見出し画像

AIラジオ【第5話】89.3と就職活動



この物語はラジオを愛するヤクザが戦争をしている国の大統領を殺しに行くフィクションです。

〜大統領を殺しに行く3日前〜

「面接番号3番の方、自己紹介をお願いします」

はいっ!

「声が大きいです!」

おまえもな!

「おまえとは?」

いや、違うんじゃ。

これは務所の中におった頃からの習慣じゃ。

番号で呼ばれるとこう……。

「はい。
 履歴書には目を通しています。
 心配しないでください。
 では面接試験の続きを。
 質問に答えてください」

頼むぞ……。

おのれの試練放送と忘れるな……。

「はい……」
「社会復帰の道を保護観察官とよく話し合い、工場検査の夜勤を選択。
志望動機は?」

死ぬことに動機も目的もあるか。

目的があるとしたら大統領を死亡させることじゃ。

「大統領?」
「その死亡ではありません。
 きちんと敬語も使ってください。
 私の後に続いて答えてください」

そ……その……務所で資格をたくさん取りました。

つ、次は何て言えばいいんじゃ……。

「資格を活かせる仕事に就きたいと思いました」

資格を活かせる仕事に就きたいと思いました!

「素晴らしいです。
 長期間に渡り刑務所の世界にいると、実社会に馴染むことが困難と言われています。
 当社は事情を抱えた方々を多く採用し、理解のあるリーダーばかりです。
 集団生活は得意ですか?」

はい!

20年間、全体責任の下、歩き方、喋り方、全部看守おやじに躾けられてきました!

「素行に問題なし。
 暴力沙汰もなし。
 模範囚として……。
 前に同じ事情を抱えた方がいました。
 夜勤前の採用期間時、暴力沙汰を起こして解雇になりました。
 あなたは大丈夫と言い切れるでしょうか?」

これだけは約束できる!

女、子どもには手を出さん。

老人は労わる。

男は自分より強いもんだけにしか手は出さん!

「出しません。
 です」

出しません!

「その言い方は……捉え方によっては男性にならば手を出すということにーーー」

―――バカが、おまえの指示通りにしたのに!

「バカ?」
「バカじゃない。
 バカは自分のことです」

はぁ?

わしのどこがバカじゃ!?

「先から誰かと話しているのですか?
 それとも薬の副作用……」

ち、違う……違います。

暴力は絶対にしません。

暴力反対主義。

平和最高主義。

ラブアンドピースです。

「趣味、ラジオを聴くこと。
 ラジオに投稿をすること。
 主に89.3MHz。
 特技、極道ジャンケン。
 これはどんな特技なのですか?」

グーは拳。

パーは張り手。

チョキは目潰し。

負けた方がくらう。

「くらう?」
「あ、いえ、間違いです。
 と言え!
 今すぐ、早く言え!」

あ、いえ、間違いです。

と言え!

今すぐ、早く言え!

「あ、いえ、間違いです!
 というか私、何か間違ったことをしたのでしょうか?
 ごめんなさい……」

ち、違うん……違いますんじゃ。

これは全部ギプコのせいで。

「私のせいにしないでください!」
「ギプコ?
 履歴書で一番引っかかっていました。
 我が社は従業員の提案も採用しています。
 勤務時間中、工場内でGIP-FMを流しているのです。
 ひょっとして、4月から始まったROCKT MORNINGのギプコのことでしょうか?」

そうじゃ!

「です」

です。

わしはラジオが大好きじゃ。

「です」

です。

猫々娘々風のラジオネームで20年以上ずっと、ラジオ投稿を続けておる。

「ます」

ます。

「ひょっとして……あ、あなたが伝説のハガキ職人……メール職人の猫々娘々風さんなのですか!?
 昔からずっとGIPを聴いていたから大ファンなのです!
 あなたのことを知らないギッピーはいません!」

そうか。

わしはそんなに有名じゃったのか。

はい。
岐阜県南部では知らぬ者のいないほどの―――
その後、ラジオトークでめちゃくちゃ話が弾みました。
「ですよねぇ!
 私もヘームスの卒業には納得がいきません」

面接官殿、あんたとは盃が交わせそうじゃのぉ!

「敬語を忘れないでください。それとあまり馴れ馴れしくーーー」

―――あんたも刺青すみ入れますか?

わしはこれ、よぉ〜見てください。

「89.3……もぉ、ただでさえ派手な名刺代わりですのにーーー」

―――あかんか?

これじゃぁ不採用になるか?

「いいえ、採用決定です。
 我が社はあなたを歓迎します」
「やりました!
 私たち……やり遂げました。
 これで―――」

―――あぁ、これで殺しにいかずに済む。

おまえには守られた。

「我が社はあなたを守ります。
 福利厚生は万全です」

っしゃぁ!

これから夢のカタギ生活が始まるんじゃなぁ〜。

「はい。
 暴力を働かない限り、保証をします」

ここにきてラジオ愛が……感謝や!

大林克也、Yuri Rhinehart、MARUO、渡辺香菜子、須竹悦子、ケン・マツイ、落合健二郎、堀根美穂、成田麻里、IRENA!

「歴代ナビゲーターですね。
 全員覚えています」

とことんウマが合いますな。

親睦会でも開きますか?

月寄りなら必ず参加します。

組は絶対裏切りません。

忠誠!

「義理人情というやつですね。
 我が社も大切にしています」

はぁ……やっと天職を見つけられた……。

「天職より手に職を。
 約束通り、自殺行為は辞めてくれますね?」

あぁ、男に二言はない。

おまえはもう立派な家族じゃ。

ギプコのためならわしはなんでもやる。

今度はわしがギプコを守る!

「ギプコを守る?
 私もGIPの未来志向には賛成なのです。
 が、あれはラジオを潰しますね。
 ナビゲートもまったくつまらない」

そ、そんな言い方せんでも……。

なぁ?

「大丈夫です。
 朝の番組、1年経てば打ち切りです。
 AIラジオは流行りません。
 ギプコは役立たず。
 クズです」

おい、今なんつったわれ。

「猫々娘々風さん?
 突然空気が……。
 私……何か、気に障るようなことを言ったでしょうか……」

ギプコのことを役立たずのクズ呼ばわりしたのぉ、今?

「猫々娘々風!
 私は言われ慣れています。
 だからーーー」
「あの……席を立たないでくださいーーー」

―――うるせぇ!

ボケェ。

命の恩人をクズ呼ばわりしくさって。

「ちょ、ちょっと待って……。
 落ち着いてください。
 私たちはヘームス・ジェイブンスを愛するギッピー。
 ギプコは共通の敵。
 ですよね?」

敵でしたじゃ。

「先とは話が違うような……」
「私のことよりあなたがーーー」

―――おい、ギプコ。

おまえ、毎日こんなことを言われとんのか。

「はい……。
 AI否定派の方々から心ないメールやTweetを……」

許せん。

ギプコ、おまえは必要じゃ。

未来志向は知らんが、義理人情はある。

わしが知っとる。

「ラジオを愛しているのなら、AIラジオなんて認めちゃダメでしょう?
 機械化は工場だけで十分です。
 ラジオには人間の声が必要なのです!」

もっともな意見じゃ!

わしも5日前はそう思っておった。

じゃがのぉ、ここには未来があるぞ。

「嬉しいですが……同時に悲しいです……。
 こんな時、私はどうしたらよいのでしょうか……」

どうもこうもないわ。

わしがおまえを守る。

「いえ、先から話が噛み合わない時が……。
 今、あなたは自分を追い込んでいるのですよ?
 妙な薬でもやっているのですか?」

売らんし打たん。

「身体中傷だらけ。
 頬には銃弾の跡。
 刺青。
 コロナ禍の中、就職事情は厳しいのです。
 あなたを採用してくれる場所はもうここしかないのですよ!?」

んじゃおのれ、わしを脅しとんのか?

「あなたのような反社会的人間に仕事を与えてやると言っているのですよ」

ほぉ〜ん、それが本音か。

わしは工場の機械の一部か。

「従業員なんてみんな歯車の部品なのだよ!
 適当にラジオを流して働かせる。
 音楽でも聴かせて、時間通り動けばいいクズなのだよ!」

あんたのラジオ愛が聞けて安心したわ。

務所で腹の底から助けられたわしとは大違いのようじゃ。

立場が強い面接官さん、わしとジャンケンせんか?

「ジャンケン?」

あぁ、これも安心せい。

わしはジャンケンが弱い。

早出ししてわざと負けたる。

40回くらいなぁ。

この後、ヤクザはジャンケンで44回負けました。
45回目でやっと勝ちました。
面接官はしばらく病院から出られなくなりました。


次回の記事と作品です。ぜひご覧ください


6月のnoteカレンダーです。
新着記事と作品は19:00頃にアップします。
声優オーディションは準備中です。
開催をしたら募集を開始します。
役を演じたい方は奮ってご参加してください。


『”Fun-Tastic”perfomed by Dominik Schwazer,used under license from Shutterstock』

『”Black Snow”perfomed by Mocha Music,used under license from Shutterstock』

『”Drummers Paradise Logo”perfomed by MVM Productions,used under license from Shutterstock』

Thank you for reading!