消費と地球の裏側、南米・チリ地方紙の報道
南米・チリ南部の港町、プエルト・モントにきてから10日が経った。私たち日本人が、日々消費するサーモンの養殖現場を知るためにチリまできたけれど、サーモンの養殖会社の人物と滞在期間中の予定を確認したほか、目立った進展がなく焦っている。暇を持て余していると、ついついYoutubeを見たり、ビジネス書をKindleで読んだりと、日本でもできてしまうことに時間を奪われてれしまう。それでは何のために地球の裏側まできたかわからない。そこで、滞在中のロス・ラゴス州の地元紙「EL LLANQUIHUE(エル・ジャンキウエ」を読み始めた。新聞は、サーモンの養殖を銅生産につぐ一大産業としながらも、決して楽観できない現状を報じていた。
もちろん、10日間何もしなかったわけではない。いくつかの養殖会社には、新たに現場視察の許可を求めた。たまたま滞在している宿の旦那がサーモンの養殖会社に生簀のメンテナンスサービスを提供している会社の従業員だったり、たまたま話しかけたチリ人のバックパッカーがサーモンにワクチンを投与する仕事の経験者だったりと、未知に触れる出会いもあった。そうした行為や出会いを経たからか、新聞の見出しにややセンシティブになった。
5月27日、月曜日の1面には「水産養殖、商業、工業に事故が集中」という文字が躍った。報道によると、ロス・ラゴス州で2018年に起きた労働中の事故のうち、53%が水産養殖、商業、工業が占めた。19.8%は水産養殖に集中していて、さらには報告されていない場合もある。非正規労働者の中には、怪我や職業病を申告することで、職を失うことを恐れるものもいるからだ。私が滞在している宿の旦那は、サーモンの生簀をメンテナンスする会社に勤めている。一度生簀に行くと、15日間仕事は続く。
5月31日、金曜日の7面トップの見出しは「Multiexport Foods社、 ルパンコ湖とジャンキウエ湖での生産終了を発表」だった。2つの湖で行なっている、若いサーモンの養殖をやめるというのだ。本来、サーモンはチリにとっては外来種。サーモンはフィッシュイーターだから、生簀から逃げたりすれば、必ず在来魚を捕食する。今回の決定は、サーモンの養殖が環境に与える悪影響を認めた上での英断といえる。
ジャンキウエ紙を読んで、人はどれだけ想像できるだろうか、と考えた。サーモンを日々消費する日本をはじめとした先進国。その消費によって、遠隔地で起こる幸・不幸。ネットが発達した現代においても、言語の違いからか、日本で拾えていない海外の情報は多い。肝心な現地での活動は、始まったばかり。