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中川将吾先生(小児整形外科医):メディカルパーク『ファミリハつくば』構想
『小児整形外科』って?
中川将吾先生(以下、中川)
よろしくお願いします。
日本医療デザインセンター 桑畑健(以下、桑畑)
今日は中川翔吾先生です。中川先生、小児整形外科医、あってますか?
中川
整形外科ですね。よく小児科と間違えられる。
桑畑
整形外科と小児科でどう役割が違うのでしょうか。
中川
小児〇〇科っていっぱいあるんですよ。その中で皆さんが考えてる小児科って、小児内科とか、小児の総合診療科とか、そういう分野だと思うんですね。
そのほかに小児耳鼻科とか、小児脳神経外科とか小児泌尿器科とか、大きな意味で小児外科とか。その並びで、小児整形外科。
大人を診る内科と整形外科の関係がそのまま、「小児」ってついただけという意味合いですかね。
桑畑
小児整形は、いわゆる内科的なものは診ないのでしょうか?
それともファーストタッチというか、診て、小児内科とか小児科に紹介しちゃうんですか?
中川
あんまり関わることないですね。熱があって、どこも痛がっていなければ「小児科に行ってください」って感じです。それで足が痛いとかいうのがあれば、こっちの可能性があるので「整形外科で診ましょう」ってなるんですけど。内科的なというか、皆さんが内科に行かなきゃと思うことは、小児科が窓口になって、そこからいろんなところに紹介していくことが多いですかね。
桑畑
紹介される『受け皿』になることの方が多いってことですね。
中川
そうですそうです。直接、整形外科に行こうって僕のところに来ることは、まあ最近ちょっと、病気の名前をネットで調べたらわかるようになったんで、増えますけど。子どもの困ったことがあったらやっぱり「小児科に行ってから」っていう方が多いですかね。
桑畑
ありがとうございます。小児整形を専門にされてるドクターってだいたいどのぐらいいらっしゃるんですか?
中川
僕の肌感というか、あんまり外れてはいないと思うんですけど、整形外科の1%いるかいないかくらいだと思います。専門でやってるのは。
桑畑
整形外科の1%くらいが小児整形外科。要するにレアってことですね。
中川
はい。小児ばっかりやってる人っていうのはそんなもんなんじゃないかなあと思います。
桑畑
だいたい皆さんどんなキャリアをつまれるんですか?
中川
多くはやっぱり子ども病院。都道府県に一箇所ずつくらいある、子ども専門の病院ってあるんですけど、そこに行ったときに子ども中心でやって、そのまま残る、とか。そこで勉強して、大学に行って、まあ小児ばっかりやるとか。そういうパターンがきっと多いと思います。だいたい子ども病院でやってくるかな。
桑畑
なるほど。勤務医として活動される方が多いんですね。
中川
はい。だいたい勤務医として子ども病院か大学病院で小児中心でやられてますね。
茨城県の『小児整形外科』事情
桑畑
来年開業されるって決めたのは、どんなところからですか?
筑波中川
茨城県の医療状況を考えると、子ども病院が水戸のほうにあるんですけど、その子ども病院って元々整形外科がなかったんですよ。そんなに大きな病院ではなくて、他の大都市にある病院に比べたら小さい病院で、メインは血液内科と、心臓の方は結構いっぱいやってるんですけど。整形外科っていうのが元々歴史的になくて、外来しかやってなかったんですね。そこでの治療って、今あんまりちゃんとした治療ができないんですよ。
そこが茨城の北の方でやってる治療で、茨城の南の方になると、筑波大学があるんですけど、そこでもまあ小児はやってるんですけど、受け皿がそれほど大きくなくて。子ども病院ほど子どもの患者さんが多いわけではないし、入院とか手術もたくさんできるわけじゃないんですよ。
それを考えると、茨城県内で治療できるところって少ないんですよね。それもあって「じゃあ入院はできないけど、せめて外来で診れる場所を」ってずっと考えてて、それを今度筑波大学と連携して、筑波大学の近くに作って、外来はこっちでやって、入院が必要だったら筑波大学でっていう形でやれればいいかなと思って、はじめることにしました。
桑畑
筑波大学に小児整形はないんですね?
中川
はい、ないですね。診れるって言ってる人はいるんですけど、それ専門で勉強してきた人じゃないですし、県内にほとんどいないし、全国的にも専門病院でしか扱ってないので、やっぱりどんなに広い県でも県内に1箇所とかしかないので、そういう状況ですから、まあどこ行っても需要はあるかなと思います。
小児整形外科医が『ママ』に着目した理由
桑畑
ありがとうございます。その今まで小児整形の話をしてきたんですけど、先日達成したクラウドファンディングでは『ママリハ』と、ママって言葉がたくさん入っていたんですが、ママと小児整形の関係ってどんな感じでしょうか?
中川
自分の中で意外な行動だったんですけど。子育てとか子どもの治療見てると、子育て関係でちょっと悩みがあったりトラブルがあったり、それでうまくいかなくなって、それが身体の方にあらわれちゃうっていう現象があるんですよね。
例えば、あんまり外出てないとか、一緒に遊んでくれない、それで身体が弱くなっちゃって、怪我しやすくなったり、姿勢が悪くなったり、そういうことがあってですね。
それって、子どもに「それを治しなさい」とか「運動しなさい」というだけじゃ、よくならないんですよ。そういうときに、家族支援っていうのがちょっと頭に出てきてですね。
なんでそういう家族の状況になってるんだろうなって考えると、妊娠出産でつまずいて、そこで家族の身体が・・・特にお母さんですね。そこで躓いちゃって、そのままズルズルと子育てに入っちゃって、回復しきれないまま、子どもとの関係、遊ぶっていう行動に移れないと。そういうことが、外来してても思うところがあったので、だったらそこを直さないと、子どもの身体の成長ってうまくいかないよね。そういうところから、ですね。
桑畑
なるほど。子どもの面倒見たり、ケアするママ自身が、健康でないとしょうがないよねというか、そこが基本だよねということですよね。
中川
本当にそこですよね。それが本当に効果があるかははっきりわからないんですけど、ほうっておけないし、子どもの治療をしているときも「親と一緒にやらないとよくならないよ」と。子どもばっかりに言ってても。お父さんお母さんに「どういうことをしてるのか」とか「家でどういうことをして欲しいのか」っていうのを伝えないと、子どもの結果って出てこないんですよね。
それをもっとこう、子どもが悪くなる前、怪我する前、障害が起こる前に、予防しようって、それをどんどん広げていったという感じですね。
新しいクリニック名に込めた想い
桑畑
新しいクリニックの名前はなんなんですか?
中川
『つくば公園前ファミリークリニック』と名付けました。
桑畑
『小児』でも『ママ』でもなく、『ファミリー』ってことは、小児整形の分野と、ママへのケアや治療の部分を総合的に診るのでしょうか?
中川
その通りです。
桑畑
『ファミリー』とはいえ、高齢者あんま対象じゃないですよね?
中川
はい、そこは難しいところで、対象にしてないわけじゃないんですけど、高齢者特有の、やらなきゃいけないことっていっぱいあるんですね。思い浮かぶのは、骨粗鬆症っていう病気なんですけど、その病気のために、大きな検査機器を入れたりだとか高い注射があったりだとか、結構コスト面で、高い設備を入れなきゃいけなかったりするんですね。そういうところを入れちゃうと、どうしても高齢者向けの医療をメインにしがちになっちゃうんですよ。コスト回収しなきゃいけないな、と。
桑畑
コスト回収意識が働きますよね。どうしても。
中川
そうなんです。だから最初からその部分を省略して、そういうのが必要な人がいれば、以前からある整形外科の既存のクリニックで十分対応可能なので、そっちはそっちでやってもらって、今まで対応できてなかったことをメインに、取り扱おうと。得意なことをやっていこうかなって思っています。
桑畑
少し話戻っちゃうんですけど、「中川」という名前をクリニック名に入れなかったのは?
中川
僕は、自分のことを中川って思っていないんですよね(笑)。別に嫌いなわけでもないんですけど、下の名前の将吾で呼ばれることが多いんですよ、上の人も下の人も下の名前で呼ぶし、そうなってくると、中川って言われることにすごい違和感があって、そういうのもあって始めから一回も考えてないですね。
桑畑
嫌いってわけじゃないけど、中川っていうのを冠に入れる発想はなかったわけですね。
中川
はい。あとは、こっちの方が回答として正しいかもしれないですけど、全国展開とか僕いろいろ考えています。そう考えると、個人名出ちゃうと、イメージが1つに固まっちゃって、その土地土地に合う合わないとかが出てきて、やりにくくなっちゃうかなというのがあって、あまり自分が全面に出ることがないように、ピボットと言いますか、形が変えられるようにしようかなっていうのもありました。
桑畑
後半の答え聞きたくて質問したので、よかったです(笑)。
中川
そうですよね(笑)。 途中でこっちかなって思ったんですけど(笑)。
茨城県つくば市で開業する理由
桑畑
で、そのファミリークリニックを全国展開していく際に、なぜ、つくばから始めるのでしょう? 家が近いからというのもあると思うんですけど(笑)。
中川
これが全くの偶然なんですけど、つくばって面白いところでですね。これだけ日本が「少子化」とか「高齢化」って言われてるのに、つくばはそういう土地じゃないんです。
割と新しくできた街で、電車は15年くらい前に1本通ってですね。大きな開発が起きて、若い人がたくさん入ってきてるんですよ。で、その中で子どもも生まれて、小中学校とかもできて、その子どもたちをこれから元気に育てるかっていうのを注目されている土地なので、僕の目指すクリニックを中心に据えるには合っているかな、と。
桑畑
他の市町村に比べてそこまで高齢化してないんですよね?
中川
はい。元々作られた街で、できてからまだ40年くらいなんですかね?何もなかったところに大学が「ドーン!」てできて、街ができて、それがどんどんまだ拡大し続けている途中で、高齢化もそこまで進んでいないし、若い人も多いと。周辺の土地もそんな感じなので。
桑畑
研究学園駅周辺もすごい発展してて、ここ数年すごい、イーアスでしたっけ? ああいうのができてびっくりしたんですけど、一方で、終着点のつくば駅の過疎化がすごいですよね。
中川
はいはい。それも時代の流れで変わってくるんですけど、研究学園って宅地がどんどん増えたんですよ。で、やっぱり人がいるところに何かができるので、どうしてもそっち中心になってたんですね。でも、その開発が終わったので、今、つくば駅に逆にシフトしてきてるんですね。200〜300世帯くらいのマンションが、年に2、3個ずつできてるんですよ。
桑畑
つくば駅の周りに?
中川
はい。もういらないんじゃないかって言われてるんですけど、なんか結構東京から人が結構移り住んできたりとか、どんどん人が増えてるんで、次はこっちがマーケットになるんじゃないかってことで、駅前の再開発っていうのが動いてます。
桑畑
つくばでやるメリットというか、研究学園からも筑波大学からもちょっと離れたところですよね。大きな公園の近くに作る意図とかあるんですか?
中川
「子どもたちがどういうところを好むか」って考えると、都市部でゴミゴミしたところよりも、環境のいいところ、空気を感じていいところで。ちょっと離れて、緑の多いところを探していたんですね。
それで自分でやる分には資金の問題もあるので、広さを考えると、病院だけでいっぱいいっぱいになっちゃって、そんな遊ぶスペースが作れないのは困るので、公園の近くに置いて公園で代用というか。そこで歩いたり走ったりっていうリハビリができたりする。
公園で遊ぶついでに、病院に来たり、とか、病院に行くためにあそこにいくんじゃなくて、病院に行くついでに、ああいうところがあるっていうのをどうしてもセットにしたかったので、それでそういう場所を探して選びました。
桑畑
駐車場スペースも結構とられてますよね?
中川
つくばは『車社会』で、結構な方々が車使われているんですよ。で、普通だったら「駅前に病院出して電車に乗ってくる」とかが多いんですけど、つくばで、病院に通うのに電車使って動く人ってまあいないんですよね。
多くの人は車で動くし、それこそ歩いて10分のところでも車で動くような生活をしているので、駐車場を広くとって、車で来れる環境であれば、ある程度住宅街から離れていても、通いやすいかな、と、そう思っています。
桑畑
通常のクリニックと比べたら、診療圏は広く考えてますよね?
中川
車で1時間以内なら、目的を持ってくる人もいるんじゃないかと思ってます。
子どものリハビリは『遊び』
桑畑
だいぶ広いですね(笑)。その、公園とか作ろうとかいう着想はどこからきたんですか? 何か参考にされたことってあります?
中川
えっと、元々はですね、クリニックにない要素をどうやって取り入れるかって考えてたんですけど、鹿児島かどこか九州にある歯医者さんなんですよね。そこはものすごい広い建物の中に、橋を作ったり川を作ったり、そういう、待合室じゃなくて、遊び場所っていうのを作って、遊びに来てもいいし、きたついでに遊んでもいいし、っていう、そういうところを作ってたんですね。
それをヒントというか、整形外科もそういうのだったら、子どもも来やすいし、遊びながらリハビリができるんじゃないかな、と、そう思いました。
桑畑
遊びながらリハビリができるって重要ですね。
中川
そうなんですよ、、というかリハビリって、遊びながらというか、リハビリすることは遊びなんですよね。
桑畑
僕ら一般人からすると、リハビリって歯を食いしばって痛いの我慢しながら一生懸命頑張って、機能を回復させようと、いわゆる、トレーニングに近いようなイメージなんで、「リハビリ嫌だ!」っていう人も結構いるんだろうな、と。
中川
それは大人のように元々機能があって、元々使ってた機能があって、弱っちゃったり壊れちゃったりしたものを戻すためのリハビリはそういう感じなんですよ。
でも子どもは、元々その機能があったわけじゃなくて、何もないところから、機能を作るというか、そっちに目指していくところなので、行きたくないって思っちゃったら、どんどん最初に戻っちゃうんですよ。
目指す目標を持ってないんですね、元々。元々元気な人だったら、あそこまで戻るために頑張ろうってなるんですけど、子どもってそうじゃないので辛い目標にしちゃうとできないんですよ、どうしても。
桑畑
なるほど。老人に対して「また歩けるようになろうね」っていうのと、またアプローチが違うわけですね。
中川
全然違います。なので、遊びながら、そっちに向かって誘導していくのが、子どものリハビリのミソなんじゃないかと、思っています。
桑畑
そうすると前提が変わってくるから、「思わず動きたくなる仕掛け」とか、「楽しくて歩き回っているうちに機能が上がっている仕掛け」ってすごく大事ですよね。
中川
はい、そうなんですよ。目で見て楽しくなって、思わず触ってみたくなる、とか、上に乗ってみたくなる、とか。飛び越えてみたくなる、そういうのを置いとくだけでリハビリになれば、回数も増やすことできるし、いつまででもそれやってれば手をかけずに済む。それと、自分で、主体的にというか、積極的にやることで、効果も上がるんですよ。「やらされてるからやる」じゃなくて「やってみたらできた」これが効果的なんですよ。
実現できるのは、遊びながらリハビリできる、クリニック。そういう結論ですね。
桑畑
遊具のデザインも重要になってきますね。
中川
そこ本当に答えを知りたいくらいなんですけど(笑)。大人が「こうやればいいんじゃないか」って考えてる斜め上をいくんですね、子どもって。僕らこうやって使って欲しいって準備したのに、そうしないで「こっちの方がいいよ」って、面白い遊び方をしたりするので、なんでもいいんですよ。空間とモノだけ置いておけば。あとはもう想像、好き勝手やってください(笑)。そうやって逆に教えられることって、何回か経験したことがあるんですよね。
子どもの安心安全の線引きを考える
桑畑
ブランコひとつとっても、滑り台ひとつとっても、大人が考えてるような違う遊び方とか考えますもんね。そうなったときに、施設経営側、運営側として考えないといけないのは安全面だったりして、そこのバランスって難しくないですか?
中川
そこって結構難しいんですけど安心安全を突き詰めていった結果が、今の世の中っていう見方をするんですね。何もかも取っ払うよりも「どうやったら危険か」というのを教えるのが大人の役目だと思うんですよ。
「こうやったらきっと怪我をするよ、誰かを押したり、落としたりしたら、怪我をするよね」。相手のことを考えるとか未来の予測をする力はすごく大事で、危険を全部取っ払ってしまうとダメなんですよ。
なので、もちろん年齢だとか、その子の今まで過ごしてきた環境を考えないといけないんですけど、あえて『ちょっと危険』なことをやらせるっていうのは、子どもの成長にとっていいことだと思ってます。
桑畑
その『ちょっと危険』の塩梅が難しいですよね。3歳児にとっては『ちょっと危険』だけど、2歳児にとっては『かなり危険』ということもあるし。
中川
そこは、もう親次第だと思うんですね。それを「よし」とするのか「自分に合わない」と思うか。来る人が選んで作っていくものだと思っています。
桑畑
小学校のとき人気のあった遊具が、回旋塔とか回転球っていうグルングルン回る遊具だったんですけど、数年前に母校の小学校を見たら撤去されていたんですよ。
なんで撤去されたか聞いたら「やっぱり危険で、怪我人が出て」っていうところで。わかるけど、賛同したくないな、みたいな。
中川
そうなんですよね。昔使ってたものってどんどん無くなってるし、高さが決められてたりとか、動かないように固定されてたりとか、そういうものもどんどん増えてるので、子どもの自由な発想っていうのがそこで削がれているような気がして、それはすごくもどかしいなって思っていたんですよね。
怪我は・・・まあ子どもって怪我するよなって思っちゃうので。まあ僕が今後世間的に、「そんなんだめだよ」って言われるかわからないんですけど、その限界ギリギリまで、ちょっと線引きを考えてみようかなって思っています。
桑畑
まあ結構なチャレンジですよね。「クリニック行ったら怪我しました」みたいな話が回っちゃうとね。あれだし。
中川
でもまあすぐ治せるって思ってるんで、そこはちょっと前向きに(笑)。
桑畑
なるほど(笑)。そこのバランスすごい難しいな。
中川
ポジティブに考えると「医師の近くで怪我してくれたおかげで、もっと大きな怪我をしなくていいよ」って思ってもらえるのが、多分一番いい方法だと思うんですよ。
桑畑
「お医者さんいます?!」ってなったら「います!」って言えますからね。
中川
そうなんですよ。すぐに助けられるし、あとは、そこに通ってくるみんなが、そういう意識で遊ぶっていうのが一番いいんじゃないかなって思っています。
桑畑
その遊具とか、ママさんも一緒に遊べるようなものにするんですか?
中川
最終的な形がまだ見えてないんですよ、今はただ大きいスペースを置いたままにしておいて、そこにどういったものがいいかなっていうのをちょっとずつちょっとずつ足していって、最終的な形になると思うんですよ。
施設の設計へのこだわり
桑畑
「これは絶対入れること」と「悩んでること」を分けて伺いたいんですけど、「これは絶対こだわって入れたい」のは何ですか?
中川
いろんな公園だとか、遊び場を見ると、やっぱり平坦なんですね。平坦なところって、足の指を使って動くってことをしなくなるんですよね。どういうところで指を使うかっていうと、ガタガタしてたり、坂道だったり、何かにひっかけたり、それでバランスをとるってところで使うので、・・・うーんと、山を作りました(笑)。
桑畑
元々は平坦なんですよね?
中川
そうです。「掘り返した土を、適当に積んでおいてください」と工事の人に頼んで、あえて山をつくりました。山があったら登りたいっていうのは、子どもも大人も思うと思うので(笑)。そういったところをね、刺激していこうかなっていうのは思っています。
桑畑
なるほど。ぼこぼこしたりとか傾斜があるから、バランスだったり筋力が鍛えられるっていうのはわかりやすいですね。
中川
山登りもそうですけど、よく遊びにいくところでいえば川ですよね。川の岩場で、足がとられたりしたときに、ガクってなったとき、どうやってバランスを取るかを身体で覚えていくんですね。
そういう場所がどこにもなくて。平坦なアスファルトの上を・・・。家の中にいてもそうですけど、昔はこうね、敷居とか段差があったんですけど、今はマンション暮らしでフローリングで平面。そうなると足って使わないんですよね。なのであえて段差を色々つけて、クリニックの中も、待合室を作って椅子並べるんじゃなくて、小上がりを作ったり、逆に穴をほって沈めて、子どもが中に入りたいなって思うものを作ったり。なんかそんなことをしたいな、と。
桑畑
面白いですね。小学校の頃に、階段の手すりを滑って遊んだの思い出しました。
中川
滑り台も付けたいって言ったんですけど、「それはちょっとやめてくれ」って言われました(笑)。
桑畑
鰻屋さんかな? 屋内なのにわざわざ川を作って、とか、砂利が敷かれててみたいなところいったことあります。無駄って大事ですね。
中川
無駄から生まれるものだったりとか、整いすぎていたりとか、一つのやり方しか決まってないものだとやっぱり、頭が疲れちゃうって思って、考えることもなくしちゃうので。無駄というか、余白というか、そういうものを大事にしていきたいなって思っていますね。
桑畑
大人にとっては無駄でも、子どもはそこから何か遊んだりしますからね。
中川
それが本当にすごくてですね。毎回イベント、遊具で遊ぶイベントなんかやると、子どもたちの想像力や遊び方のバリエーションの多さに驚かされるところなんですよ。
桑畑
サッカーとか野球にしても、限られたグラウンドの中で工夫してやりましたもんね。
中川
そうですそうです。はい。
桑畑
無駄って大事ですね。無駄をやるためにも今回のような広い敷地って結構こだわったんですね。
中川
自分の中でも、そういった余白の部分、今は無駄だけど、あとで何か役に立つ部分っていうのを作っておこうかなと。何事も「作り込みすぎない」ってところですよね。
桑畑
だからきっと中川先生のところも、ただ遊具をなんとなくおいてあるところに、子どもがどう遊ぶかとか、ちょっと見てみたいですよね。
中川
動物の形取った遊具じゃなくて、なんか頭らしいものがあって、じゃあこれなんだ、みたいな。そういうところからでいいんですよ。
桑畑
押し付けじゃないですけど「子どもってこれが好きでしょ」みたいな。「パンダ作れば喜ぶでしょ」みたいなのはやめようってことですね。
中川
そう思います。できることなら、子どもに選ばせたいというか。子どもが主体で作れる一角っていうのは作ってみたいなっていうのはあります。
桑畑
構想を伺えば伺うほど、いわゆる、クリニックの体制、ドクターがいて、看護師がいて・・・みたいなイメージがなくなってくるんですけど、どんな体制で開業しようと思ってるんですか?
中川
クリニックの中身は、面白い仕掛けがいっぱいある建物なんですけど、診察室は普通に作って、受付があって、処置室、注射したりとか、ギブス巻いたりとか、整形外科に必要な処置をするのが1階にあって、2階にリハビリ、割と広くて天井が高い身体を動かせる部屋があって、器具、ランニングマシーンだったり・・・。
桑畑
2階にあるんですか。
中川
そうです。建物は長方形のボックス型で、三角屋根があって、1階があるとすると、受付があって、その横に診察室処置室が並んでて、反対側にレントゲン室があって、トイレがあって、その残りのスペースが、その小上がりがあったり、窪んだ床があったり、ぼこぼこした面白い形のソファーがあったり、あとは階段の下がくり抜かれてて、秘密の小部屋みたいなのがあったり、そういう面白い、子どもが自分の発想で自由に遊べる場所っていうのを分けて作ってます。
で、階段とエレベーターがあって、上に上がると、そこはほとんどがリハビリのスペースで、半分くらいをリハビリのスペースにして、真ん中にドーンっと大きな柱があるんですけど、これも無駄ではあるんですけど、本来必要ではない柱を大きく作って、そこにボルダリングの、あれを作ってですね、そういったこともできるようにしたいって思ってます。
桑畑
じゃあそのスペースは高いんですか?天井まで
中川
高いですよ。多分天井まで、3m以上はあると思います。結構開放感のある空間です。
桑畑
高いですね。以前伺った話だと、クリニックの他にもう2つくらい棟を作るとのことでしたが、それは4月に間に合うんですか?
中川
それはまだ今後の予定で、とりあえずクリニックを作って、今後増設というか、別棟を作るんですけど、それはクリニックとは全く関係ない、保育園を作ろうとしています。
その目的は、僕元々小児整形外科で、障害のある子どもたち、障害児と言われる子たちを診ていたんですね。その子たちのリハビリを担当することが多かったんですけど、なかなかいいリハビリができていないと思っていて、病院にくる頻度が、月に1回とか2回とか。来て、また来月ね、と。で来月きたら、また30分から1時間くらいリハビリして「じゃあまたね」って。
それって結局、その子の人生のほんの一部しか関われていないんですね。そうすると、残りの時間はリハビリができているのかどうかわからない状態だったので、リハビリを生活の中に入れていこうと。生活段階でリハビリになれば、それが一番効果が高いんじゃないかなって思ってるので、その生活の場っていうのをどうするかっていうと、在宅っていう選択肢もあるんですけど、そうすると多くの子どもが診られない。
だったら保育園を作って、そこに集まってきてもらって、保育園に通っている間に、リハビリ的なことができる、もしくは保育士さんがリハビリの専門知識を持っていれば、もっともっとよくなる可能性があるのでは?と思っています。
そういう保育園を病院の横に作ることで、リハビリしながら病院での診察もできるし、まあお互いいい関係でやっていければなと思っています。
桑畑
体育館は作るんですか?
中川
体育館がですね(笑)。最初はすっごい大きな体育館を作って「総合体育館だー!」みたいなの考えていたんですけど、最近はですね、体育館を作る場所を遊具とかにして、体育館は別の場所に作ろうかなあと、考えが変わってきています。
桑畑
じゃあそれは、当初の考えから変わってきているんですね。
中川
最初は敷地内に建物3棟作って、そうすると空いたスペース、走り回れるスペースが少なくなっちゃうんですよね。それもちょっと困るかなと思って、そういった意味でいろんなパターン考えながらやっています。
桑畑
それは実際に土地を買われて、その地でクリニックが出来上がってるの見ながら・・・敷地見ているといろいろ思い浮かびますよね。
中川
そうですね。周りも、何もないところ・・・何もないんですよね。もうちょっと広げられるかなと思ってて、いろんな目的を持った相手が来れるように、いろんな施設があったり、いろんな建物だったり、過ごし方を提案できる。そのうち、お父さん用とかお母さん用の何かをもっと入れていくと、子どもだけじゃなくて保護者の過ごす場所にもなれるかなと思っています。
つくりたいのは、メディカルテーマパーク
桑畑
やろうとしていることがだんだんウォルト・ディズニーに近づいてきましたね。
中川
ディズニーとかもそうですけど、テーマパークじゃないですか。「僕が作るのは病院じゃなくて、メディカルテーマパークだ」って、医療をテーマにした遊べるところ、過ごせる場所を作りたいなって思ってます。
桑畑
どこからどこまでがクリニックか?境界線が無くなったら面白いですよね。
中川
はい。クリニックというよりも、お医者さんがいる場所、みたいな。お医者さんがいるテーマパーク、みたいな。感じですね。
桑畑
介護老人保健施設(老健)みたいに、老人ホームにお医者さんがいる、みたいな。テーマパークにお医者さんがいる、さっきの話で言うと、生活とリハビリテーションを溶け込ませるというか、生活の中にリハビリテーションが存在する、リハビリテーションの中に生活が存在する、というところ。
中川
大人のリハビリの世界でも、今まで病院が中心でやっていたんですけど、どんどん生活の場に移していこうって、訪問でのリハビリだったり、家で生活しながら、そこから通いながら、どんどん進めていたりするので、それをもっと子どもの医療にも取り入れていこうと思っています。
桑畑
最近の流行りの言葉で言えば『ボーダーレス』。どこからどこまでが仕事、どこからどこまでが遊び、って分けてもいいんですけど、本当に夢中になったときってそこの境界線ってなくなっていきますよね。
中川
「気が付いたらできちゃった」っていうのが僕の理想なので、何かこうやってあげたからだとか、これをしなきゃダメだというか、心の中で思ってるものをぜひ取っ払いたいなと思ってます。
桑畑
さっきの体制の話になるんですけど、そういう看護師さんとか、いらっしゃるんですか?周りに。
中川
僕のSNSでいろんなことを言ってるんですけど、そこに、「同じこと考えてました!」とか「そこで働きたいです!」とか、割といらっしゃいます。もう同じようなところで働いてたりとか、同じようなイメージを持ってくださる方も結構声をかけてくれるので、そう言った意味で、こういうことを進めていって夢を叶えてあげるのも、僕の仕事のモチベーションに繋がっているかなって思ってます。
桑畑
SNSで発信したりとか、クラウドファンディングしてみて、発見や嬉しい声はありました?
中川
「そういうの考えてる人が他にもいたんだな」っていうのは発見ですね。実際に、規模は小さいですけど同じことで動いている人がいたりとか。1回も会ったことがない、テキストベースでしか関わったことがない人たちまで「応援します」って言ってくれるのはやっぱり不思議な感覚ですし、すごいありがたいです。
桑畑
結構いい感じに集まってきそうですね。もちろんつくばまで通えるかとか、引っ越す覚悟があるかとか、よくも悪くも実際に働いてみたら「私が考えていた理想と違う」みたいなのもあれば「私が考えてた以上の場所だ」って言ってくれる人もいると思いますし。
中川
初めての試みなので。絶対そういうのもあるとは思います。ただ、上手い形で実現できたらやっぱり、こういうのってSNSでもわかるように、どこにいても、こういうの必要だなって思ってくれてる人がいるので、これをモデルケースにして、全国の同じようなことを考えている人のところで、実現させていきたいなって思ってます。
桑畑
つくば公園前ファミリークリニックの、法人名なのか、テーマパークの名前も決めたいですね。
中川
僕が昔から気に入って使っている相性が一個あって。つくば公園前ファミリークリニックなのに、通称は『ファミリハつくば』って言っているんですよ。ファミリーとリハビリをくっつけて、ファミリハっていう言葉を作って、使っているんですけど、どっかでその、そのときの仲間が気に入ってくれたら、採用してくれるかなと(笑)。
聞いただけじゃクリニックってわかんないけど、聞いたら「あのクリニックのことね」ってわかるようになるときっとやろうとしてたことの何割かは実現できているんじゃないかなって思います。
桑畑
方向性は違うかもしれないけど、捉え方によってはアメリカのメメイヨー・クリニックみたいですね。「日本にこんなところあるんだー!」ってなったら面白いですよね。
中川
ぜひそういう形を作れたらって思います。
桑畑
ゆくゆくは筑波大の医学生が、研修の一環として小児整形学ぶのに来てもらったりとか。
中川
今の医学生には「医療の形を教科書だけで決めちゃってるともったいない」って僕は思っていて、今必ずしもある医療って将来から見たら、本当にそのときに実現されてることって、ほんの一部だったりするんですよ。
医療の進歩が早すぎて、数年前まで当たり前だったことが、今は全然行われてなかったりするんです。その可能性を一部に限定するんじゃなくて、外に出て、いろんな医療の形に触れて欲しいなっていうのはあります。
最近、一番きつかったのは・・・
桑畑
ありがとうございます。徐々に締めに入っていきたいんですけど、今までで、一番きついときってなんですか? ないなら「ない」で。
中川
えっとー、きついときは・・・、クラファンやってるときはきつかったですね。
桑畑
端から見たら楽しそうに見えてましたが、きつかったんですか?
中川
いやいや。きついです! 「早く終わってくれ」って思っていました。変に緊張するし、結局、僕の専門分野じゃないんですよ。僕は子ども専門なんで、「なんでこんなことやってるんだろう」っていうのが動いてた節もあるので、精神的にはきつい。きついってあんまりないんですけど。
桑畑
何時間前に達成したんでしたっけ?
中川
1日半くらい前だったと思います。
桑畑
そうでしたね。あれはきつかったんですか。
中川
きつかったですよ。いろんな意味で。中盤くらいは、うん。懐かしいですね。
桑畑
他の知り合いのドクターもあれ見てやっぱびっくりしてますからね。「開業する先生がクラファンで500万円集めた!」「どうやったんだ?」って。
クラウドファンディグで、仲間集めたかったけど外から「がんばれー」って言ってくれる人はいたけど、「一緒にやろうぜ!」って人はいなかったってことですか?
中川
何人かに声はかけたんですけど、なんか違うんですよね。こんなこと言ったら怒られちゃいますけど(笑)。
桑畑
中川先生自身がその事業の主役としてやっていく発想は無くなっちゃったんですか?
中川
元々書籍を作るのがメインテーマだったんですよ。それは進めてるので、それだけはちゃんと最後までやって。余剰分ていうのがあって、今後継続してやるのかっていうのは、できればバイアウトしたいなと思ってて。
桑畑
違う人が主体者になって。
中川
それが多分一番いいし、お互いにそういう関係になれる人が出てこないかなあって思ってます。
スタッフがまだ集まっていないのが一番の課題
桑畑
今の一番課題は何ですか?
中川
スタッフが全部集まってない、そこですかね。そこが集まれば、もっと自信を持てるかなって。建物は立つしお金の問題も無くなったし、一番の悩みというか、一番はあれですけどね、(自分の)子育てですけどね。2ヶ月の息子の。
桑畑
自分の(笑)
?両立が大変?
中川
そうですね。こういう仕事してるので自分の子育て疎かにできないなって。はい。もう全力で(笑)。
桑畑
なるほど(笑)。スタッフはどういう職種が足りないのですか、今。
中川
医療事務さんを若干名と、そういった面白いリハビリ・・・今までとは違うリハビリをやりたい、学びたい、自分の目標にしたいって思っている若手のリハビリテーションセラピスト、まぁ、最終的には10人を越えると思っているので、まだまだ募集中というか、声かけていただいたら、僕がなんとかします(笑)。
桑畑
両方とも埋まりそうですけどね(笑)。
中川
そうですね。出てはきそうですけど、うん。どうしよう。
桑畑
非常勤と常勤の割合はどうするかとか、PTをたくさん抱えて、収益というか、サービス、事業として回るのかどうか?ってどうなんですか。
中川
まあリアルなお金の話で言っちゃうと、PTが一人入るとその人が一日中ちゃんとリハビリの担当についてクライアントがつけば3〜4万円の収入になるんですよ。それだけ収益が発生する仕事なので、そこからお給料払えますから、はい。まあ一番頑張らなきゃいけないのは僕です(笑)。
桑畑
集患というかね。集客というかね。
中川
そうですそうです。そもそもリハビリの対象となる人を、途切れさせず、診ることができるか。でも、難しいところなんですよね。
「治るってことは結局来なくなるってこと」なんで、そこを目指さなきゃいけないので、そこをやりつつ、新しい人が来ないといけないので、っていう矛盾というか、あるんですけど。そこを実現するための形っていうのを、クリニックのデザインだったり、中身だったり、サービスだったり、そういうところで作っていく。あとはSNSの広告というか発信で準備していくっていうのが今の作業ですかね。
桑畑
聞いててすごく思うのが、スターバックス・・・はちょっと違うかな。PTに関しては、個人でブランディングする人というか、どんどん発信する人に来てもらった方がいいですよね。
中川
それは、思ってます。僕のSNSの仲間だったりとか友達だったりとかがいて、それぞれがちゃんと発信している人なんですけど、そういう人が、月に1回でもいいからスポットで来てくれる、とか、そういう場所にしてもいいかなって思うんですよ。で、その人たちの知識だったり技術だったりを合わせて混ぜて、紐解いてみるとどういったものができるか、そこで新人を育てたら、どういったものができるのか、とか、そういったところも興味があるところで、そういった施設っていうのは一般の病院ではできないので、実現させてみたいなっって。
桑畑
あれですね、スポーツジムのインストラクターみたいなイメージが近いかもしれないですね。「有名なヨガの先生来る」とか「有名なトレーナー来る」とか。
中川
そうですそうです。
桑畑
「院長が頑張って集客した人を、PTが分け合う」みたいなのって多分苦しいと思ってて。全部とは言わないまでも、何人かのファンだったりフォロワーだったり患者さんを、連れてきてくれるような人たちが、たくさん居てもらったら、いいですよね。
中川
最終的には、僕がいついなくなってもまわれる施設にしなきゃいけないなっていうのがあって、そこを担保するっていうか、そのときにどうするかっていうのは、やっぱりリハビリの力だと思うんです。なので、育てられるシステムっていうのを、開業したらメインに据えていくっていうのは必要かなと。
桑畑
それはそれで大変ですね。診療だけじゃなくて、全体の経営からリハビリのプログラムを考えるって、やりがいあるけど大変っちゃ大変ですよね。
中川
そうなんですよね。でも最初の方から言ってますけど、リハビリのプログラムってそんなにいらないんじゃないかって思っていて、想像力と、やる気を出させる、そこが一番メインになってくると思うので。そこさえ大きく外れてなければ、やり方って何をやっても最終的にたどり着く場所ってきっと一緒なんじゃないかなと。それを伝えていける院長先生になれればいいなと。
桑畑
いいですね。ある人が言っていた、『人を育てる』のではなくて『育つ環境を作る』って。リハを教えるんじゃなくて、リハが生活の中で楽しくやりたくなるような、環境を作るのが大切ですね。
中川
本当にその通りで、思いつく場所が今までないので、ぜひ、やってみたいなあと思います。
桑畑
ここまで、あまり現実路線に小さくまとまってほしくないなあって思いながら聴いてます(笑)。
中川
でもまあ僕が時間かけて働けば、経営的には回るんで、そういう意味では医者というか、クリニックの仕組みってすごいなって思いますね。
桑畑
そのメリットというか、特性を有効に活かしてますよね。
そもそも障害児保育園をつくりたかった
桑畑
どうですか?ここまで話してみて。言い足りなかったとことか補足とか。
中川
言い足りなかったことでいうと、最後の方で出てきた経営のこととか、結構僕まだ話せます(笑)。どういう仕組みで回すかとか、言ってみれば子どもをきっかけに親に来てもらうようにしてるので、それを、なんだろう、子どもって2人目3人目も生まれるし、子どもを通したネットワーク、親のネットワークだとかもあるので、すごい効率がいいと思ってます。
お金の話になると・・・別に儲けたいとかじゃなくて、僕は一番最初に障害児保育園からスタートしているので。障害児保育園をやるためにどうお金儲けすればいいかなって思ってクリニックを建てたので。
桑畑
なるほど。
中川
全部障害児保育園に突っ込んで、そっちはもう赤字でもいいので、やれるようにしようと思ってます。
桑畑
確かに、障害児保育園だけをやろうとすると、国からの支援をいただきながら、細々と言ったらあれですけど、利益をとっちゃいけないような空気の中で、なんかあれですよね。
中川
なんか嫌じゃないですか。自分たちで回せない、とか、補助金頼み税金頼み・・・。しかもそれだと、中で働いている人の給料上げれないじゃないですか。
桑畑
尊い仕事はしてもらってるけど、給料上げられないー、って。
中川
そうですそうです。なんかそういうのも嫌なので。
桑畑
そこらへんは難しいし面白いですよね。考え所というかレバレッジポイントというか、そこを考えすぎて考えすぎることはないですね。
中川
いくらでも枝は伸ばせるし、チャンスはあると思ってます。
Social Good Dr.として目醒める(?)
桑畑
(日本医療デザインセンターの理事も務める)薬師寺忠幸先生の話で、「医師免許持ってる人は、学校の勉強だけでとっても、エリートの集まりだから、その優秀な人たちが、国が定めた医療をすることだけに頭を使っているのはとてももったいない」って言っていました。
中川
思いますね(笑)。
桑畑
もちろん医療は一生懸命やるんだけど、それ以外の、事業をつくったりとか、社会にいいことを考えたりだとか、頭のいい人たちがもっとウエイト置いて取り組んだら世の中もっと良くなるのに、と。「なるほど」って思って聴いてました。
中川
僕も本当にそう思いますし、それしか考えてこなかった10年間ぐらいがちょっともったいないなって思います。
桑畑
この10年くらいはこっちのこと考えてたってことですね、この新しいこと。
中川
僕、開業思考が全くなかったんですよ。めんどくさいと思っていたんで。「医療だけ考えていたい」って思っていたんですけど、結局医療だけでやれることよりも、社会経済とか政治とか、そっちを考えた方が、救える人のパイって大きいんですよ。そう考えると、一気にそっちにいきましたね。
桑畑
それは、情報を集めていくというか、いろんな人を観ていく中で徐々に上がっていったのか、それとも、強烈なきっかけがあったんですか?
中川
いやあ、やっぱり時代の流れじゃないですかね。そういう情報が入ってくるようになった。オンラインサロンとか、ネットが広がってそういうところに結構簡単にアクセスできるようになった。
Twitterもそうですけど、「なんか面白い動きをしている人」を追っていくと、そういうところに行き着くんですよね。自分の職業を一つに絞っていなくて、働き方もひとつじゃなくて、なんでもやっていたりとか、いろんな分野を越えて繋がっている人たちが、ものすごいパワーを発揮してるんですよ。「それ面白い」「そういう方法があったんだ」って気づいて、今まであったものは当たり前じゃなくて、新しいものを作ってイノベーションを起こしたいな、と。
桑畑
オンラインサロンとかあったとしても、やっぱそこに入ろうと思う動機ってなんかありますよね。動機っていうかパワーっていうか。
中川
一番初めに入ろうと思ったのは、見てて楽しそうだったからですね。一番初めに入ったのはキンコン西野のオンラインサロンですね。
桑畑
それは『医師』のサロンだったんですね??
中川
キングコングの(笑)。
桑畑
キンコン西野か(笑)。笑貧困医師って聞こえたので(笑)。西野さんはもちろんだけど、そこに入ってる人たちに何か刺激を受けたんですか?
中川
そうですね。コミュニティの参加者同士の関わりはあまりなかったんですけど、西野さんの発想の転換だとか、あと、ロジックの組み方っていうのが面白くて、それを自分に当てはめてみたらどうか、とか、いろいろ抽象化してやってたんですよ、頭の中で。
そうすると、今自分がやってることって結構おかしなことやっているなって気が付いたんです。なんでこれずっとやり続けてるんだろうとか、ここ変えれるのに、こう変えてないのなんでだろうとか、それを考えると、やっぱり病院の枠組みとか、医療っていう枠組みの中でできることをやっていた結果だったんですよね。
桑畑
ということは、医療人としてのキャリアが、良くも悪くも先が見えちゃったんでしょうね。こんな感じで50歳になって60歳になって、っていう。それがつまんない人生かって言われたらそれは別の話なんですけど、なんかレールが見えたんでしょうね。
中川
そうですね。そうするとそこで、僕がやんなくてもいい仕事いっぱいあるなって思ったんです。そうすると、いろいろ手術とか楽しくてやっていたんですけど、そういうの考えたら、後輩にどんどんまわして。「僕はもういいよ、お前好きだろ、手伝うからやれよ」ってやってたら、どんどん離れちゃいましたね、既定路線から。
桑畑
目の前の患者さん救うのもすごく尊いことですけど、もっと全体の仕組み作って、社会そのものをケアしていくっていう、そういう発想だったんですね。
中川
はい、そういう人たちが元からいて、見えてはいたんですけど、なんでそういうことやってるかを知らなかったので・・・。やっぱりそれ面白いし、結構自分に向いてると思ったんです。
桑畑
中川先生自身の長所とか特性ってどんなところにあると思っているんですか?その、自分しかできないところ。
中川
自分にしかできないことは、超前向きなんですよね。なんとかなるしなんとかするっていう。まあそういうところですかね。他の人だったら諦めることでも、なんとか道を探してやろうとするとか、完全に答えが一個決まってる問題があるのに、別の解き方はないかって探しちゃうんですよね。
桑畑
余計なことしちゃうんですね、ある意味(笑)。
中川
そうなんです(笑)。それが間違ってるときもある。そういうときは「ああ間違ってるんだなあ、やっぱりこれが一番いいんだなあ」って思うんですけど、そういう、ストレングスファインダーの『最上思考』が強いんですよ。
一番上はなんなのか?って常に突き詰めてる。そういうのを考えると、相手がいても負けてるってあんまり思わない、その人よりよくなる方法は絶対にあると思っちゃうので、そうすると、エネルギーが湧いてくる。
好きな子に彼氏がいても絶対諦めない、勝てると思う(笑)。ただの勘違いなんですけどね(笑)。
桑畑
まあでも、勘違いから現実になることあるんですよね(笑)。
中川
そうです(笑)。昔からそれは、なんで諦めるのか理解できなかったですね(笑)。
桑畑
目的に対してしっかりと戦略を練って邁進する一方で、あえて空気を読まない?
中川
それもあります。全然嫌われてもいい。全員に好かれるのは無理だと思うし、反対意見があってこそ正しい方向に進むと思ってるんで、多様性も認める(笑)。
桑畑
めっちゃ興味あるんですけど(笑)。僕もアドラーの本を読んで、すごい共感しましたけど、いざ、そうなれるかっていうと、なかなかなれないし人の目を気にしちゃうし、ネガティブな部分が目に入ってくると、すごい気持ちを持っていかれるんです。
中川先生は昔からそうなんですか?何かで鍛えたんですか?
中川
いや、昔からではないですけど、やっぱり防衛本能じゃないですか。 僕も嫌われていたってすごい感じる時期もありましたし、中学校のときとか。大学のときも馴染めない時期とかあったんですけど、でもアレかなあ、事故かなあ・・・僕大学4年生のときに、車にはねられてですね、かなり激しめに。自転車に乗ってて、前から車が突っ込んできたんですよ。しかも大学の構内の、歩道です。前からものすごい勢いで車が突っ込んできて、記憶がないんです、そっから。
で、その後から「なんかお前変わったな」ってよく言われます(笑)。
桑畑
それはどう捉えればいいのかなあ・・・。事故で頭を打って変わっちゃったみたいな話なのかなあ。
中川
それが悪いとも思ってないし、むしろ、ラッキーって(笑)。
桑畑
なんですかね、死にそうな思いして何かが吹っ切れたんですかね・・・。
中川
変わったんですかね・・・。何にも覚えてないんですよ。車が来てるのは覚えてます。
桑畑
でもその頃から「お前変わったね」って言われるんですか。
中川
言われることが多いですね。
桑畑
記憶障害になったとか、身体に障害が残ったとか、そういう感じじゃなさそうですもんね。
中川
でもそれ以降、死ぬこと以外かすり傷です。気にしててもしょうがねえなって思ってて、凹むこともあるけど、その凹んでる時間がもったいないと思うし、SNSとか特にそうですよね。
桑畑
なるほどねー。中川先生の根っこというか、キャラクターの源がわかった気がします。
中川
楽ですよ。目上の人とかにあっても変に緊張しないし。
桑畑
全然、媚びる感じもないし、マウントとるような感じもないですよね。
中川
どっちもあんまり意味がないと思っています。ありのままで。
桑畑
なんだろう、普通のドクターって言ったら「普通ってなんやねん」ってなるけど、視座が違う気がしますね。視点なのかな・・・。
中川
よく言われます。「変わってるよね」って。
桑畑
軸はしっかりされてる気がしていて、悪巧みの方には頭は使ってないですもんね。
中川
悪巧み・・・そうですね。使ったら多分色々できるんですけど、全然意義を感じないので。悪いことして何が楽しいんだろうって。
桑畑
悪巧みしないと稼げない人とはまた違いますからね。医者として真っ当な仕事してたら稼げるのに、リスク負って、社会に悪いことして儲けてもしょうがないって思ってるとこあるんじゃないですかね。
中川
そうなんですよね。僕、医者でやってるんで、お金に困ることはないって。心の余裕があるので。それはすごい楽です。
桑畑
医者になればよかったな。
中川
今からでも遅くないですっていつも言います。
桑畑
43歳ですよ。
中川
でもそのくらいですね。最高齢。僕の同級生。48歳か49歳で卒業してる人います。18歳で医者になる人より全然いいと思います。面白いですね(笑)。直接会ったことないですけど。
桑畑
「43歳から医学部目指した人いない」って言われて「そうですよね・・・」って思うのか、「今までいないんだったら俺が一番になってやる」って思うのが中川マインドかなって思いました。
中川
何歳からだっていいって思ってますけど。
僕もこうやって話していくことで自分自身がちょっとわかる。
桑畑
ここまでの流れ、なかなかのコンテンツになるんじゃないんですかね。
中川
そうですか、それを名刺がわりに使います。すごく楽しかったです。
桑畑
本当は賛助会員の方々と一人一人やりたいんですけどね。賛助会員のアンケート結果が面白かったです。意外だったんですけど、賛助会員同士の交流の回が満足度一番高かったです。誰かの講演よりも。
今後、アツい若い先生も入ってくるから、さらに面白くなると思います。
中川
『強気な若者ポジション』は無くなっちゃうんですね。
桑畑
中川先生にとって周りは関係ないのでは(笑)? 賛助会員のコミュニティも・・・変わった人ばかりですね。
そして、ぶつからないことを前提にしちゃうと何も始まらないですからね。
中川
みんなの意見を均等に聴いていくと、一番面白くないやつが出来上がるので。それはよく思います。
桑畑
それはデザインの中でも本当にあるんですよ。みんなの意見を聞きながら多数決に沿って絵を描いていくとクソつまらない絵になる、って。
音楽もきっとそうですよね。どっかに不協和音とかはみ出る部分があるからいいんでしょうね。
僕も色んな人の意見を受け入れるようにはしてるんですけど、『受け入れること』と『従うこと』は別だと思ってます。
中川
それこそリーダーのやることだと思います。なかなかそこに踏み出せる人少ないですよね。批判を恐れて、というか。
今批判の話で僕のエネルギーの源というか、一つお伝えしたいのが、僕はいつでも医者を辞めれると思っているんですよ。だから他の職業に行っても大丈夫だなって自分の中で思っているので、失敗してもいい、止まらないっていう。職業は医者だけじゃないって思ってるので。全然なんでも食ってける。僕は小料理屋でもやっていけると思ってるんで(笑)。
桑畑
数年後は園長先生かもしれないですしね。今は、医学部卒業して医師免許取ったけどIT企業作りました、とか、色んな人出てきてますよね。
中川
めっちゃ面白いですねそういうの。そういう人が「税金使って医者になったのに!」とか言われるけど、医者何人分もの働きをしますからね。だからすごくいいと思う、面白いと思います。あー、面白い。
桑畑
永遠に続きそうなので、終わります。
中川
そろそろビールでも開けようかと思っていました(笑)。
桑畑
ありがとうございました!