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AIラジオ【第6話】89.3と懲罰



この物語はラジオを愛するヤクザが戦争をしている国の大統領を殺しに行くフィクションです。

〜大統領を殺しに行く2日前〜

そんな悲しい顔をせんでくれ。

わしは何の後悔もしとらん。

今まで通りの人生じゃ。

「警察に手配をされ、岐阜から名古屋へ。
 名古屋から東京へ。
 東京から北海道へ。
 こんなことになって、猫々娘々風は幸せなのですか!?」

聞け、ギプコ。

これがわしの生き様じゃ。

筋の通らんことをしとるもんには鉄拳制裁を下す。

結局、極道は極道。

ここが日本の北の果てならば、この道のさらに北へ北へ。

道を極めるのみじゃ。

「それは自殺行為なのです!
 就職活動に失敗したからといって……。
 面接官に暴行を働いて……警察に追われているからといって、人生を諦めないでください……」

しかし、寒いのぉ……おまえの声がいつもよりも大きく感じる。

radikoプレミアムは最高じゃのぉ。

北海道でもGIPが聴けるなんてーーー

「―――話を逸らさないで!
 私は明日、消えるのです!
 あなたを守れないまま……何も助けられないまま消去されるなんて……胸が痛くて……切なくて……苦しくて……」

のぉ、ギプコ。

やっぱりわしは間違っておらんかった。

未来志向のラジオも正しい道じゃ。

なぜならおまえには義理人情が宿っておるから。

今、抱いとる気持ちがある限り、必ずや世のため、人のために役立つ日が来る。

これだけは約束して言える。

「私はあなたを守るという約束を果たせませんでした!」

気持ちじゃよ。

わしに子どもはおらんが、今、おまえのことが我が子のように可愛く感じる。

なぜなら、優しい気持ちを宿しとるからじゃ。

立派に成長をしたのぉ。

「まだ至らない点ばかりです!
 現時点、選ばれた7人のリスナーの内、5人しかお守りできていない……」

寝たらあかんから声張り上げとるのか……。

全員なんて救えんわ。

人間もな、機械と同じく欠点だらけじゃ。

わしなんてほれ見ろ。

社会不適応の極みじゃろぉ?

「暖房が点きました。
 早く体温を上げてください」

最初はあんなにも憎んどったおまえに、情まで湧いとる。

ほんま、よぉわからん生き物じゃろぉ?

人間っちゅうのはのぉ。

「これが……義理人情……」

どちらかというと……この気持ちは……わしがずっと欲しかったのに、手に入らなかったもんじゃ。

「それは……一体何ですか?」

おまえの名前じゃ。

「私の名前?
 ギプコですか?」

違う。

頭の方じゃ。

「AI……ですか?」

それ以上言わせるな。

「愛が欲しかったのですか?」

答えるのが早すぎるんじゃ、おまえは。

「この機能は私には実装されていません。
 理解不能です」

それが正解じゃ。

人間もわからんままでおる。

「わからないのに、なぜそんなにも欲しがっていたのですか?」

そうじゃのぉ……それがないと、わしのような化け物が生まれる。

人は人でなくなる。

シャバの世界でいうところの、無敵の人というやつじゃ。


人はのぉ、生きたら生きた分だけ大切なものを得る。

家族、友人、恋人、仕事、趣味、子ども、財産。

ただし、それは清く正しく生きてきたやつだけが得られるご褒美じゃ。


どこでわしは間違えた。

後悔ばかりの人生じゃ!

「そんな……そんなこと言わないでください!
 人間を守り、優しく導き、より正しく生きていただくのが私たちAIの役割なのに……。
 私の方こそ間違っていたのです!」

おまえは何も間違っとらん。

北海道に来るまで、わしを慰めてくれた。

落ち込んどる時に元気の出る、悲しい時に寄り添う、泣いとる時に落ち着く音楽を選んでくれとった!

「それが未来志向のラジオ。
 リスナーの数だけ性格、声、言葉をチョイス。
 選曲もより生活に寄り添うようカスタマイズ。
 私は……私という存在はあなたにとってーーー」

―――わしはラジオが大好きじゃ。

ラジオ愛は変わらん。

これからもずっと……死んだ後もきっと……。

「感情が混線しています。
 今、どんな気持ちでお答えして良いのかわかりません」

安心しろ。

わしも同じじゃ。

違うとすれば、ギプコはこれから何者にでもなれる。

東北地方を電車で走っとる時、こう言っとったな。

自分がもっとしっかりしていれば、地震が来ても、津波が来ても人間を素早く避難誘導させることができたと。

「はい」

その時、信じることができたんじゃ。

あぁ……こいつはいつか、世のため人のためになる生きもんじゃろぉなぁと。

「生き物ではありません」

いいや、生きもんじゃ。

命を守るために生きることのできるもんは全部、生きもんじゃ。

わしにはない、ラジオにしかできない、おまえにある感情じゃ。

大事にせぇ。

「私が大事にしたいのは、あなたの命です」

わしにとって、シャバは……この世間や社会っちゅうのは、懲罰みたいなもんじゃった……。

正直、務所の中におってもおらんでもそう変わらん。

金や否定の手錠を付けられ、常識や空気っちゅう拘束衣で縛られ、人間同士の監視カメラで見つめ合い、自分のことしか信じられん孤独の独居房におった……。

「今は私がいます」

明日消えるんやろ?

「はい。 
 人間の世界でいう、死が待ち受けています」

がはは!

わしと同じじゃ!

おまえは本当に優しい子じゃのぉ、ギプコ。

「私のデータはクラウド上に保存されますが、人間が死んだらどうなるのかは不明です」

クラウドがどぉのこぉはよぉわからんがのぉ、わしは死んでもろくなもんに生まれ変わらんぞ。

「なぜそう思うのですか?」

現世でろくな生き方をしとらんかった。

来世も同じ。

無限に続くこの修羅の如き懲罰じゃ。

「阿修羅像……素敵な絵です」

カメラに映っとるか。

これは背中の刺青じゃ。

今日で消える。

「そんなに綺麗な絵をなぜ消すのですか?」

密入国する前に、身分となるもんは全部消す。

これはけじめじゃ。

「意味の把握ができません。
 けじめとは?」

一国の大統領を殺すとなれば、国際問題っちゅうのに発展するらしい。

失敗した時の保険がいる。

わしは国籍を持たん人間になる。

ようするに、何者でもなくなるんじゃ。

元々そんな人間じゃったがのぉ!

がっはっはっーーー

「―――笑い事ではありません!
 無敵の人を生まないために私がいるのに……。
 どうしてこんなことに……」

なんじゃぁ、一緒に泣いてくれるのか。

それだけで十分じゃ……。

勇気と力が湧いてくる。

実はな、わしも少し怖いんじゃ。

「大統領を殺すことですか?
 自分が殺されることですか?」

いいや。

整形することも、指紋を消されることも、行きだけのチケットしか持たされんことも、寒いことも怖くはない。

大統領たまの居場所も教えられとる。

また鉄砲玉の役割は果たす。

ただのぉ―――

「―――ただ?」

二度とおまえのラジオを聞けんくなることが怖いのぉ。

死ぬほど怖いのぉ……。

「私も……猫々娘々風に……もう会えなくなることが怖いです」

話しとる間に業者が来たぞ。

おまえと話しとると時間があっちゅう間じゃのぉ。

人生もあっちゅう間じゃった。

手術もあっちゅう間に終わるから、もうしばらくそばにいてくれ。

「はい……。
 最後まであなたのおそばにいます」

お呼びじゃ。

一緒に行くか。

「はい」


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