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【過去問】 過納金・還付加算金の課税関係
1.問題
Aは、平成10年4月に、それまで勤めていた不動産会社を辞めて、東京都内で、個人で不動産賃貸の事業を開業した。Aは、開業に伴い、個人の不動産賃貸業者が会員となっているB協会に加入した。
B協会は、平成16年4月、不動産の税務会計等に詳しいC税理士を講師に招き、本部事務所の会議室において、B協会の会員の参加による講演会とC税理士を囲んだ懇親会を開催する計画を立てた。同講演会の開催日を同年5月10日とし、参加する会員が負担する費用として、講演会の参加費用を2万円、その後に開催される懇親会費用を1万円と決めて、その旨記載した案内状を各会員に送付した。Aは、B協会からの案内状を見て、是非ともC税理士の講演を聴きたいと考え、同年5月10日、本部事務所に行き、会場受付で、講演会及び懇親会の各費用として合計3万円を支払い、C税理士の講演を聴いた。講演会及び懇親会の終了後、Aを含む会員数名で、本部事務所近くの居酒屋において、C税理士を囲んで二次会をすることとなり、その費用についてはC税理士分も含めて参加した会員で割り勘とし、結局、一人4000円を支払った。
ところで、Aは、開業以来、果敢な投資により事業を拡大し、それに伴って売上げも順調に伸ばしてきたが、そのため多額の税金を支払うこととなったため、少しでも納税額を減らそうと考えた。そこで、Aは、平成16年12月10日ころ、取引先であるDに依頼して、額面300万円の架空の請求書と領収証を作成してもらい、その報酬として、Dに対して20万円を支払った。
平成19年になって、Aは、E税務署の職員の調査により、過去3年分の所得を過少申告していたことが発覚した。そのため、E税務署長は、平成19年9月1日、Aに対して、3年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、両処分を併せて「本件各処分」という。)をした。
Aは、直ちに、本件各処分に基づき本税及び加算税等を納付したが、本件各処分を不服として、E税務署長に対して異議申立てをした。しかし、同申立ては棄却され、さらに国税不服審判所長に対して審査請求をしたが棄却された。そこで、Aは、弁護士を選任して、本件各処分の取消しを求めて、平成20年10月1日に東京地方裁判所に提訴した。
Aは、E税務署長に対する異議申立てに始まる一連の手続をするに当たって、C税理士に代理人さらには補佐人として関与してもらえるように頼み、本件各処分が取り消された場合には成功報酬として還付加算金を含めた認容額の10パーセントを支払うことを約束した。
第一審の東京地方裁判所は、Aの請求を棄却したため、Aが控訴したところ、東京高等裁判所は、平成24年10月17日、本件各処分の一部を取り消す旨の判決を言い渡し、同判決は、当事者双方が上訴せず確定した。
E税務署長は、同判決の確定を受けて、平成24年11月1日、Aに対し、過納金2000万円と還付加算金300万円を還付した。Aは、C税理士に成功報酬として、230万円を支払った。
以上の事実関係を前提に、以下の設問に答えよ。
〔設問3〕
E税務署から還付された過納金及び還付加算金は、所得税法上、Aの平成24年分の課税所得に含まれるか。課税所得に含まれるとした場合に、いかなる所得区分に該当するか。AがC税理士に支払った報酬230万円は、所得税法上、どのように取り扱われるか。
2.出題趣旨
設問3については、まず、過納金及び還付加算金の課税所得該当性が問題となる。前者については、過納金が納税者に還付されることによって経済的価値が流入しているが、所得税を納付しても所得金額に影響を及ぼすことがないこと(所得税法第45条第1項第2号)を踏まえて、納付した所得税が過納金として還付された場合に所得金額に影響を及ぼすかを検討する必要がある。後者についても、課税所得である利子的な性格を持つかあるいは非課税の損害賠償金の性格を持つかを検討する必要がある。その上で、課税所得に該当すると考える場合には10種類の所得区分のどれに該当するかの解答を求めている。また、C税理士に支払った報酬の必要経費該当性については、①訴訟の結果得られたものを課税所得とした場合に、それを稼得するための必要経費と考えるか、また、②そもそも不動産所得を稼得するための必要経費と考えるかにつき、設問2で定立した必要経費該当性の判断基準に従って解答することを求めている。
3.採点実感等
設問3については、まず、過納金及び還付加算金の課税所得該当性を個別に検討することとなる。「出題の趣旨」でも述べたように、過納金については、納税者に還付されることによって経済的価値が流入しているが、所得税を納付しても所得金額に影響を及ぼすことがないこと(所得税法第45条第1項第2号)を踏まえて、納付した所得税が過納金として還付された場合に所得金額に影響を及ぼすかを検討する必要がある。そうすれば、還付される過納金は、課税所得とはなり得ないことが理解できたと思うし、常識的に考えても、過納金の受還付は、納め過ぎた税金を返してもらうだけなのに、返ってくる税金に更に税金が課されるというのは不合理ではないかと思われる。ところが、過納金の還付も経済的価値の流入であるから課税されるとした答案や、さらには課税所得性を全く問題にしないまま所得分類を判断する答案が半数以上もあった。還付される過納金には課税されないとした答案についても、所得税法第45条第1項第2号を指摘して論じた答案は少なかった。また、還付加算金については、過納金との区別を意識した答案は少なく、利子的な性格があると指摘した答案は更に少なかった。利子的な性格があることを指摘した答案でも、所得区分については、過納金とともに一時に還付されることから、一時所得とした答案がほとんどであった。しかし、還付加算金が利子的な性格があるとすると、一時的・偶発的な利得とはいえず、対価性のない一時所得と考えるのは困難ではないかと思われる。なお、過納金と還付加算金を合わせて「過納金等」と表現し、両者を区別せずに論じている答案もかなりあった。
C税理士に支払った報酬の必要経費該当性については、①還付加算金を稼得するための必要経費と考え得るか、また、②不動産所得を稼得するための必要経費と考え得るかの両面から検討して欲しかったが、ほとんどの答案は①のみを検討し、②を検討した答案は極めて少なかった。①を検討するに当たっても、還付加算金が利子的な性格を有することを踏まえた上で、設問2で定立した必要経費の判断基準に従って丁寧に論じた答案は少なかった。
4.解答例
設問3第1文について
1.まず、Aは平成24年11月1日に過納金と還付加算金をうけとっており、経済的価値の流入があると思われ、「収入すべき金額」(所得税法36条1項)に該当しそうである。したがって、過納金と還付加算金は、Aの平成24年分の課税所得に含まれそうである。
2.しかし、所得税法は、所得税の納付が所得金額に影響を及ぼさないことを前提としている(同法47条1項2号)。このため、過納金として、納付した金額の還付をうけたとしても所得金額に影響を及ぼすことは予定されておらず、課税所得に含むべきではない。
そもそも、過納金は、本件各処分により法令上の支払義務があることを前提に納付したものの、本件各処分の一部が取消されたことにより返還されるものである。後発的に、法律上の原因を失い、利得した金銭を返還する実質を有しており、Aの国に対する不当利得返還請求権の履行としての側面があると思われる。そして、貸付金債権の元本返済をうけたときと同様、Aの純資産に変動はないと考える。したがって、過納金をうけとったとしても、経済的価値の流入はなく、「収入すべき金額」(同法36条1項)にあたらないと考える。
また、Aは、過納金を支払ったため、同額を運用することで得られた利子分の損害を被っている。還付加算金は、過納金に対する利子的な性格を有する。そして、還付加算金の支払いはAが被った利子分の支払いと考えられるため、その支払いによってAの純資産に変動はない。このため、還付加算金の支払による経済的価値の流入はなく「収入すべき金額」(同項)はないと考える。(なお、同法9条1項18号には該当しないと考える。)
3.以上より、過納金と還付加算金は、Aの平成24年の課税所得に含まれないと考える。
設問3第2文について
1.過納金と還付加算金がAの課税所得に含まれるとしたときの所得分類を検討する。
2.過納金は、Aの不動産賃貸の事業に関連した過少申告であるのか、問題文から明確ではない。このため、Aの事業所得に分類することはできないと考える。そして、事業所得以外の同法34条1項に列挙された所得に分類されず、本件各処分に対する不服申立手続は、営利性と継続性を有しておらず、かつ、労務その他の役務あるいは資産の譲渡の対価としての性質を有さない(同項参照)。このため、一時所得に該当すると考える。
3.還付加算金は、過納金に対する利子的性格を有する。しかし、利子所得は、公社債と預貯金に対する利子に限られており、利子所得に分類できない(同法23条1項)。そして、一時所得(同法34条1項)に分類できるのか問題となるが、利子的性格から「一時的」な所得と認められない。したがって、同法35条1項のいずれの所得にも分類できないため、雑所得(同項)に分類される。
設問3第3文について
1.まず、AがC税理士に支払った報酬は、Aの不動産賃貸の事業に関し、同法37条1項前段の個別対応の必要経費にはあたらない。そこで、同項後段の期間対応の必要経費にあたらないか問題となる。同項の趣旨は、総収入金額のうち、課税対象を所得に限定し、投下資本の回収部分に課税が及ぶことを避けるためであると解される。このため、同項後段の費用は、収入を生み出す業務に直接関連し、かつ、客観的に、その業務遂行上必要なものでなければならないと考える(ロータリークラブ会費事件判決)。C税理士への報酬は、本件各処分の不服申立手続が奏功したときに支払われる報酬であることから、不動産賃貸の事業に直接関連しておらず、かつ、客観的に、その業務遂行上必要なものではない。したがって、期間対応の必要経費にもあたらない。
2.そして、C税理士への報酬は、本件各処分の不服申立手続が奏功したことにより過納金という一時所得を得るために直接要した金額であると考える(同法34条2項)。このため、C税理士への報酬230万円は、Aの過納金の一時所得2000万円から控除される。
5.ケースブック租税法〔第6版〕との関係
ケースブック租税法を勉強した範囲では、過納金と還付加算金の問題はなかったと思う。このため、勉強してきたことを応用しながら解答を用意してみた。
設問3第1文において、過納金と還付加算金は非課税所得となることを論証することが求められているようである。それにもかかわらず、設問3第2文で、課税所得となると仮定して所得分類を問われているため、やや戸惑ってしまった。特に、還付加算金の過納金に対する利子的性格を、特だしして、論証することも求められており、頭を抱えてしまった。
なお、設問3の第1文については、所得税法47条1項2号以外にも考えてみたところを書いてみた。また、C税理士への報酬の取扱いは、不動産賃貸事業の事業所得の必要経費なのか、過納金の一時所得から控除すべきなのかという観点から論じてみた。
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