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紫陽花消しゴム(ショートショート)

 しつこい湿気も綺麗さっぱり拭い取れます。
 そんな触れ込みで販売されていたのは、とある消しゴムだった。
 紫陽花消しゴム。見た目はどこにでもある、普通の消しゴムだ。
 どんな湿気でも? それなら、と思い、購入して使ってみることにした。
 まずは洗いたての洗濯物。まだかなり湿気が残っている。どれくらいの効果があるのか、そして使いやすいのか。確かめてみることにした。
 効果はてきめん。二、三回衣類を軽く擦っただけで、あっという間に湿気が取れて乾いてしまった。
 これはいい、と思った。これからは洗濯物はこれで乾かすことにしよう。
 他にも乾燥させてみたいものは何かあっただろうか?
 食器。あれにも使えそうだ。洗ったばかりのものをすぐに乾かすことができれば、とてもいい。
 先ほどと同じように、食器にも使う。こちらもあっという間に乾燥する。
 ふと手元の消しゴムを見ると、何やら青や紫、ピンクのグラデーションになって色づいている。
 まるで紫陽花のように鮮やかな色。湿気を吸うとこんなふうに色が変化するのだろうか。面白いな。
 そんなことを考えながら、今度はほんの興味本位で、とんでもないことを思いついてしまった。
 海の水分を全て吸い取ることはできるだろうか? もしできたら。

***

 海にやってきた。ただの遊び半分なので、足元の波に一瞬浸すだけにしよう。
 そっと腕を下ろし、浸す。

 ざ。
 一瞬だけ何かが消える音がして、目の前の景色が一変する。足元から視界にとらえている数キロメートル分の海水が、一瞬にして干上がってしまった。
 うわ、どうしよう。ここまで効果があると思わなかった。焦ってしまう。
 何とか吸い取ってしまった海水を戻すことはできないだろうか。
 例えば、この消しゴムを全て使い切ってしまえば吸い取った湿気が全部、元に戻るとか。

 焦っている時はろくな思考ができない。
 全部使い切る。何の確証もないのに、そうすれば何とかなるのでは、と思ってしまった。

 普段の消しゴムと同じように考える。消しゴムをすり減らすには、擦るしかない。けれどちょうどいいものがない。
 視界の端に自分の腕がちらつく。腕を使って消しゴムをすり減らそうか。テーブルに擦り付けるような要領で──。

 よし、せーの……。


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