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琉球妖怪 マーザ火など

玉城のマージャー火

 南城市玉城では、マージャーというマジムンが出る。マージャーとはキジムナーの玉城の呼び名でもあるという。他の地域ではマーザーなどとも呼ばれている。
 マージャーは時に子どものような姿で現れたり、火の玉となって集団で現れたりするという。
 昔、知念と玉城の境界線あたりにアンシャゲーという場所があった。豆腐引ちゃー(豆腐を造る人)は朝早く海の水を汲みにその辺りへ行ったのだが、見ていると不思議な炎のような光がいくつも現れた。
 垣花あたりから松明のような炎がいっせいに現れたかと思うと、今度は志喜屋浜あたりにも同じような光が現れた。
 すると、その炎は数を増していき、何百いや何千という壮大な数の火の玉が空中を舞い始めた。
 それらはまるで綱引きをしているかのように、一方から一方へと激しく移動を繰り返したという。
 また別の証言では、マージャー火は等間隔に並んで、二百メートルくらいの長さがあったという。それがくねくねとうねりながら、山を登り、道を横切り、空高く跳ね上がったという。それらの多くは垣花から百名、志喜屋あたりにかけて現れたという記述がある。
 またこんな奇妙な話も残っている。
 玉城の新城集落から家に帰ろうとしているオジイがいた。
 そこはマジムン道とも呼ばれた場所で、道は暗く、人通りも少なかった。するとそんなオジイの前に、マージャー火が現れた。
 マージャー火はオジイを驚かそうとしたのだが、このオジイは只者ではなかった。マージャー火を前にして、オジイはこんなことを口にした。
「ええ、ちょうど道が暗かったから、どうしようかと思っていたところさ。わったーの提灯代わりに道を照らしてくれんかね」
 そう言ってこのオジイはマーザー火を手名付けて、家まで提灯代わりに連れて帰ったという。

鳩間島のマージャー

 鳩間島にはマーザ火というマジムンの話が伝わっている。見た感じは火の玉のようであるが、どうやらそうではないらしい。火の玉は死んだ人が化けたものであるが、マーザ火は違うという。
 特に冬場の夜中、干潮時に潮干狩りをしていると、マーザ火が現れるという。マーザ火は海水をザブザブと音を立てながら接近してくる。そばに寄ってきたかと思うと、一瞬で遠くへ行ったりもする。
 そして明け方まで、潮干狩りやイザリ漁(船の上で松明を灯して、光に集まってきた魚を捕る漁の方法)をしているものに対して、ワチャク(イタズラ)するという。マーザ火に惑わされる事を「マーザサル」という。また時にはマーザサルされた人間は、死ぬこともあるという。
 夜中、浜辺で火が燃えているのを見つけたら、じっと座って、火を見つめるのがいいらしい。もしそれが人間の持つ松明ならば、火を持っている人間が背後にいるのだが、マーザ火の場合は後ろに誰もおらず、何もない空間に炎だけが浮いている
 マーザ火は魚の目玉が好きで捕れた魚を持って帰ってみると、目玉がないものはマーザ火が食べたものだとされ、忌み嫌われた。またマーザ火と仲良くすると大漁になるといわれ、嫌いなものは人間のおならであるという。

 と、ここまで読んできた感のいい妖怪好きの読者には、「あれ? これってキジムナーと同じじゃないか」と思う人がいるかもしれない。確かにそういう見方もあるが、『竹富町史第六巻/鳩間島』によると、どうやらキジムナーは別にいるようである。なぜならキジムナーとマーザ火はわけて書かれており、はっきりとキジムナーは木の精であると書かれている。またキジムナーは古木の根元で寝そべっていたり、子どもとよく遊んだという。マーザ火はキジムナーとも違う、海のマジムンなのである。

 マーザ、マーザーという呼び名は沖縄では火の玉、もしくはキジムナーの別名として使われる。マージャー、マーダーとも。マーザ火(マーザビ)はマズビとも。集落によって方言が変化する沖縄ならでは。ちなみに英語で殺人を意味するマーダーとは全く関係がない。念の為。

辺野喜のフィリムン

 国頭村の辺野喜には、集落の中にクムイ(溜池)があり、そこにフィリムンというものが現れた。クムイの中で採れる小魚やエビなどに、火傷のような、あるいは傷のようなものがついていると、「フィリムンに焼かれた」と囁きあったという。フィリムンのことをキジムナーというものもいれば、そうではない、フィリムンはクムイにいるマジムンだという者もいた。

ヤガンナ島のセーマ

 沖縄北部の今帰仁あたりには、セーマというマジムンの伝説がある。
 羽地内海にあるヤガンナ島は、もともと墓場として使われていた島であるが、そこにも男女のセーマが出たと記録にある。
 島に立ち入ったものが女ならば、男のセーマが現れ、タニ(男性器)を相手の口に突っ込んで窒息死させる。
 また島に立ち入ったものが男ならば、女のセーマが現れるのだが、皮膚の色は茹でたタコのような色をしており、膝まで垂れ下がったチーブク(乳房)を相手の口に突っ込んで窒息死させるという、なんともおぞましい行為を働くマジムンである。
 仲田栄松氏のまとめた『備瀬史』という本によると、セーマは三歳児くらいの小さな体をしており、男のセーマは頭の頂上が皿のようにくぼんでおり、女のセーマは髪の毛がオカッパになっており、夜になると頭部から火を発するらしい。
 セーマたちは夜になると頭部から発するその火を使って、イザリ漁(夜間にたいまつの炎などに集まってきた魚を捕る漁法のこと)をするというのだが、地元の漁師などによれば、夜になると水平線に炎が現れ、点滅しながら二つ、三つ、四つと分かれたのを良く見かけたという。これを漁師たちはセーマビー(セーマ火)と呼んで、それらが現れているときは漁に出かけるのをやめた。
 また夜間の漁で捕れた魚の片目がなくなっていることがあり、それはセーマの仕業だと漁師たちは噂したという。
 セーマの苦手なものは、ピー(屁)とティーハチャー(タコ)であり、屁をしたり、タコを見せると、セーマは一目散に逃げた。
 『備瀬史』によると、集落に住んでいた高良さんというオバアが昼間、誰もいないフハマバルという場所で芋を洗っていると、いきなりセーマに囲まれたが、とっさに髪に挿していたジーファー(かんざし)を口に銜えると、それを見てセーマは逃げていったという。
 ちなみにジーファーには、髪の毛を固定するという用途だけではなく、お守りとしても効力を発揮した。女性がそれを口にくわえると、一種の魔力が現れたと書かれている文献もある。

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