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医療人と患者様の ワクワクをデザインする

医療デザイン Key Person Interview:椎名 雄,

医療や介護のサービスを必要とするのが人間ならば、提供する側も人間だ。

どんなに優秀な人にも感情があり、不安や恐れ、モチベーションを自身で100%コントロールすることは難しいだろう。

ピアノの調律と似ている。鍵盤楽器では他の楽器と異なり演奏者が音程を調節することは困難と言われ、調律師が必要とされるからだ。

日本医療デザインセンターの椎名雄,(しいな たけし)理事は、ピアノの調律師の経験を経て、「心の調律師®」として多くの人々をワクワクさせてきた。

この経験を医療デザインに生かすという挑戦が始まっている。

椎名のミッションは「医療人の人生を共にデザインする」こと。「ワクワクする気持ちが全ての原動力」だと語る椎名の魅力と心の調律の重要性を解き明かす。


肩書は「3Eデザイナー」

常に穏やかな笑顔を絶やさない。「この人は絶対に良い人だ」という安心を感じさせる。さすが「心の調律師®」という椎名のたたずまいだ。

そんな彼の日本医療デザインセンターでの肩書は「3Eデザイナー」とある。

この “3E” とは

  • Education   = 教育(共育)

  • Entertainment = 楽しみ

  • Emotion    = 情熱、情動

を指している。


ーーー第一印象は「不思議な3つの言葉の組み合わせ」だと感じました。

「人は仕事を通して、人と関わることで成長していきます。ただ昔ながらの『こうやればいい、この通りやれ』のような頭から押さえつけるのではなく、エンターテインメントつまり楽しんでやる感覚が大事です。

でも『楽しむなんて難しい』という反応もあります。それなら自身の心に火を灯せれば自発的に行動できるようになります。この3つをかけ合わせるのが私の役割です。」

これまで様々なキャリアを積んできた椎名は個人カウンセリング、企業のコンサルティング、大学や高校で「働くとは何か」をひも解く「キャリアデザイン授業」の3つを仕事としてきた。

「同年代のサラリーマンや経営者、企業の価値を見出すことも行ってきましたが、共通するのは『いかにワクワクした気持ちになってもらえるか』です。その人や組織を『変えてやろう』と思ったことはありません。自発的に原点にある強い想いに立ち返るお手伝いをしてきました」

一般的にイメージされるカウンセリング、コーチング、ヒーリングとは異なり「その重なり合う中間領域」という椎名独自のメソッドは、どのようにして生まれたのだろうか。

音楽の調律から心の調律へ

もともとアーティスト志望だった椎名はピアノの調律師の資格を生かして、音楽業界に就職する。その後、芸能プロダクションを経て、経営コンサルタントへと転身する。その過程で不思議な能力を身につけていった。

「いろんな楽器をやったがどれも才能がなかった(笑)。でも調律師の仕事は楽しかった。

ピアノ調律は、基本である『ラ』の音から合わせていくのですが、様々な外的要因で出る倍音を心地よい音色に戻す技なんです。

実は人間が生まれたときの泣き声も『ラ』の音階なんです。その後、調律のために向き合う相手が楽器から人の心代わったときも『生まれてきたときの素直な心に戻る』ということを大切にしています。」

ーーーなぜ対象が人へと変わっていったのですか?

「いろんな理由がありますが、一つは面白い力を身につけたことですかね。特に音楽・芸能時代には毎週のようにオーディションに立ち会いました。そこで部屋に入ってきた瞬間に、受かる人が分かるようになったんです。

容姿や音楽性、ダンスの技量ではなく、人間性というか、その人が放つオーラみたいなものを瞬時に見抜く力ですね。ありがたいことに『椎名さん、私の話も一度聞いてもらえないかな』などと相談いただくことも増えたんです。自分には人と向き合う適性があるのではと思いました」

その後、人から頼られると話を聞き、個人的なカウンセリングを行うとともに、企業コンサルタントとしても従業員が働きやすく、かつ成果の出る組織を作るなど活躍を続ける。

自身の病とそれを奮い立たせたもの

順調にキャリアを歩んでいた椎名は40歳に差し掛かるころ、過労で倒れてしまう。1年は何の仕事もできず、健康でいることのありがたさを痛感したのだった。

しかし再び椎名は人と向き合う仕事を選び自らを奮い立たせる。

「もちろん絶望的な気持ちでした。全速力で走り続けた結果、自分でも歯止めがかけられない状態だったのでしょう。人生の目標を見失っていました」

ーーー中でも、なぜ再びカウンセリングを?

「私は少し心が折れただけで済みましたが、同じ時期にこの世を旅立った仲間もいたんです。そうなる前になにかできなかったのかという気持ちがありました。

当時は専門の資格もなかったのですが、やはりこれが自分の使命なのではないかと思い、心理カウンセラーなどの資格を取って活動を再開しました」

ーーーそんな経験があるからか、初めて話す私でも椎名さんに包容力、安心感を覚えます。

「そう言ってもらえると嬉しいです。教育ではなく共に育つで”共育”。競争ではなく共に創るで”共創”がモットーです。

ただし馴れ合いではなく、寄り添い、ときに背中を押すというスタンスで向き合っています。自分自身でやりたいこと、こうありたい自分に気づいて、もう一度ワクワクしてもらいます」

ーーー何か問いかけのコツなどありますか?

「大切なことは、あなたのために時間を作っているという特別感や、あなたのことちゃんと見てるよという安心感だと思っています。それが相手に伝われば、相手も安心して自分の気持ちをさらけ出せるからです」


日本医療デザインセンターとの出会い

椎名は教育現場での仕事を通じて、西村佳隆(医療デザイン Key Person Interview Vol.01)と一緒に仕事をすることが多かった。西村は製品やサービスなど目に見えるものを、椎名は「ひと」「こころ」など無形の領域を専門としている点で相性が良い。

西村に導かれる形で、医療という未知の領域に出会った椎名は、まさに自分がやってきたことが生かせるフィールドだと感じたと言う。

「私は医療の中身は分からない。だからこそ気づける課題があります。医療現場の皆さんはかなりタイトな状態で仕事をされている方も多い。『現場がひっ迫している』などと良く言いますよね。これをなんとかしていきたい」

ーーー椎名メソッドはワクワク!ですよね?

「はい。変えようなどというのはおこがましいなと思っています。そうではなく、現場で一生懸命働いている医療人がワクワクすることで、自分たちの価値を再定義し、働きやすくしていきたいです。

カッコよく言うと、一緒に『医療人の人生をデザイン』していきたいです。こちらがデザインするのではなく、自らの力でデザインできる思考を持った人たちになってもらうのです。」

椎名はすでに日本医療デザインセンターの賛助会員(理念に賛同した医療法人の理事長、院長)の経営する病院などを訪ねている。彼らの病院は職員の働き方という点でも先進的で学ぶことが多いそうだ。

原点はいつも ”ワクワク” 椎名の願い

椎名が日本医療デザインセンターの活動にコミットした背景には、もう1つ理由がある。関わる人が魅力的という点だ。

「私は常々、何をするか以上に、『誰とするか』を大切にしてきました。その意味で、日本医療デザインセンターの理事や賛助会員など関わる人たちは最高です。

皆さんを心理的に分析すると精神バランスや発想の転換など、脳の切り替えができる人ばかり。だからワクワクした取り組みや慎重さが求められる医療的な活動のバランスが取れている。」

ーーー椎名さん自身がワクワクされているんですね。

「もちろんです。セミナーや理事会に参加すると、毎回自分の学びも計り知れないし、無形資産のヒント、原石が散らばっている。判断基準の1つに、『面白いか、ワクワクするか』という軸がある。だから、日本医療デザインセンターの取り組みは面白いことばかり。

これからの構想で、医療デザインを通じて皆さんを驚かせていけると確信しています。ぜひこれを読んでいる多くの医療関係者、それ以外の皆さんも一緒に驚かせる側になってほしい。」

聞いているこちらがワクワクしてくる。それが椎名の言葉のチカラであり、日本医療デザインセンターのポテンシャルなのだろう。

ワクワクしているオジサンがいてもいい。独りよがりではなく、人に寄り添い、モチベーションに自ら気づく心の対話を武器にしている。何年後か、働きやすい医療機関が大きく増えたら、その陰には椎名の貢献があることだろう。


 取材後記

椎名さんの表情を初めて拝見したのは11月に行われた「第1回医療デザインサミット」。このときから温和な表情と誠実な語り口が印象的でした。

ワクワクして働いているか、誰と働くが重要など、個人的にも共感するポイントばかりで、インタビュー中に「その通り!」と何度も手で膝をたたいていました。自分本来のもつモチベーションに気づかせるという自然な考え方も素敵だと感じました。(聞き手:医療デザインライター・藤原友亮)


椎名 雄,  プロフィール

一般社団法人 日本医療デザインセンター 理事 / 3Eデザイナー(Emotion,Entertainment,Education)
不思議な音色株式会社 会長 心の調律師®
音楽・芸能業界を経て、異色のコンサルティング業界へ転身。人財育成を中心に、新店舗立案から赤字店舗の立て直しに至るまで、様々な特命事案を短期間で完遂。これらの経験を活かし、「共育」×「エンターテイメント」×「情動」の3Eを軸に、医療現場を含め、わくわくしてくるプラットフォーム創りを全国各地で発信し続けている。


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