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鳩サブレー賛歌
いつか鎌倉に行きたいと思っていた。鳩サブレーのために。
私は写真を眺めるだけで恋に落ちた。そのふっくらとした胸元から、緩やかな背、長くて淑やかな尾羽まで、丸めた控えめの翼は私の心で羽ばたく。そして、そして、その愛おしい嘴と目元。いつかは鳩サブレーを手にして、重たさを感じていたい。
そんな思いの中、鳩サブレーは、私が会いに行く前に私の元へ飛んできてくれた。だから、サブレーの適切な扱いではないと承知しつつも、私は指先でその輪郭をなぞってしばらく描いていた。
本物の鳩には神の息が宿っているならば、鳩サブレーをデザインした才能はきっとそこから不思議な力を継承している。手に取ってみると文明がない時の文物みたいな温もりが届いてくる。いや、もっと、もっとだ。まるで生地から生まれたかのような堂々とした姿も、焼き加減で刻んだ亀裂も、当たり前のように完成体となっている。
いつかは前歯で齧ってみるがそれは今日ではない。今日の私はもう少し眺めてみたい。きっとまだ新しい感性が湧いてくるからだ。
鳩サブレーよ、私の元に来てくれてありがとう。今日の君には鳩の造形物でいてもらいたい。賞味期限の日になったら、また私の歯を響かせてほしい。そして、何より、何よりも大切なのは、私は君の形を忘れない。君は、永遠なる鳩サブレーだ。