1.問題
2.出題趣旨
3.採点実感等
4.解答例
設問2⑴前段について
1.本件解決金が、所得税法施行令30条2号の「損害賠償金」または3号の「見舞金」にあたり非課税所得にあたるのか問題となる。
2.「損害賠償金」と「見舞金」が非課税とされる理由は、これらの金員が受領者の心身、財産に受けた損害を補てんする性格のものであって、原則的に受領者に純資産の増加をもたらさないからである。
このため、「損害賠償金」または「見舞金」といえるためには、厳密に民法上の不法行為の成立に必要な故意過失の要件をみたす必要はないが、損害が現実に生じ、または生じることが確実に見込まれ、かつ、その補てんのために支払われるものでなければならない(マンション建設承諾料事件判決参照)。
3.Bは、高齢を理由に甲建物で営業している小料理屋を廃業しようと考えていた。このため、甲建物の立ち退きにより、Bが営業を継続できなくなり損害が生じるという関係にはなく、かつ、廃業による損害の補てんとして本件解決金は支払われていない。
そもそも、AはBとの甲建物の賃貸借契約の更新を拒絶しているが、更新拒絶にあたっては正当事由がなければならないところ、正当事由の考慮要素として本件解決金は支払われたものと考えられる(借地借家法28条)。したがって、損害の発生とその補てんのための支払いではない。
4.したがって、本件解決金は「損害賠償金」と「見舞金」のいずれにも該当せず、非課税所得にあたらないと考える。
設問2⑵後段について
本件解決金が課税所得であるとして、いずれの所得に分類されるべきであろうか。
Bによる小料理屋の営業は、Bの自己の計算と危険において営利を目的とし対価を得て継続的に行う経済活動といえる。このため、小料理屋の営業にかかる所得は事業所得(所得税法27条1項)に分類されると考える。
そして、本件解決金は、Bが小料理屋を営むために借りていた建物の更新拒絶に関し、受領しており、その事業に関連して受領したと認められる。したがって、本件解決金は、事業所得に分類し、課税されるべきである。
5.ケースブック租税法〔第5版〕との関係
非課税所得については「§211.05 非課税となる損害賠償金等」(ケースブック租税法〔第5版〕193頁以下)において、非課税とされる根拠は、純資産増加説からは、純資産が減少し、その補てんとして損害賠償金等を受け取るため、損害の発生と補てんという一連の過程に照らすと、純資産の増加はなく課税されるべきではないということと勉強したところである。マンション建設承諾料事件判決は、下級審判決であるが、採点実感でも触れられているので、上述の理論的根拠と絡めて、同判決で示された規範を提示してみたところである。所得税法施行令30条2号・3号の「損害賠償金」あるいは「見舞金」に該当しないということは、引用条文である同施行令94条には触れないことになるが、採点実感の示唆するところからすると、やむを得ないということなのであろうか。そうであれば、引用しないでもよかったのではないかと思えるが、同施行令30条を引用したため、仕方なく、同施行令94条も引用せざるを得なかったのであろうか。
本件解決金の所得分類は、小料理屋の事業との関連性を肯定して、事業所得に分類するのがわかりやすいのではないかと思った。なお、小料理屋は、いずれにせよ廃業するのだから、事業上の損害は発生しないということと、事業所得に関連して受け取っているとして、事業所得に分類することは、論理的に整合しないわけではないと思われた(若干、もやもやするが)。これでよいのか、よくわらかないが、公表された予備校の解答案などが見当たらないので、あいかわらず、自信がもてないところである。とはいえ、復習にはなっていると思う。なお、復習として、司法試験平成23年第2問設問2の解答例を読み直してみた。