【過去問】 債務免除益と所得概念
1.問題
2.出題趣旨
3.採点実感等
4.解答例
設問2⑴について
1.まず、債務の免除を受けると純資産は増加することとなる。所得を純資産の増加であると捉えると、法令上の除外規定(所得税法9条参照)のないかぎり、債務免除益は、課税所得と考えられる。そして、債務免除益は、経済的利益にあたり、「収入すべき金額」(36条1項、かっこ書き参照)として額面額(同条2項)の所得が発生すると考える。設問の見解は、法令上の非課税規定なく、その例外を説くものであり、その根拠が問題となる。(なお、平成26年税制改正で、上述の見解に従い、所得税法44条の2第1項が設けられている。)
2.この点、返済原資が限られていることに着目し、債務弁済が著しく困難な状態下での債務免除では、債務者に経済的利益は発生せず、免除しなかった他の債権者の回収可能性を高めるため、その債権者らに経済的利益が発生するという考え方がある。しかし、債務免除をされた債務者に経済的利益が発生していることは否定できないであろう。
3.次に、債務者が資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であるということは、債務超過であろうことに着目し、マイナスの状況での資産状況の改善は、経済的利益に当たらないという考え方もあり得る。しかし、債務超過状況下でも、純資産額の増加は発生することは否定できず、この考え方も難しい。
4.さらに、免除の時点で、その債権は回収が困難であることから経済的利益の額がなく、経済的利益はゼロであると考えることもできそうである。しかし、借入時には、借入金と債務額を額面額で相殺することで、純資産の増加はなく、借入金を「収入すべき金額」としていないことを考えると、免除の時点で、額面額による純資産増加を計測すべきであろう。
5.さいごに、計算上の数額に捉えわれずに考えたとき、債務超過状況の債務者が債務免除を受けたとき、額面額を経済的利益とみて課税すると、その納税資金を確保できないという実情に着目し、担税力がないことを根拠とする考え方がある。ただ、納税資金を確保できないという実情は、純資産額の増加を否定するものではなく、理論的には難しい根拠づけである。
6.したがって、いずれの根拠づけも難しいため、法令改正し、設問の場面では非課税とする規定を設けるべきであると考える。
設問2⑵について
1.まず、Bは、自己の計算と危険において営利を目的とし対価を得て継続的に行う経済活動として行なっている建設用機械の修理業に従事している。そして、債務免除益は、この事業に関連して、A社からの融資債務の免除益である。このため、債務免除益は、Bの事業所得に分類されるべきである(所得税法27条)。
2.そして、前述のとおり、原則として、債務免除益は、Bの純資産を増加させるため課税所得として扱うべきであり、経済的利益として、収入すべき金額に算入される(同法36条1項、2項)。このため、Bの事業所得として元利金合計2000万円が認識される。
3.しかし、Bは、①融資を受けた債務の元本について弁済の猶予を受けており、②利息についても最近2年間はA社に支払えない状態であり、かつ、③めぼしい財産もない状態である。このため、Bは、資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であると認められる。そして、設問の見解に従うと、このような場合は、例外的に、債務免除益は、収入金額に含まれない。このため、Bの事業所得の計算上、債務免除益である2000万円の所得は例外的に認識されない。
5.ケースブック租税法〔第6版〕との関係
設問1は、増井良啓「債務免除益をめぐる所得税法上のいくつかの解釈問題(上)」(ジュリスト1315号192頁以下)の197頁以下にインスパイアされた出題なのではなかろうか。(なお、この論稿の前半部分は「§231.01 収入金額の意義」で引用されている。)増井先生による検討を踏まえて、解答例を作成してみた。設問の見解は、従来の通達の規定を踏まえたものである。その理論的な背景を明らかにすることを求める出題ではなかろうか。その後、所得税法44条の2第1項が設けられて、通達は廃止された。設問2は、出題趣旨と採点実感等に従って、解答例を作成してみた。