1.問題
2.出題趣旨
3.採点実感等
4.解答例
設問1小問1
まず、Aによる商品先物取引は、差金決済取引であり、商品の引渡しを想定した取引ではない。このため、資産に対する所有などの支配を他人に引き継がせる行為ではなく、資産の「譲渡」(所得税法33条1項)にあたらず、譲渡所得には分類されない。また、Aは、平成21年中に、営利を目的として反復継続して、数回、商品先物取引を行なっている。このため、一時所得にも分類されない(同法34条1項)。
次に、Aは、自己の計算と危険で、商品先物取引を行なっており、「対価を得て継続的に行う事業」(同法27条1項同法施行令63条12号)として事業所得に該当しないか検討する。この要件に該当するためには、営利性、反覆継続性のほかに社会通念上事業と認められなければならない。それは、取引の種類、取引における自己の役割、取引のための人的・物的設備の有無、資金の調達方法、取引に費やした精神的、肉対的労力の程度、その者の職業・社会的地位などから判断されるべきである(最判昭和53年10月31日参照)。
商品先物取引は、投機的な取引であり、AはB社の営業員Cの勧誘をうけて、言われるがままに取引を開始している。また、Aは、商品先物取引を行うために、人的・物的設備を有しておらず、営業員Cを介して発注している。加えて、Aは、個人で建築業を営んでおり、平成21年は、そこから3000万円の所得を得ている。これらの事情を踏まえると、Aによる平成21年の商品先物取引は、社会通念上、事業と認められないと考える。
そして、商品先物取引は、同法23条から34条までのいずれの所得にも該当しない。このため、雑所得(同法35条1項)と区分されると考える。
5.ケースブック租税法〔第6版〕との関係
出題趣旨と採点実感は、最判昭和53年10月31日に言及している。この判決は、有価証券の譲渡所得が非課税であったころ、例外的に、株式取引からの所得が事業所得として課税されるのかという点が争われた事例である。本問が、おそらく、題材にしているとおもわれる、会社取締役商品先物取引事件の判断基準を念頭においていないようである。そこで、題意を踏まえ、上述の昭和53年判決を前提として、解答例を作成してみた。
会社取締役商品先物取引事件では、「その経済的行為をなすことにより相当程度の期間継続して安定した収益を得られる可能性が存するか否か」が判断基準にあげられていたが、昭和53年判決は、この点には言及していない。取引の種類が投機的であるから、この判断基準からは事業性を認めるのが難しいと論じるとわかり易いとも感じた。
事業所得と雑所得の区分の過去問の解答例は、いろいろな判決の判断基準を参照ながら作ってみたが、多面的に、問題を捉えることができ、面白く感じた。
なお、ケースブック租税法における昭和53年判決への言及であるが、「株式取引が『事業』に当たらないとした裁判例(最判昭和53年10月31日訟月25巻3号889頁)などがある。」(258頁)と言及されているだけである。