適切に批判してもらえない産業
昨日書いたノートに、書き忘れていたことがあった。それはチリ・ロスラゴス州の地元紙「EL LLANQUIHUE(エル・ジャンキウエ)」に掲載されていた、サーモン養殖が環境に与える悪影響を批判する短編ドキュメント映像の話。チリ国内では、こうした批判側と、サーモンの養殖会社の意見の間で、対立が起こっている。サーモンの生産・輸出は、チリにとって銅生産に次ぐ第2の産業。対立が起こるのは当たり前。けれど、日本人のぼくにとっては、とても歯がゆい。こうした議論は本来、一大消費地である日本でこそなされるべきではないだろうか。
前回のノート
ラモン・ナバロ氏はチリ出身で、サーファーでもある。ナバロ氏が手掛けた映像は、PtagoniaのYouTubeにも投稿されている(おそらく一部)。ぼくが日本でPatagoniaの製品カタログを見たときには、ナバロ氏の記事が載っていた気がするので、すでに知っている人もいるかもしれない。氏は5月29日、そのドキュメントをチリのロス・ラゴス州の街、プエルト・バラスのホテルで発表した。チリの主要サーモン養殖会社で構成する組織、Salmon Chile(サルモン・チレ)の代表も発表を聞いた。サルモン・チレの代表は、批判内容を受け止めつつ、ドキュメントで語られた内容には誤りがあると指摘した。
2016年、チリ領の北部パタゴニアの沿岸に、赤潮が大発生した。養殖場のサーモンが大量に死に、その死骸の一部はチロエ島の近海に捨てられた。その後、海洋生物の大量死がチロエ島で発生。海に投棄したサケの死骸が原因と考えた地元民もいたようだ。この赤潮の大発生が、ナバロ氏がドキュメントを撮り始めるきっかけになった。
参考までに、ナショナルジオグラフィックの記事。
サルモン・チレの代表、Arturo Clément(アルトゥロ・クレメン)氏はドキュメントについて「サーモンに投与する抗生物質や、業界の社会経済的状況、赤潮の原因については、誤った情報がかなり含まれている。赤潮については、その原因をサーモンの養殖にあると言い張る人は実に多い」とコメントした。
Youtubeの動画の説明欄には「Japón(日本)」の文字がある。サーモンはすべて日本向けと書いてある。ただ、これに関しては総輸出量に占める日本の割合は減少していると現地の養殖会社職員に聞いたことがある。抗生物質にしても、赤潮の原因にしても、しっかりとしたデータがなければ、根拠のない過激な批判と受け取られても仕方ない。批判を環境保全に繋げようと切に思うのであれば、データは必須。
前回に続き、地元紙の報道を紹介した。なかなか日本でこうした情報を得られる場所はない。ただ、消費について真剣に考えることは、無責任な業者(もしいるのであれば)にプレッシャーをかけ、健全な業者を成長させることにつながるはずだ。