♯9 油の脂質は100パーセント
酒に浸された一週間だった反動なのか、二日酔いでもないのに何もやる気が起きない。腹は減るが作る元気も、買いに出かける元気もなければ、金額構わずデリバリーを注文する余裕もない。ただベッドに伏して濡れ続ける洗濯物を眺めてはや数時間が経とうとしている。
こんなにも有意義に使えるはずの1日で、何も生み出せなかった自分に激しい自己嫌悪を覚える未来が見えているので、ベッド横に置いているパソコンを開き、書きかけになっていた駄文を完結させてしまおうと思う。
今日は全く作る気が起きないので、発言の信ぴょう性に欠けるかとは思いますが、普段は人並み程度には料理をします。僕は本当に卑しくて恥の多い人間ですが、この飯はある程度自分で作ろうという意識はきっと母の教育の賜物です。ありがとう母。
そんな折、調味料の残高を確認しようとキッチンの棚を開け、なんの気になしにごま油の成分表に目をやるとあることに気がつきました。
タイトルの通りですが、油の成分って全部脂質なんですよ、炭水化物もタンパク質もなく、書いてあって脂肪酸くらいのもんです。「何を当たり前のことを言ってるんだ」「面白いと思ってそれ言ってるの?」「これだから売れないミュージシャンの一人語りは寒いんだ」という声が聞こえてきそうですが、まだ嫌悪の導火線に火をつけるのは待って欲しい。何より油が近くにあって危ない。
優しくされたいが故の優しさ。認められたいが故に他人を認めようとし、自尊心を傷つけないためにあえて人目に触れる場所で自己を過小評価する。最近、私は内からなる純粋な気持ちで生きていきたいと思いながらも、そうやって自分を守ることを中心に言葉を選んで人と接しているような気がしています。
それに気づいてからというもの、どこかでこの卑しさを周りに感じさせてしまっているのではないかと怖くなり、よりピュアに近づこうとすると適切な言葉が見つからず、話してるうちに纏まるのではないかと話し始めたはいいものの支離滅裂でよく分からないことを口走り、考えれば考えるほどに本来の目的と遠ざかることが苦しくなり、酒を飲んで気を散らし、友人によく分からない文章を送りつけてさらなる自己嫌悪を生み出すという日々が続いています。
そんな人と触れ合うことの、生きることの複雑さに打ちのめされているときに目に入ったんです。脂質100パーセントの油。他のものは入っていない、水とは交わらない、そんなシンプルさが、頭の中にない答えを探しては見つからず途方にくれる私にはとてもキュンときたのです。
人として生きることは単純にはいかない。ただ私も油のように、混じりけなく、受け入れられないものは無理に受け入れなくてもいいんだよと、自分に言い聞かせてあげたいと思います。
文章を書ききったらスッキリしました。身体を縦にし、電気をつけて台所に向かおうと思います。残念ながら気分は揚げ物ではないですが。
余談ですが、私はごまアレルギーを持っているのですが、なぜかごま油は食べられるのです。詳しい方がいたら、なぜか教えていただけると幸いです。