1.問題
2.出題趣旨
3.採点実感等
4.解答例
設問1小問⑴について
1.奨励金を何年の所得として取り扱うべきか。「その年において収入すべき金額」(所得税法36条1項)の意義が問題となる。
「その年において収入すべき金額」とは、現実の収入がなくても、その年に収入の原因たる権利が確定的に発生した金額のことと考える(権利確定主義・雑所得貸倒分不当利得返還請求事件判決)。
これは、常に現実収入のときまで課税できないとしたのでは、納税者の恣意を許し、課税の公平を維持できないので、徴税政策上の技術的見地から、収入すべき権利の確定したときをとらえて課税することとしたものである。また、同項は「収入した金額」と規定していないこととも整合する。
甲は、小問⑴の奨励金500万円は、X起業大賞に応募し、選考の結果、最優秀者に選ばれて授与されたものである。このため、平成22年11月1日に奨励金を授与された時点で、奨励金を受け取る権利は確定的に発生していると考えられる。したがって、奨励金は、平成22年分の所得として取り扱われるべきである。
2.そして、奨励金500万円の金銭の支払いにより給付されているため、収入金額は500万円とする(同項)。
3.奨励金の所得区分を検討する。甲は、X社の公募した「X起業大賞」に応募し、その「OKくん起業企画書」が優秀と認められ、奨励金を授与された。
甲は、退職金100万円と叔父からの借金300万円を使って、自己の計算と危険により、OKくんの開発に勤しんだが、「X起業大賞」への応募は、継続的に行う経済活動とはいえない。このため、事業所得(同法27条1項)にはあたらないと考える。
そして、甲とX社との間には雇用契約等の契約関係はなく、奨励金は、従属的な地位での非独立的な役務提供の対価ではないため、給与所得(同法28条1項)にもあたらない。
雑所得以外のその他の所得に該当しないところ、前述のとおり、反復継続した経済活動からの所得ではなく、かつ、労務提供の対価でもなく、さらに、資産の譲渡の対価でもないことから、一時所得(同法34条1項)に該当すると考える。
設問1小問⑵について
1.起業支援金は、何年の所得と扱うべきか。
⑴ 起業支援契約1条によると、受賞した企画に基づいて起業するための費用を補てんする性質のものであり、支払の条件として、甲からX社に対し、費用に係る請求書又は領収書を提出することとされている。このため、起業支援金を受け取る権利が確定したのは、起業支援契約を締結した平成22年11月1日ではなく、費用に係る請求書等を甲からX社に提出した日と考える。したがって、起業支援金のうち、800万円は平成22年分、3000万円は平成23年分の所得として取り扱われるべきである。
⑵ また、起業支援契約3条①と2条によると、本件のように、独占販売契約開始日がX社により指定されると、5000万円のうち独占販売契約開始日までに支払われていない部分は、同日に、支払われる。起業支援金の残額は、同日に、権利が確定的に発生するものと考える。したがって、起業支援金の残額1200万円は平成23年分の所得として取り扱われるべきである。
2.起業支援金は、いずれも金銭で支払われているので、受領した金額で評価されるべきである(同法36条1項)。
3.甲は、「X起業大賞」を受賞した、平成22年11月以降、「OKくん」の製造・販売に向けて、作業場の賃借、アルバイトの雇用、試作品の製作を開始し、量産のための製造委託契約の締結、予約キャンペーンの開始等の従事している。これら一連の開業準備行為は、自己の計算と危険において営利を目的とし対価を得て継続的に行う経済活動といえ、それに関する所得は、事業所得に区分されるべきである。そして、起業支援金は、開業準備行為を支援する目的で支給される金銭であり、その活動に関連する収入であるといえ、事業所得に区分されるべきである。
設問1小問⑶について
1.X社普通株式1000株は何年の所得と扱うべきか。
X社は、平成22年11月1日に、甲に普通株式を授与することを約束している。このため、同日、甲はX社に対し普通株式を請求する権利を有しているとも思われる。
しかし、X社の普通株式を甲に授与するためには、会社法上の手続が必要となる(会社法199条、201条など)。また、X社は上場会社であるため、その普通株式は、振替株式であり、甲の証券口座に記録されることによって、甲は、初めて、権利を取得する。このため、上述の権利が確定的に発生したと認められるのは、普通株式が、甲に引き渡された平成23年4月1日であると考える。したがって、X社普通株式1000株は平成23年分の所得と扱うべきである。
2.X社普通株式1000株の収入金額は、収入のあった日(平成23年4月1日)を、その経済的利益を享受した日として、その日の時価を基礎に算出し、1000万円となる(同法36条2項)。
3.X社普通株式1000株の所得区分であるが、奨励金と同様に支給されているため、奨励金と同じ理由から、一時所得に区分すべきであると考える(同法34条1項)。
5.ケースブック租税法〔第6版〕との関係
所得区分、収入金額の評価、収入金額の帰属年度を、複数項目に分けて尋ねる、総合問題のように思えた。別問題で勉強してきたことを前提に、シンプルに解答例を作成してみたが、それなりの分量になってしまった。小問⑴、⑵、⑶に分けて検討するのか、帰属年度、評価、所得区分に分けて検討するのか、悩んだが、採点者は、小問に従った方が、採点しやすいであろうと思い、前者の手順で検討を加えてみた。これまで検討した司法試験の問題のなかで、難しいほうの問題なのではないかと思った。