チリのとある島についての論文を読んで

 アルゼンチンの大学に在籍するある政治学博士の論文を読んだ。チリの港湾都市・プエルトモントに所在する地元紙「エル・ジャンキウエ」のニコラス・ビンデル記者から紹介された人物で、実際に会うことはまだできていないが、そのうち会うつもりでいる。メールで連絡を取ったところ、二つほど論文を勧められた。一つは彼自身が手がけたもので、タイトルは「El archipiélago de Chiloé y los contornos inciertos de su futuro(チロエ群島とその未来の不透明な輪郭)」。読後の感想としては、論文として違和感を感じるものの、世の中に数多ある正義の存在にも気付かされた。

 簡単にいえば、この論文はチロエ群島というチリ南部の地域が、サーモンの養殖や単一樹種の林業といった産業によっていかに略奪されてきたかを述べている。チロエ島の先住民であるところのチョノス人から産業が土地を奪い、好き勝手やっているという。チョノス人はもともと漁をしながら移動を繰り返す民だったが、現在はそうした暮らしぶりはなくなっている。大部分は、こうした産業の到着やスペイン人による征服時に混血になったのではないだろうか。

 論文には、サーモン産業や林業、鉱業によって、労働力が搾取され、環境が破壊され、文化が損なわれているということが、これでもかと記載されている。個人的に違和感を覚えたのは、引用文献の中にやたら古い文献が出てくるということと、引用が多すぎてややパッチライティング気味み思えたこと。産業はかつてないスピードで変化している。例えば、過去のサーモン養殖現場の労働環境を逆手にとって「サーモン産業による島民の労働力搾取はいい加減にしろ」といっても、それは今のサーモン産業に対する批判にはならないが、そう受け止められてしまう。

 とはいえ、こういった先住民の権利の保護をどう実現していけば良いのかは非常に難しいと感じる。この論文中の引用として、チロエ島出身歌手の意見が、印象的な引用として掲載されている。その中には、教育不足や医療機関の不足を嘆く一文があるが、こうしたインフラが産業の恩恵なくして島に到着するとは思えないからだ。

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志田岳弥
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