「青炎」舞台シナリオ
平家物語より「壇ノ浦」
登場人物
青い炎の鬼
平家の悪行に対する怨念を取りこんで鬼となっている。そのため今は頼朝に味方する存在として義経に取り憑いている。元々は善も悪もない神の御使い。
山吹
源義仲の愛妾。青い炎の鬼に義仲を殺されたことで復讐を誓い平家の陣にいる
弓の達人で無双の武人
建礼門院
安徳天皇の母。幽霊となってこの物語の語り部となっている
二位の尼
建礼門院の義理の母
安徳天皇
平家一門として皇位に登った八歳の男の子。山吹に憧れている
語り
栄耀栄華を極めるということは、その恩恵を受けられなかった人々の妬み、恨みを引き受けるということに他ならない。その繁栄が大きければ大きいほど、その反作用としての暗闇は深くなり、強くなる。またそのために自らが犯した罪も重なっていく。平家の繁栄は頂点を極めた。それが青い炎の鬼を産んだ。
鬼とは神の御使だ。御使は、神の意思を現す存在であり、そもそも神に善悪は無い。
人々は、自分にとって都合の良い存在であればそれを天使と呼び、自分に都合が悪い時は鬼あるいは悪魔と呼ぶ。見る角度の違い、立場の違いに過ぎない。己の所業によって、御使は変化する存在だ。
今、青い炎の鬼は義経に取り憑き、平家の人々を地獄へと追い落として行く。それは驕り高ぶった平家の所業への報いだ。義経より早く都に到着し、平家を都から追いはらった義仲も、ひとときの栄華を味わったが、その有り様は天下を治める器ではなかった。義仲も鬼に殺された。義仲の愛妾であった山吹は、鬼への復讐を誓い、平家の陣営に加わった。しかし、鬼は強かった。平家の人々は次々と討ち取られ、首を落とされていく。安徳天皇を擁する平家の人々は、西へ西へと落ちのびて行く。
そして、戦いはついに終幕の時を迎える。壇ノ浦において、平家の残党と山吹は、青い炎の鬼へ最後の戦を挑む、その朝がやって来た。
舞台シナリオ
弱い風が吹いている。(笛の音がどこからか響いてくる。)
そこにうっすらと白い影が現れる。建礼門院の霊。
バンドネオンの音色に合わせて平家の最後を踊りで語り始める。
哀しく辛い思いを静かに語る。やがて語りは平家最後の場面「壇ノ浦」に至る。
霊は悲しそうに消えて行き、舞台は暗転する。
暗闇の中、語りが入る。
バンドネオンの音だけが、静かに鳴っている。
語りが終わり、暗転したままの舞台に役者が揃う。そしてゆっくりと照明が明るくなっていく。
場面は壇ノ浦の御座船の上。安徳天皇を中心に二位尼がそばにおり、山吹が控えている。
長く続いた戦いも、どうやら平家の滅亡で終わる予感が皆を包んでいる。
そんな絶望的な状況の中、山吹はなんとかして、愛しい義仲の仇である鬼を倒すことだけを願っている。
そこに法螺貝(または銅鑼)の音が響きわたる。戦いが始まった。
三味線を中心とした音楽が鳴り響く。
安徳天皇を奪おうとして、青い炎の鬼が現れる。(上手より)
驚き慄く天皇と二位の尼。
山吹が鬼を遮って二人の戦いが始まる。
山吹は無双の武人だが、鬼は鬼術の達人だ。山吹の攻撃は空を切り届かない。鬼は確実に山吹を追い詰めていく。
二人の戦いを固唾を呑んで見守っていた二位尼は、自身の法力を振り絞って山吹に加勢する。(太鼓を叩く音楽で表現、踊る。)
しかし、鬼には敵わず、やがて二位の尼は倒されてしまう。
そして壮絶な戦いの果てに、山吹もついに倒れる。安徳天皇はそれを見て立ち上がり、山吹へと手を伸ばす。(暗転)
バンドネオンの音だけが舞台に響く。建礼門院の霊が鎮魂の灯を手に持って現れ、平家一門の冥福を祈る踊りを捧げる。そこに青い炎の鬼が現れる。鬼は姿を変え、天使としてやって来たのだ。御使は建礼門院の手を取り、共に鎮魂の舞を舞う。