういう呼び方をするのである。(参考までにいっておくと、昔琉球王朝の支配下にあった奄美諸島では人を殺す毒をもったハブのことを今でもマジムンと呼んだりする)。
マジムンの語源は良く分かっていない。もともとの言葉は、何かモヤモヤしてとらえどころのないものを指した「ムン」という言葉であっただろうと推測できるが、このムンはいろんなものに対して使われた。昔の琉球の人たちにとって、人を助ける神様もムンであったし、危害を加えてのしかかってくる妖怪変化もムンであった。ムンはそれこそ万物すべての中にあって、私たちの身近にあってともに生活していく存在でもあった。
またマジムンに付随する言葉も沢山残っている。たとえばヤナカジ(嫌な風)という言葉がある。ワルカジ(悪い風)、シタナカジ(汚い風)ともいう。この辺を読み解いていくと、昔の人々にとっては伝染病など目に見えないものを風が運んで死がやってくる、というようなイメージでつけられたのだろうか。なんせ奄美では立て付けの悪い家に入ってくるマジムンのことを好魔風(すきまかぜ)と呼んだくらいである。
また宮古島ではそれが少しなまってマゾムヌとなり、地方によってはマザリムン(混ざったもの)という呼び方をしたりする。それらマジムンの代表的なものが木などに住むといわれているキジムナーになるのだろうが、そのキジムナーさえ地方によって数百の呼び方があり、さまざまなヴァリエーションが存在しているのである。
沖縄で代表的なマジムンといえば、なにはともあれキジムナーで間違いない。
キジムナー封じとは?
今から何年も前の話であるが、ユタのAさんから「あんた、面白いものがあるから来なさい」と言われて首里のとある公園に連れて行かれた。そこはなんてことのない普通の公園だったのであるが、はずれに立っている一本のアコウの木を見て私はびっくりし、寒気すら覚えてしまった。
釘、釘、釘である。アコウの木の地表から一五〇センチくらいの場所に、大き目の釘がびっしりと打ち込まれている。百本を超えたところで私は数えるのをやめてしまった。
「何ですかね、これは?」と私はAさんに尋ねた。
「これは木にいるキジムナーが悪さしよるから、キジムナー封じしているんだねー」
キジムナー封じ?
初めて聞く単語であった。
そこでいろいろ調べたのだが、どうやらこれは昔の沖縄では一般的に行われていたことのようであった。
沖縄では当然のように木や土地などには神様が宿っている。そして樹齢を重ねた木にはキジムナー、もしくはキーヌシーと呼ばれる「ムン」が宿っているのである。ムンとは物の訛ったもので、今回はそのキジムナーについて見ていこうと思う。
キジムナーとは?
キジムナーの意味は「木の者」である。キジムナーは姿形がある程度はっきりと伝承の中に残されている。全身赤く、髪の毛は乱れ髪で、子どものような背丈。大好物は魚の目玉(しかも多くは片目だけ食べる)とカタツムリなど。逆に嫌いなものは人間のおならとタコ。だいたいにおいてガジュマルかアコウなどの大木に住むといわれている。
また伝承も奄美から八重山まで広範囲に残っている。そのため呼び名も千差万別である。おそらく百以上あるに違いない。これをキジムナーの呼び名の変化と取るか、あるいはまったく別のマジムンだと認識するかでいろいろ議論があるところなのであるが、とりあえず代表的なものを見ていこう。
呼び名のいろいろ
我々が良く見聞きしているキジムナーという呼称は、地方に行くといろいろ変化してくる。糸満ではギジムナーと発音し、その他にもキジムンとか呼ばれることもある。また全身赤いからか「アカ」という言葉で表現されることも多く、アカガンターとかアカナー、アカジラー(赤ら顔)などとも呼ばれ、奄美地方ではケンムンというマジムンがこれに当たるとされている。ケンムンとは木の者という意味で、琉球諸島のキジムナーとほぼ同じ意味である。
また大宜味村喜如嘉ではブナガヤと呼ばれているが、これは髪を振り乱したという意味の「ブナガトーン」が語源になっている。その横の田嘉里集落ではファルファガ、久米島では火の玉になって空を飛ぶのでその音からフィーフィーと呼ばれたり、伊計島ではウンサーガナシーという名前で呼ばれるマジムンもキジムナーの仲間と考えていいかもしれない。
アカカナジャーの伝承
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