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§232.03 管理支配基準


1.事案の検討

⑴ ① 本件判決(仙台賃料増額請求事件判決)は、「賃料増額請求に係る増額賃料債権が賃借人に争われた場合」には、同債権にかかる収入の年度帰属は、原則的にどのように決まると述べているか。

(ケースブック租税法〔第6版〕302頁)

 本件判決は、「原則として、右債権の存在を認める裁判が確定した時にその権利が確定するものと解するのが相当である」とする。
 その理由は、①「賃料増額の効力は賃料増額請求の意思表示が相手方に到達した時に客観的に相当な額において生ずるものであるが、賃借人がそれを争った場合には、増額賃料債権の存在を認める裁判が確定するまでは、増額すべき事情があるかどうか、客観的に相当な賃料額がどれほどであるかを正確に判断することは困難であり、したがって、賃貸人である納税者に増額賃料に関し確定申告及び納税を強いることは相当でなく、課税庁に独自の立場でその認定をさせることも相当ではないからである。」また、②「賃料増額の効力が争われている間に賃貸借契約が解除されたような場合における原状回復義務不履行に基づく賃料相当の損害賠償請求権についても右と同様に解するのが相当である」と判示した。

② 賃料債権のうち、争われなかった部分の収入の年度帰属はどのように決定されるか。(略)

(ケースブック租税法〔第6版〕302頁)

 所得税法は、「現実の収入がなくても、その収入の原因となる権利が確定した場合には、その時点で所得の実現があったものとして右権利確定の時期の属する年分の課税所得を計算するという建前(いわゆる権利確定主義)を採用しているものと解される」としているのであるから、争われなかった部分の収入は、権利確定時、すなわち、賃料債権の期限到来時と考える。

⑵ 本件判決は、本件の債権について⑴①の原則と異なる扱いをすべきだとする根拠として、どのような事情を挙げているか。

(ケースブック租税法〔第6版〕302頁)

 本件判決は、「これに関しすでに金員を収受し、所得の実現があったとみることができる状態が生じたときには、その時期に属する年分の収入金額として所得を計算すべきものである」とした。
 その理由は、「仮執行宣言付判決は上級審において取消変更の可能性がないわけではなく、その意味において仮執行宣言に基づく金員の給付は解除条件付のものというべきであり、これにより債権者は確定的に金員の取得をするものとはいえないが、債権者は、未確定とはいえ請求権があると判断され執行力を付与された判決に基づき有効に金員を取得し、これを自己の所有として自由に処分することができるのであって、右金員の取得によりすでに所得が実現されたものとみるのが相当であるから」と説明した。

⑶ 本件判決は、権利確定主義が適用される場合と、その例外に当たるべき場合とを区別する基準をどのように示しているか。

(ケースブック租税法〔第6版〕302頁)

 一般的な基準を導くことはできないものの、少なくとも、「未確定とはいえすでに受け取った収入について『有効に取得し、それを自由に処分できる』という状態になったときなど、権利が確定していなくても収入すべき金額となりうる場合があることは、判例としてたしかに認められているといえます」と評価されている(佐藤〔第4版〕263-265頁)。

2.違法所得の年度帰属

 (略)

3.関連する問題

 (略)

4.関連裁判例

 (略)

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