
未完成美術館
その美術館では時々、展示品が妙な動きをする事がある。
そういうときは大抵、オイルの切れかかったみたいな、ぎこちない歯車の音と、何かが這うような不気味な音がする。
ずろずろ。ず、ず。
壁の奥からだ。展示品とは別のところで何か、得体のしれないものが息をしているような。
歯車の呼吸音なのか、モーターのうめき声なのか。あるいは蛇のような細長い生き物が、幾年ものあいだそこに住み着いていて、音を立てているのか。
その美術館に掛かっている時計は、全て時間が狂っている。
別な言い方をすれば、様々な時間がそこに集まっているということだ。
それによって多様な人生が集まり、堆積、変化し、その隙間から生々しい感情が表出する。
その美術館には、"ここにあるものがこの世の全てなのではないか"と思えるほど沢山のものが集まる。けれど、それはまだ一部でしかない。
無限に広がる一部が、幾つも収められている。
歯車は依然、動き続けている。
今日もまた、誰かがやって来る。