見出し画像

【過去問】みなし譲渡と取得費


1.問題

《問題》
 個人Xは、平成10年に甲土地を個人Aから対価1000万円で購入した。甲土地は、昭和56年にAが時価である1400万円で購入したもので、平成10年当時の時価は2200万円であった。このXによる甲土地の購入に関する事情は、以下のとおりである。
1  昭和56年に勤務先を定年退職したAは、入手した甲土地を小公園として整備し、付近の子供たちの遊び場として開放して、子供たちからも「公園のおじいさん」として親しまれていた。
2  平成10年初めに体調を崩し、余命幾ばくもないと診断されたAは、病院に入院するに当たって、甲土地が小公園として維持管理され続けることを願い、Xに甲土地を売り渡した。なぜなら、Xが、これまで暇を見付けては公園の掃除の手伝いをしたり、子供たちの遊び相手になったりしていたという事情があったからである。
3  XとAは、Xがすぐに払える金額として代金を1000万円と決め、Xは、所有権移転登記の費用を自ら負担して、甲土地の所有権を得た。
 この後、程なくしてAが亡くなり、XはAの遺志を継いで甲土地を小公園として維持し、子供たちの遊び相手をしていた。Xは、近年、高齢のため体力の衰えを強く意識したが、平成28年からは、医師の勧めで多種類のサプリメント(以下「本件サプリメント」という。)を使用したところ、若干体調が戻り、その効果を実感した。
 そんなXも、寄る年波には勝てず平成30年にはそろそろ「公園のおじいさん(二代目)」からの引退を考えていたところ,甲に隣接する乙土地をB株式会社(以下「B社」という。)が購入し、そこに保育所を開設することになったのを知って、甲土地を保育所の庭としてB社に買ってもらいたいと思うようになった。「甲土地が保育所の庭となってそこで子供たちが遊ぶのであれば、子供好きがったAの遺志にも沿う」と考えたからである。また、仮にB社が甲土地を買ってくれるならば、その対価として1000万円もらえば十分がと考えている(甲土地の平成30年における時価は2500万円である。)。これは、Xが、甲土地の売買により自分が得をすることを嫌い、Aから譲ってもらった時に支払ったのと同額で甲土地を売りたいと考えたものである。
 以上の事案について,以下の設問に答えなさい。

〔設問1〕
 平成30年にXがB社に甲土地を対価1000万円で売った場合、そのことは同年分のXの所得税の計算上どのように扱われるかを、根拠条文に触れつつ説明しなさい。なお、租税特別措置法について考える必要はない。

〔設問2〕〔設問3〕(省略)

(司法試験 令和元年 第2問 設問1)

2.解答例

設問1
1.  XはB社に対して甲土地を譲渡しており、平成30年の所得税の計算にあたり、譲渡所得の計算が問題となる(所得税法33条1項)。なお、この資産の譲渡は、同法33条2項1号と2号には該当しない。
2.  Xは法人であるB社に対して甲土地を時価2500万円の2分の1に満たない1000万円で売った。このため、Xの収入金額は、甲土地の時価である2500万円とみなされる(同法59条1項2号、同法施行令169条)。
3.  次にXは、Aから甲土地を取得しているが、その「資産の取得に要した金額」(同法38条1項)が問題となる。X(個人)はA(個人)から平成10年に甲土地を1000万円で購入した。この金額は、当時の時価2200万円の2分の1に満たない額である(同法59条2項、同条1項2号、同法施行令169条)。このため、Xの甲土地の取得費は、Aの取得費である1400万円を引き継ぐ(同法60条1項2号)。
4  なお、Xは登記費用を支出している。この点、「資産の取得に要した金額」(同法38条1項)には付随費用が含まれると考える。なぜなら、譲渡費用が控除されるため、取得のための付随費用も含まれると考えるべきだからである(支払利子付随費用判決)。このため、登記費用についても付随費用として取得費に含まれると考える。
5  以上より、収入金額2500万円から取得費1400万円と登記費用を控除し(同法33条3項)、特別控除50万円(同条3項、4項)を控除した後、甲土地の保有期間が5年超(同法60条1項2号により平成10年から30年までの約20年)であるから平準化措置として2分の1すること(同法22条2項2号、33条3項2号)で、算出される金額が課税標準となる。

3.ケースブック租税法〔第5版〕との関係

 「§222.06 無償譲渡・転々譲渡と譲渡所得計算」の「3.みなし譲渡と取得費」の⑶②において条文操作がきかれている。採点実感を確認すると、条文操作を漏れなく行うことが必須のようである。すなわち、33条2項への言及、59条2項のあてはめなどをきっちりと行うことが求められるようだ。長期譲渡所得に該当することを指摘するだけではなく、取得費の引き継ぎによる保有期間を明記すると加点になる可能性が示唆されている。あと、登記費用の取得費該当性に言及しないと減点されるようである。


いいなと思ったら応援しよう!