1.問題
2.出題趣旨
3.採点実感等
4.解答例
設問1⑴について
1.事業所得該当性
この点、事業所得(所得税法27条1項)は、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得(弁護士顧問料事件判決)とされる。
平成21年から平成25年までのAのインターネットを通じて大量に馬券を購入する業務は、自己の計算と危険において独立して営まれており、営利性と有償性を有し、反復継続して意思する意思が認められる。しかし、その業務は、いずれの年度においても、事業としての社会的地位は客観的に認められていない。このため、平成25年の当たり馬券の払戻金の所得は事業所得ではない。
2.一時所得該当性
まず、平成25年の当たり馬券の払戻金の所得は、事業所得のほか同法34条1項に列挙された所得分類にあたらない。そして、労務その他の役務の対価、あるいは資産の譲渡の対価としての性質を有さない。そこで、「営利を目的とする継続的な行為から生じた所得」(同項)にあたらないだろうか。あたると一時所得ではなくなるため問題となる。
この要件への該当性は、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断すべきである(外れ馬券民事事件判決)。
Aは、平成21年から平成25年まで、年間3000レースのほぼすべてのレースで馬券を購入しており、馬券購入の期間、回数、頻度を踏まえると継続的な行為であると認められる。そして、1年あたり5000万円程度の馬券を購入し、平均して年間200万円程度の利益をあげており、利益発生の規模としても平成21年から平成25年にかけて営利目的を認められる。さらに、Aは、競走馬や騎手等の情報を収集・分析した上で、着順予想の確度と配当率の大小を組み合わせた購入パターンに従い、年間を通じての収支で利益が得られるように工夫しており、この点から平成21年からすでに営利を目的としていることが認められる。
このため、平成25年のAの当たり馬券の払戻金の所得は、「営利を目的とする継続的な行為から生じた所得」に該当し、一時所得ではない。
3.雑所得該当性
平成25年のAの当たり馬券の払戻金の所得は、同法35条1項所定のいずれの所得にも該当しない。このため、この所得は雑所得に分類される。
設問1⑵について
1.ソフトの小売販売業の所得分類
Aは、平成26年からソフトの小売販売業を開始した。ソフトの小売販売業は、Aの計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務であると認められる。このため、Aのソフトの小売販売業の所得は事業所得にあたる(同法27条1項)。
2.事業所得該当性
それでは、Aの平成26年の当たり馬券の払戻金の所得は、事業所得に付随する収入として事業所得に分類されるであろうか。
この点、Aは、平成21年から平成25年までの方法による馬券の購入も継続し、従前と同程度の利益を上げており、同じ行為を継続しているに過ぎないとも思われる。しかし、平成26年からAは、馬券購入で得られる新たな競馬予想ノウハウをソフトのバージョンアップに取り入れており、ソフトの収益性を向上し、その売上に貢献する重要な業務に変わっていると認められる。
したがって、Aの平成26年の当たり馬券の払戻金の所得は、ソフトの小売販売業に付随する収入として、事業所得に分類される。
5.ケースブック租税法〔第6版〕との関係
「§225.02 一時所得と雑所得の区別」(ケースブック租税法〔第6版〕267頁以下)における分析を踏まえて、外れ馬券民事事件の一時所得該当性の規範を用いてみた。なお、行為の態様は、継続性を認定するための基準として用いた。また、営利目的の認定にあたっては、実際の利益の発生という事後判断要素と、購入方法の工夫による利益確保という事前判断要素を分け、後者については平成21年時点から認められることをあえて記載してみた。この点は、ケースブック租税法の問題から感じた問題意識を踏まえたつもりである(「2.事案の検討」の⑸②を参照)。