【過去問】 矯正歯科の矯正料の帰属年度
1.問題
2.出題趣旨
3.採点実感等
4.解答例
設問2について
1.⑵の会計処理は、矯正料のうち、治療されていない部分について前受金という経過勘定を負債に計上し、収益として認識していない。つまり、矯正料として金銭を受領したものの、実際に治療する年まで、「その年において収入すべき金額」(所得税法36条1項)にあたらないとの会計処理をしている。この会計処理は適当であろうか。
2.「その年において収入すべき金額」とは、現実の収入がなくても、その年に収入の原因たる権利が確定的に発生した金額のことと考える(権利確定主義・雑所得貸倒分不当利得返還請求事件判決)。
これは、常に現実収入のときまで課税できないとしたのでは、納税者の恣意を許し、課税の公平を維持できないので、徴税政策上の技術的見地から、収入すべき権利の確定したときをとらえて課税することとしたものである。また、同項は「収入した金額」と規定していないこととも整合する。
この点、矯正歯科治療は、通常3年以上の期間を要し、契約では、矯正装置を装着時に一括して矯正料を受け取るものの、治療が中断されると、受領した矯正料のうち、いまだなされていない治療行為に係る部分に相当する金額を返還することが定められている。このため、一括受領時に、未治療部分の矯正料に係る権利は確定的に発生していないと考える。
3.ただ、このような権利であっても、現実に金銭等の収入があり、その金銭等を自由に処分できる状態となったときには、その金額については「その年において収入すべき金額」と考える(管理支配基準・仙台賃料増額請求事件判決)。
本件では、Bが平成19年4月から同22年3月までの3年間に矯正料を返還した実績は、患者総数及び矯正料総収入のいずれについても1%程度にすぎない。加えて、返還の理由も患者の転勤、転校等のやむを得ないものであった。また、返還に備えて、一括受領した矯正料を積み立てているといった事情も認められない。このため、Bは、一括して収受した金銭を自由に処分できる状態にあったといえる。このため、同金額については「その年において収入すべき金額」であったと考えるべきである。
4.したがって、Bが一括して受領した矯正料は、「その年において収入すべき金額」にあたり、受領した年に一括して収入金額として認識すべきである。このため、会計処理⑵のように前受金という経過勘定を用いて収入金額の認識を繰り延べるべきではなく、かかる会計処理は適当でないと考える。
5.ケースブック租税法〔第6版〕との関係
本問については、「§232.01 権利確定主義⑴ ––––– 基本的な考え方」(ケースブック租税法〔第6版〕293頁)と「§232.03 管理支配基準」(ケースブック租税法〔第6版〕302頁)の解答を参照し、出題趣旨と採点実感で表明されている試験委員の方々のお考えを汲みながら、解答例を作成してみた。なお、出題趣旨において「本問では、『その年において収入すべき金額』(所得税法第36条第1項)という要件をどのように解釈し、事案に適用するかが、問われている。」とされ、どの要件の解釈として展開することが期待されているのかが明確になった。そこで、この観点から論述することに努めてみた。なお、会計処理の妥当性というかたちで問いが立てられているため、経過勘定を使って、収益認識を繰り延べることの妥当性というかたちで言い換えたうえで、「その年において収入すべき金額」の論点であることにつなげてみた。
なお、出題趣旨で触れられている、高松高判平成8年3月26日行集47巻3号325頁であるが、裁判所のウェブサイトでは次のように説明されている。「矯正歯科を診療科目とする歯科医が、検査、診断後、矯正装置を装着した時点において、患者等と矯正治療契約を締結すると同時に矯正料を一括して受領した場合につき、たとえ矯正治療そのものは以後数年間にわたって継続するものであるとしても、前記歯科医は、遅くとも前記矯正装置装着日には、矯正料を収入金額として管理、支配し得る状態になり、収入すべき権利が確定したものというべきであるから、矯正料全額を前記矯正装置装着の日の属する年分の収入金額に計上するものとしてした所得税の更正は、適法であるとした事例」
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