§231.04 組合員の所得と計算方法
1.事件のその後
(略)
2.事案の検討
問:任意組合の課税方式の内容を整理せよ。
甲説(総額方式)
結論: 総額方式は、任意組合の損益計算書、貸借対照表の各項目のすべてを各組合員に配分する方法である。
理由: 組合財産が組合員の共有とされており、組合損益(任意組合の行う個々の事業活動から生じた損益)は、それが生ずるごとに実際に分配の有無を問わず(損益分配割合に応じて)各組合員に帰属する。
乙説(純額方式)
結論: 純額方式は、任意組合の利益金額や損失金額のみを各組合員に配分する方法である。
理由: 任意組合は、社団ではないものの、組合財産が狭義の共有ではなく、いわゆる合有とされており、かつ、営利事業を目的とする組合においては、定期的に損益計算をして利益があれば、その都度、組合員に分配することを意図している。
丙説(中間方式)
結論: 損益計算書の項目だけ各組合員に分配する方法である。
理由: 総額方式と純額方式の中間の方式である。
組合は、社団ではないので、それに対する法人税としての課税はない。このため、構成員に対して所得税または法人税が課税される(構成員課税)。そして、所得税法は、組合損益について課税方法等を定めておらず、これについては専ら解釈に委ねられている。
そして、総額方式は、任意組合の組合財産が共有であることに着目し、解釈としての正当性を認め、純額方式は、任意組合の組合財産が合有と解釈されていることと、組合員が出資者として専ら損益分配をうける立場であること(もあること)に着目し、解釈としての正当性を認めたものと考える。
3つの方式のいずれもが解釈として正当であるとした理由は(必ずしも明確に述べられていないが)、いずれも、組合損益の分配方法として、組合財産の所有形態と矛盾しないからではないかと思われる。
匿名組合契約の下では、匿名組合出資は営業者の財産に帰属し、匿名組合の事業にかかる財産の所有権は、営業者の所有となる(商法536条1項)。このため、匿名組合員が営業者からうける組合損益の分配は、純額方式によることが前提とされている(航空機リース事業匿名組合事件判決)。
同判決との整合性の観点からは、本件判決における国の主張が興味深い。すなわち、「所得税法の解釈上、総額方式によることを原則とし、総額方式によることが事実上困難であるなど、総額方式によらないことにつき合理的な理由があると認められる場合に限り、中間方式又は総額方式によることを許容しているものと解される」と主張している。
組合財産の法律上の所有形態を前提とするならば、組合損益の分配方式も、それに応じることが、論理的である。すなわち、任意組合は共有形態であるとされるから総額方式(を少なくとも原則的な方式)、匿名組合は営業者所有であることから純額方式と考えるべきではなかろうか。
ただ、本件判決も指摘するとおり、任意組合の「共有」が合有と解されている。つまり、狭義の共有と異なり、「組合員による持分の譲渡は組合に対し対抗することができず(676条1項)、また、清算前には分割請求することができない(同条3項)。……この共有においては、持分というものを観念することができるけれども、持分に基づく権利の行使には、676条が定める制約を伴う」(山野目章夫「民法概論2 物権法」235頁)のである。
このような実体法上の曖昧さを踏まえると、上記国の主張のように、総額方式を原則的形態であると言い切ることには躊躇を覚える。このため、本件判決は、総額方式、純額方式、中間方式を中立的に捉えたのではなかろうか。いずれにせよ、組合に対する法律上の権利帰属の形態から考えると、いずれの判決も整合的に捉えることができるのではないかと思われる。
なお、両者の整合性について検討の余地があると指摘されている(佐藤〔第4版〕325-326頁)。
3.所得税基本通達による扱い
36・37共-20の改正箇所は、以下の下線部分である。改正後に、太字部分が加筆された。
改正により、(1)の方法(総額方式)により計算することが困難と認められる場合のみ、(2)(中間方式)あるいは(3)(純額方式)によることができることが明らかにされ、総額方式により計算することが困難と認められる場合が、どのような場合かが明確化された。
4.組合員への課税のタイミング
設問の「現実に」分配された時は、「現金・現物等」の分配がなされた時のことをさしていると考える。組合の損益分配に関するいずれの方式であっても、「収入すべき金額」(所得税法36条1項)については、総収入金額あるいは収入金額に算入される。このため、現金・現物等が分配されておらず、個人の組合員の銀行口座等に資金がなくとも、その個人の組合員は、確定申告にあたって所得を申告しなければならない。このメリットは、納税者による操作を許さないことにあり、デメリットは、納税資金のない状況で、納税を求められる可能性があるということであろうか。
総額方式のときは、すべての組合損益は、損益割合に応じて、随時、各組合員に配分される。このため、組合の計算期間にかかわらず、組合損益は、個人の組合員に分配され、その確定申告にあたって、総収入金額あるいは必要経費に計上されることになるのではないかと思われる。
これに対して、純額方式は、計算期間を定めて、組合損益を分配することを想定しているように思われる。このため、計算期間を1年よりも長く設定することで、所得の年度帰属を操作できる可能性がある。中間方式は、いずれもあり得るのではなかろうか。
この点、所得税法基本通達36・37共-19の2(任意組合等の組合員の組合事業に係る利益等の帰属時期)は、その但書において、「組合事業に係る損益を毎年1回以上一定の時期において計算し、かつ、当該組合員への個々の損益の帰属が当該損益発生後1年以内である場合には、当該任意組合等の計算期間を基として計算し、当該計算期間の終了する日の属する年分の各種所得の金額の計算上総収入金額又は必要経費に算入するものとする。」と定め、組合損益の計算期間を用いて、年度帰属を操作することを認めないとしているようである。
5.組合の組成から解散までを通じた課税関係
まず、Bが甲土地をX組合に出資したとき、資産の「譲渡」(所得税法33条1項)が発生したといえるだろうか。この点、資産の所有権などの支配を引き継がせるあらゆる行為が「譲渡」にあたると考えられている(榎本家事件判決)。Xは、法人格を有さないため、甲土地の所有権はXに移転しない。ただ、Xに出資した結果、甲土地はAとBの共有に属することとなる(民法668条)。このため、甲土地の所有権はAとBの共有となり、それぞれ、2分の1の共有持分を有する状態となっている。しかし、その持分は、処分を組合と、組合と取引した第三者に対抗できないという制約に服する(同法676条1項)。このため、BからAに支配を引き継がせたと認められないのではなかろうか。
次に、Xを解散し、甲土地の共有持分をAが受け取っている。この時点で、BからAに甲土地の共有持分(2分の1)が移転し、支配が引き継がれていると考えることができそうである。このため、この時点で、BからAに「譲渡」があったと捉えることはできそうである。ただ、その対価がなにであったのかは問題である。Aは1億円を出資し、Xの清算により現金5000万円と時価6000万円の甲土地共有持分2分の1を取得した。このため、5000万円を支払って甲土地の共有持分を取得したとみることができる。個人間の低額譲渡として課税されるのであろうか(所得税法59条2項、同法施行令169条参照。本件ではこれらの規定は適用されない)。しかし、Xの清算に伴う分配は、資本取引と同様の性質を有しており、これを機会として課税してよいのであろうか。法人税法を勉強してから考え直してみたい。
さいごに、共有物の分割のうち、現物分割については「譲渡」にあたらないととり与う買われている。しかし、判例は、「共有物の分割は、共有者相互間において、共有物の各部分につき、その有する持分の交換又は売買が行われることであって……、所属のごとく、各共有者がその取得部分について単独所有権を原始的に取得するものではない」と判示しており、AとBとの間で承継取得、すなわち、「譲渡」があったとみるべきではなかろうか(ケースブック租税法〔第5版〕242頁「共有と譲渡所得課税」)。
6.関連する立法
(略)
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