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§225.03 匿名組合員が受ける利益の所得分類

1.事案の検討

⑴ 本件判決は、「匿名組合契約に基づき匿名組合員が営業者から受ける利益の分配に係る所得」は、いかなる種類の所得に該当しうるとしているか。

(ケースブック租税法〔第6版〕271頁)

 まず、匿名組合員が出資者としての地位でうける利益分配であれば、一種の配当としての性質を有する雑所得に該当しうるとしている。また、出資者にとどまらず、匿名組合員が事業に関与しており、営業者との共同事業によってうける利益分配であれば、事業所得に該当しうるとしている。

⑵ 匿名組合員の受ける利益の分配が雑所得に該当する理由が、どのように判示されているかを指摘せよ。

(ケースブック租税法〔第6版〕271頁)

 匿名組合員が営業者とともに事業に関与しているときは、その事業の内容に従って、所得分類は決めるべきであるとする。そうではないときは、匿名組合員にとってその所得が有する性質に従って判断されるべきであるとする。そして、匿名組合員への利益の分配は、匿名組合員が事業に関与せず、(株主のような)出資者としての地位で受けているのであるから、所得税法23条から34条までの所得に該当せず、同法35条1項に定める雑所得に該当すると判示した。

2.通達改正の影響

(略)

3.匿名組合員が受ける「損失」の分配

 (略)この両者の整合性について検討せよ。また、本件判決が指摘する匿名組合の商法上の性質に照らして、匿名組合員が受ける「損失」の分配が、課税上、どのように扱われるべきかについて検討せよ。なお、有限責任事業組合の組合員の課税関係については、§231.04 N&Q6.参照。

(ケースブック租税法〔第6版〕272-273頁)

設問後段について

 本件判決は、「その出資は営業者の財産に属し、また、」匿名組合員は「営業者の業務を執行し又は営業者を代表することができず、営業者の行為について第三者に対して権利及び義務を有しないものとし(旧法536条、542条、156条、新法536条)」と指摘している。つまり、商法上の性質からすると、匿名組合契約の事業に係る資産・負債、契約関係は、すべて営業者が、所有し、負担し、営業者に帰属する。このため、法律的な名義を基準とすると、匿名組合事業からの損益は、営業者に帰属すると考えざるを得ない。(任意組合の場合は、資産が組合員の共有(総有)に属するといった点で違いがあり、総額方式(損益計算書、貸借対照表の各項目のすべてを各組合員に配分する方法)が認められていることを指摘できる。)このため、匿名組合事業の始期から終期までの期間(1年を超える期間)を人為的に区切って、匿名組合契約上、計算期間を観念したとしても、その計算期間の終期において、匿名組合員と営業者との間の法律関係は確定せず、それ故に、損益も確定しないため、その計算期間中に発生した損失を、匿名組合員に分配することはできないと考えることになるのではなかろうか。これは、個人の匿名組合員が受ける「損失」の分配の考え方と整合的である。

設問前段について

 これに対して、国税庁の通達は、法人税については、計算期間中の損益の分配を認めている。上述した匿名組合員と営業者の法律関係は、匿名組合員が、個人であるか、あるいは、法人であるかによって変わらないはずである。
 このため、政策的な理由で、このような違いを認めたのではないかと推測する。法人税法の勉強が進んでいない状況で、考えるに、所得税法は、所得区分を設け、所得分類間の損益の通算を制限するという法制を採用しているのに対して、法人税法は、そのような法制を採用していないという違いがある。また、法人税法の場合は、最終的に個人に配当等する段階で課税が予定されている。このような違いが、個人に対する態度と法人に対する態度の違いの背景にあるのではなかろうか。2巡目に、再度、検討してみたい。


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