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医療・地域・人 をつなげてシナジーを生み出す
医療デザイン Key Person Interview:村口 正樹
医療機関の開業や経営支援を20年以上続けてきた村口 正樹(むらぐち まさき)は、何百人という医療機関の経営者を支えたその道のプロである。
また、多職種連携の勉強会を開催するなど、地域医療の質を高めるための奔走もしてきた。多職種連携とは、1人の患者様に関わる、医師、看護師、薬剤師、介護福祉士などそれぞれの立場から、意見を出し合いながらよりよい医療・介護を追求していく考え方だ。
ただし、村口が日本医療デザインセンターの理事となったのは、医療コンサルタントとして経験豊富なことだけが理由ではない。
「プロデューサー」という役割に隠された村口の得意技は「人と人をつなぐ」ことだ。医療をデザインするためにも欠かせない「つなぐ」ことの意味と価値を、村口の言葉から紐解く。
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医院開業というプロジェクトを完遂する仕事人
現在の村口は「3つの名刺」で活躍している。
「日本医療デザインセンター」理事
「ブレインパートナー」代表取締役
「医療法人社団 守成会 広瀬病院」広報・人材開発担当
最も長いキャリアは、自身が創業した2つ目の医院向けの開業支援を行うコンサルティング会社だ。
ーー創業されてから20年。たくさんの医院をサポートされてきましたね?
「気づいたら20年経っていたという感じです。おかげさまで現在も半年~1年後に開業予定のクライアントが複数います。開業までサポートした医院から、そのまま顧問として10年以上かかわっているケースもあります。」
ーー村口さんの仕事の確かさがうかがえますね。案件ごとに村口さんが信頼できるパートナーとチームを組んでいくと聞きました。
「そうですね。一通りの知見はありますが、例えば僕は自分で設計図面は書けません。そこで信頼する外部のパートナーに加わってもらいます。設計、医療機器選び、電子カルテ導入、診療報酬の対策、労務管理……など、やることは多いですから。」
各分野のスペシャリストと顧客をつないでいるのが村口だ。自らは「プロジェクトマネージャー」となってコーディネートする。着実に実績を積んできた。
医療経営支援の道に導かれた出会い
23年ほど前、ある医師、税理士との出会いが、村口を現在の道へと誘った。これも「つながり」である。
証券会社から生命保険会社に転じていた村口のもとに紹介が舞い込む。その人は医師で「開業を考えているので、医療に強い税理士に会いたい」という要望だった。
ーー金融系の出身だから、会計士や税理士などの知り合いも多かった?
「いいえ。当時はつては全くなかったんです。今なら人脈もあるし、SNSで探せますよね。お客からの頼みだから、片っ端から電話帳で探して自分で電話しました。運よく重鎮の先生にたどり着けてアポイントが取れました。」
ーーなんと粘り強い!ただ当時の村口さんは医療の話にはついていけなかった?
「まったく…。医師と税理士の話を私は横で聞いているだけ。話の中身は全然理解できなかったです。
ただ、その税理士さんの対応がカッコよかった。こちらは税務の質問をしに来たのに、先生は医療の専門家のように診療報酬の改定についてなど、医療側の立ち位置から話をしていました。ギャップというか、この姿を見て単純にカッコいいと思ったんです。」
村口はこれをきっかけに独学で医療の経営や制度などを学び、無料で相談を受付けた。
「最初は会社勤めしながらボランティアで手伝っていました。当時、開業を手伝う専門家はほぼ皆無で、『無料』というのも支持されてどんどん依頼が舞い込むようになりました。
とても本業との両立はできないと、1年悩んで独立を決意しました。」
人をつないだはずが、自分の運命が変わった。医療分野で確かな信頼を築き、現在の広瀬病院との縁もコンサルティング業務の中から生まれていく。
地域の医療・介護もつないできた
村口の3枚の名刺のうちの一つ、広瀬病院(神奈川県相模原市)の経営広報。広瀬病院も、もとは村口の顧客だった。
人口73万人という巨大な相模原市の中でも、豊かな自然に囲まれる西北エリアに広瀬病院はある。
かつて村口は埼玉の住まいから2時間かけて通っていたが、やがて相模原に移り住んだ。病院の中の仕事のほか、地域の在宅医療を支える責務から「相模原多職種連携の会」を立ち上げ、村口は事務局を勤めてきた。
「広瀬病院は71床の小規模病院。だからこそできる役割があります。大病院の受け皿にもなり、地域のクリニックとの連携もします。患者様が希望する入院、外来、訪問診療をどれも提供しなければなりません。」
ーーだからさまざまな立場の職種の方と「つながる」ことが大切ですね。
「そうですね。組織も職種も違う人が集まれば、出てくる知恵も違います。1人の患者さんには本当に多くのスタッフが関わっています。地域医療の質をより高めるために『多職種連携』は欠かせません。相模原の土地、人が大好きになったので、微力ながら貢献していきたいです。
今、あらゆる地域医療の現場で、多職種のつながりが求められてきています。各地域でがんばっている先生たちのサポートを、日本医療デザインセンターとしても続けたいです。」
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医療デザインでもつながりを元に
初めて「医療デザイン」という言葉を聞いたとき、思わず「僕は絵なんて描けないですよ」と答えてしまったと村口は言う。理事になってほしいと、長年の旧知だった桑畑代表理事に頼まれたときの話だ。
ーー医療xデザインという馴染みのない言葉だから分かりづらかったのでしょうか。
「私だけの特別な反応ではないと思います。今なお、多くの人が一回聞いても意味が分からないでしょう。
『医療デザイン』という言葉だけでは伝わらない点をどうしていくか、それも『デザインの力で解決していくべき課題』なのだと感じています。」
集まった理事は現役の医師を含む10名。この人たちとなら大きな変革を成し遂げられるかもしれないと感じた。つなぎ屋としての村口の直感だった。
ーー現在は、賛助会員(日本医療デザインセンターの活動に賛同する医療機関の経営者)との定期的な経営相談も受けているそうですね。どんな話をするのですか。
「賛助会員の方が増えて、私も忙しくなってきました。開業期、発展期、安定期などでも、医療機関の場所や規模でも経営課題は異なりますから、その方の課題をすり合わせながら、私が携わった事例から参考になりそうなお話しをしています。
できるだけ医療デザインの切り口を入れます。その方が、先生たちも理解度が深まる手応えがあるので、そこはうれしいですね。」
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医療人に”デザイン”の必要性を伝える役割を担いたい
日本医療デザインセンターにはミッションがある。活動の結果とプロセスを体系化し、2027年までに『日本医療デザインセンター』を全国の大学病院の構内に7ヶ所設立することを目指して活動している。それも早期に。村口もコミットしている。
ーー日本医療デザインセンターに関わる人が増えてきたと聞きます。ここからが楽しみですね。
「はい、私も日々『この人をあの人に引き合わせたら面白そうだ』などと考えています。どんな相乗効果を生むか楽しみです。
実は顧客である開業医にもよく伝えることがあるんです。それは『選択に迷ったら考えずに勘に頼ってください』ということ。データや理屈も大事ですが最後に決めるのは本人です。
こっちかな?という”風”を感じたら、そっちに進んでほしい。今、私もまさに”風”を感じて色々な人々を引き合わせています。」
毎年、広瀬病院では大学の医学部生を研修で受け入れている。村口が、医師の卵達に対し「地域医療における医療デザインの重要性」を講義するのが恒例だ。
こうした伝道師の役割を、大学や医療デザインセンター内で担っていきたいと村口は考えている。人が増えるにつれて、村口のつなぎ役としての存在感は、一層増していくのではないだろうか。
取材後記
村口さんは人柄も真面目なことに加えて、風貌も「事務長」「管理部長」という感じ。医院開業の経営コンサルタントと聞くと余計にそう感じます。
しかし、実は事務仕事は大の苦手で、「おもしろい、ワクワクすることが大好き」「僕はみんなのやる気に火をつける役で、ゴールに向かうのはみんな」というタイプなのだそうです。失礼ながら、そうは見えない……。
本人は苦笑いしながら「いつも『意外だ』と言われる」とのこと。イメージを覆すような記事を書いてほしいというプレッシャーをかけていただきました。(聞き手:医療デザインライター・藤原友亮)
村口 正樹 プロフィール
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一般社団法人 日本医療デザインセンター 理事 / プロデューサー
有限会社ブレインパートナー代表取締役
医療法人社団守成会広瀬病院非常勤/広報・人材教育担当
京都府京都市出身。関西学院大学社会学部卒業後、大手證券会社、外資系生命保険会社を経て有限会社ブレインパートナーとして独立。有限会社ブレインパートナーでは、医療経営に特化したコンサルタントとして、経営顧問、開業支援をおこなう。また広瀬病院の非常勤職員も勤め、その縁から相模原や町田周辺の多職種連携の場をコーディネートしている。